太田述正コラム#7160(2014.9.4)
<新しい人類史?(その2)>(2014.12.20公開)

 (2)ハラリの指摘の要点

 「<ハラリの授業カリキュラム(シラバス)には、以下のように記されている。>

◎我々が世界を統治しているのは、神々、諸国家、通貨、そして諸人権といった、純粋に我々自身の想像の中に存在している諸事を信じることができる唯一の動物だからだ。

⇒ハラリの念頭にあるところの、唯一神たる神の観念どころか、神々の観念でさえ日本人の神々の観念は包摂しきれないだけでなく、日本では、信用取引が中心で通貨が余り用いられない時代が長く続いた、或いはまた、本来的には人権概念もまた存立しえない、なんてことは、恐らく、ハラリの想像を絶しているでしょうね。(太田)

◎人間達は生態学的連続殺人鬼達なのであり、石器時代の道具群だけでさえ、我々の先祖達は、農業の到来より相当前までに、地球上の大きな地上諸哺乳類の半分を絶滅させた。

⇒このハラリの指摘の正否を調べてみました。

 「約1万年前,更新世と完新世の境に上記の大陸に起きた大型哺乳類の絶滅,すなわち第四紀の第2次集団絶滅は,自然現象ではなく人類に起因するとの説が近年有力になった。この説では,約1万3000年前までの人類は狩猟の専従者で,他の大型捕食者同様,人口が獲物の大型草食獣の増減に支配されていた。だがその後,人類は狩猟と農耕の兼業者となった。このため獲物が減っても人口は減らなくなり,同じ数で獲物を狩り続けた。しかも狩猟技術が急速に進歩したため大型草食獣の多くが絶滅するに至ったのである。ヨーロッパのマンモス,北アメリカのマストドン,ウマ類,ラクダ類などは,こうした人類の狩猟によって絶滅したとみられている。」
http://wikimatome.com/wiki/%E7%B5%B6%E6%BB%85%E7%94%9F%E7%89%A9
 「しかし・・・日本列島<で、>・・・後期更新世後期から完新世にかけて,石器や土器などの考古遺物がどのように変化したかを調査し,その変化と哺乳類の絶滅との関係を調査した<ところ>,考古遺物の変化は漸移的で,北アメリカで見られるような劇的な変化はなく,日本列島での哺乳類の絶滅現象は,「環境の変化・過剰殺戮複合説」(Stuart,1991)で説明できる可能性があることがわかった。」
https://kaken.nii.ac.jp/d/p/08640590.ja.html
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 「第四紀<とは>・・・258万8000年前から現在までの期間。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC%E5%9B%9B%E7%B4%80
 「後期更新世<とは、>・・・12万6000〜 (西暦2000年から数えて) 1万1700年前」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%B4%E6%96%B0%E4%B8%96
 「完新世<とは>・・・最終氷期が終わる約1万年前から現在まで(近未来も含む)」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%8C%E6%96%B0%E4%B8%96
 なお、(日本列島を除く)アジアを対象とした研究は余りなされていないようだ。
https://kaken.nii.ac.jp/d/p/08640590.ja.html 前掲
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 上掲から、「地球上の大きな地上諸哺乳類の半分<の>絶滅」が人間によるものであるかどうかは分かっていないようなので、ハラリがそう断定しているのはおかしいですね。
 なお、上掲で私が注目したのは、日本列島においては、農業到来後も哺乳類の大きな減少が見られなかったらしいことです。
 日本では、農業革命の前に縄文社会なる定着社会が成立したので、居住地の近くでしか狩猟採集を行わなくなったこと、狩猟採集のうち(鳥類は捨象するとして)相対的に遠出をしなければならない哺乳類の狩猟に比して採集と漁労(魚類の狩猟)への依存度が大きくなったこと、そして、水田耕作が到来して弥生社会となった後も、採集が耕作に切り替わっただけで、哺乳類の狩猟依存度は小さいまま推移し、(その結果、人々がより健康かつ長寿になったという経験から、)人口増加後もむしろ哺乳類狩猟への依存度は低下を続けた、そのため、日本列島の哺乳類は、北アメリカやヨーロッパにおけるような、大きな減少を免れた、というのが私の取りあえずの仮説です。(太田)

◎農業革命は、歴史における最大の詐欺であり、小麦はサピエンス達を飼育化したのであってその逆ではないのだ。

⇒稲の飼育化の方が小麦のそれよりも先行していたという説がでてきていることをハラリは知らないと見えます。
 なお、農業革命が最大の詐欺であったことについては、私も同感ですが、詐欺の中身が私とは違うようです。(太田)

◎通貨は、これまで考案されたものの中で、最も普遍的にして多元主義的な(pluralistic)相互信頼のシステムだ。
 通貨は、全員が信頼する唯一のものなのだ。

⇒日本のような人間主義社会にあっては、通貨・・ニセ通貨がありうる・・なんぞではなく、人間そのものが信頼の最大の主体であり客体なのですがね。(太田)

◎帝国は、人間達が発明した最も成功を収めた政治システムであり、我々の現在の時代における反帝国的感情は恐らく短期間の逸脱なのだろう。

⇒「現在の時代における反帝国的感情」は、ナショナリズムやリージョナリズム(地域主義)の興隆を指しているのでしょうが、そんなものが見られるのは、基本的に、欧州文明地域だけであるように思います。(太田)

◎資本主義は単なる経済理論というよりも一つの宗教なのであり、現在までの最も成功を収めた宗教なのだ。

⇒断じて違います。
 資本主義は個人主義と裏腹の関係にあるところの、イギリス人の生活様式(English way of life)であり、イギリス以外に全球に普及した「資本主義」は、(米「文明」におけるそれを除けば、)個人主義抜きであることから、資本主義もどき、と形容すべきでしょう。(太田)

◎近代農業における動物たちの扱いは、歴史における最悪の犯罪であるということになるかもしれない。

◎我々は我々の先祖達よりもはるかに強力だが、我々はさしてより幸福ではない。

⇒私も全く同感です。
 しかし、そんなことは、お釈迦さまを筆頭として、枢軸の時代に、多くの知的偉人達が既に喝破していましたよ。(太田)

◎人間達はすぐに消滅することだろう。
 新規の諸テクノロジーでもって、数世紀先ないしひょっとしたら数十年先までに、人間達は、自分達自身を、神のごとき諸質と諸能力を享受するところの、完全に異なった諸存在へとアップグレードすることだろう。
 歴史は、人間達が神々を発明した時に始まったが、人間達が神々になった時に終わることだろう。」(D)

⇒そんな理屈で行けば、おカミさん達や現人神がいるだけでなく、そもそも人は死ねばみんな神になる、という日本文明は、始まりも終わりもないことになりそうですが・・。(太田)

(続く)