太田述正コラム#7194(2014.9.21)
<中東イスラム文明の成立(その5)>(2015.1.6公開)

4 イスラム教における正統性と急進性

 (1)総括

 最初に結論を申し上げておきますが、中東イスラム世界においては、下掲の通りです。

 イスラム国>アルカーイダ>イスラム同胞会>ワハビズム>現トルコ/現エジプト>アタチュルクのトルコ
            
 「>」は、正統性の序列を表すと同時に急進性の序列も表しています。
 また、この、右から左に向かってのベクトルが働いています。
 そして、これらは、総ぐるみで、それぞれが、冷戦ないし熱戦関係にあります。
 なお、以上は、スンニ派の話であり、これらが、シーア派(広義)の下掲と、これまた、冷戦ないし熱戦関係にあるのです。

 イラン・イスラーム共和国/ヒズボラ/アラウィ派(シリア)/イラク現政権

 (2)事例検討

  ア アラブの春

 アラブの春なる一連の革命の原因については、一般に下掲のように言われています。

 「アラブの春は、それぞれの諸政府の統治に対する不満によって指嗾されたと広く信じられているが、若干の人々は、大きな所得格差が原因の一つであったかも、と推測している。
 数多くの諸要素・・例えば、独裁制ないし絶対王政、人権諸侵害、・・・政治的腐敗、経済的衰亡、失業、極端な貧困、そして、全人口中で教育ある不満足な若者達が大きな割合を占めているといったいくつかの人口学上の構造的諸要素・・が諸抗議へと導いた。」
http://en.wikipedia.org/wiki/Arab_Spring

 また、多くの国でこの革命が成就した理由については、下掲のように言われています。

 「・・・衛星放送やインターネットの普及で情報は瞬時に伝わり、携帯電話、ツイッター、フェイスブックなどで抗議活動に関する呼びかけなどが行われた。さらにイスラム教の合同礼拝(国民的宗教行事のため禁止は不可能)のため合法的に人が集まり、情報や人々の感情などが直接伝わることも革命を後押しするのに功を奏した。様々な情報に加えて、政権側によるデモの弾圧などで犠牲となった死者の棺は大通りを練り歩き、治安部隊などの行動は周知されることとなった。・・・」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%96%E3%81%AE%E6%98%A5

 全て、その通りではあるものの、それでは、一体、その目的は何だったのでしょうか。
 上掲の英語ウィキペディアにも日本語ウィキペディアにも明確な言及はありません。
 恐らくは、民主主義の実現が目的であることが当然視されているのでしょう。
 しかし、私見では、その目的は、イスラム教的統治、すなわち、イスラム国ないしイスラム帝国の復活だったのであり、民主主義の実現それ自体は目的ではなかったのです。
 イスラム教的統治の実現のためには、普通選挙、それが叶えられない場合は、武力(軍隊の一部または全部を味方につける場合を含む)、或いはこの二つの組み合わせ、を(できうれば一回こっきりの)手段とするわけであり、その限りにおいて、革命の過程において、普通選挙、すなわち、民主主義を標榜することがあった、ということなのです。
 それは、革命が成就した事例の中から、アラブの春の先鞭をつけたチュニジア、及び、中東アラブ世界で最大の人口を誇るエジプトで何が起こったかを思い出せば、明らかでしょう。
 
 「蓋を開けてみると、2011年10月・・・にチュニジアで行われた選挙の結果・・・<イスラム>同胞<会>の影響を受けたイスラーム系政党「アンナハダ」が第一党の地位を獲得することとなった。・・・
 <エジプトでは、>2012年5月に大統領選挙が行われ<たところ>、<イスラム>同胞<会>のムハンマド・<モルシ>がエジプト大統領に選出された」(上掲)

 いや、昨年3月に、チュニジアのアンナハダはシャリアを、新しい憲法の下での立法の主要典拠にはしないと宣言した
http://en.wikipedia.org/wiki/Tunisia
し、同様の考え方を掲げたエジプトのモルシに至っては、昨年のクーデタで大統領職を逐われ、その後の(不公正であったとはいえ、)大統領選で、クーデタの首魁たる世俗的なシーシーが新大統領が選出された
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%96%E3%81%AE%E6%98%A5 前掲
ではないか、と反論される方がおられるかもしれません。
 しかし、チュニジアでは、昨年2月に、アンナハダ批判の急先鋒であった、世俗派で左翼の野党党首が暗殺されています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Tunisia 前掲
 また、エジプトのシーシー政権の「恐るべき」実態について、ちょっと長いけれど、下掲をご覧ください。

 「抗議者達が、昨年、成功裡にムハンマド・モルシの打倒を呼びかけた時、彼らは修辞の一部で、エジプトでの最初の民主主義的に選出された大統領と彼のイスラム同胞会は、この国を神政制に転換しようとしている、との諸恐怖を援用していた。
 しかし、それから14か月経った現在、宗教と政治は、いまだかつてないほど分かちがたいものとなり、政府内のモルシの後継者達はその線を推し進めている。
 エジプトの青年省の官僚であるニーマト・サティ(Neamat Saty)の仕事は、それがどんなものかを示している。
 彼女は、青年達の間の無神論と闘う任務部隊を設立しつつある。
 彼女の諸計画の下では、何百人もの、講師達、宗教指導者達、及び心理学者達が来年27の諸州に赴き、二つの極端主義(extremism)の二つの顔であると彼女が言うところの、聖戦主義(jihadism)と無神論、に青年達が転向することのないように働きかけることになっている。
 「無神論者達は、復活も、天国も地獄もないと言っており、よって、彼らは、自分達が欲することなら何でもやってよいと考えている」とサティは言った。
 「人は、死後の世界を信じないと、人生における諸限界を持たないことになり、それは社会の中で諸問題を引き起こす」と。・・・
 先月、法務省の一環であって、宗教的諸布告(edicts)を発出するダル・エル=イフタ(Dar el-Ifta)は、Isisの極端主義を批判したかもしれないが、同時に、ベリーダンスと男女間のオンライン通信を二つながら非難もした。
 これらの他にも、涜神の諸嫌疑による諸有罪判決は続いているし、エジプトの同性愛コミュニティの弾圧は強化されてきた。
 より広範には、宗教は、国家に対する従属を推進するために用いられている。
 説教師達が、政府の諸活動を正当化するために派遣されてきたし、他の何千人もの人々が、政府によってイスラム同胞会や他のイスラム主義的諸集団寄りであり過ぎると見なされた場合、国立諸モスクで働くことを禁じられてきた。
 アズハル(Al-Azhar)大学の長・・全球的なスンニ派学の権威たる職位(seat of global Sunni learning)・・は、この国の8,000万人の人々の約5%を占めるエジプトのコプト教徒達の精神的指導者であるところの、法王テオドロス(Theodoros)2世ともども、国家主導による諸権利の蹂躙を無視しつつ、この国家の物語を補強することを助けてきた。・・・
 「これらの諸動きは、「世俗主義」という言葉がエジプトの文脈の中にまさに属さないことを、根源から指し示している」と、宗教とエジプト国家について幅広く執筆してきた、米国のジョージ・ワシントン大学教授のナサン・ブラウン(Nathan Brown)は言った。
 宗教の政治からの分離や公共生活からの区分(compartmentalising)について語る者は皆無だ。それは論点ではないのだ。論点と言えば、誰が宗教のために語るか、なのだ」と。
 ブラウンにとって、現在の政府とモルシの行政府との諸姿勢の主要な違いは、国家と結び付いている宗教的諸制度へのアプローチの仕方なのだ。
 新体制の方は、アズハル・・彼らはエジプトのスンニ派に対してかなりの影響力を有している・・、及び宗教省、にいる現在の人々を梃入れすることを欲している。
 それに対して、モルシは、究極的には、これらの人々をイスラム同胞会の思想の申し子達(scions)によって置き換えることを欲していた。
 イスラム同胞会は、国家の外からやってきた」とブラウンは言った。
 「同会がイスラムが何たるかを理解しようと欲した場合、同会は、国家機関(apparatus)の頂点の所には行かない。
 同会は、次等階層の人々の所か国家の外の人々の所へ行くことになる。
 この違いが我々の眼前で展開している。
 すなわち、エジプト人達の宗教的路線を導く任務を、[現在の]宗教学者達の助力の下に、自分の諸肩に背負っているのは<今や>国家なのだ」と。
 他の人々は、モルシが打倒されて以来、宗教的扇動が減少したと報じている。
 モルシの下では、イスラム主義者達は、議会とメディアで反動的諸声明をやりたい放題だった。
 これは、宗教的諸少数派に対する扇動を許容する環境をもたらし、その挙句、警察と自警団員達によってカイロのコプト派大聖堂の包囲、及び、エジプトでは完全な少数派のシーア派の4名のリンチ、が発生した<ところ、こういったことは今ではなくなっている>。」
http://www.theguardian.com/world/2014/sep/18/religion-still-leads-the-way-in-post-morsi-gypt
(9月20日アクセス)

(続く)