太田述正コラム#7132(2014.8.21)
<フィリップ2世の帝国(その1)>(2014.12.6公開)

1 始めに

 引き続き、セミナーと、かする程度しか関係がないシリーズをお送りします。
 ヒュー・トーマス(Hugh Thomas)の『果てのない世界--フィリップ2世の全球的帝国(World Without End: The Global Empire of Philip II)』の概要を書評群をもとにご紹介し、私のコメントを付そうと思います。

A:http://www.ft.com/intl/cms/s/2/357f566c-05cf-11e4-8b94-00144feab7de.html#axzz37DRic99N
(7月12日アクセス)
B:http://www.theguardian.com/books/2014/aug/01/world-without-end-global-empire-philip-ii-hugh-thomas-review
(8月5日アクセス。以下同じ)
C:http://www.telegraph.co.uk/culture/books/bookreviews/10959221/World-Without-End-the-Global-Empire-of-Philip-II-by-Hugh-Thomas-review-overwhelmed-by-its-own-density.html
D:http://www.spectator.co.uk/books/9263641/world-without-end-by-hugh-thomas-review/
http://www.thesundaytimes.co.uk/sto/culture/books/non_fiction/article1437394.ece(無償公開していない。以下同じ)
http://www.thetimes.co.uk/tto/arts/books/non-fiction/article4148105.ece

 なお、トーマス(1931年〜)は、イギリスの歴史学者・作家・・3つ小説を書いている・・であり、ケンブリッジ大学卒、仏ソルボンヌ大学でも学び、英外務省職員、英リーディング(Reading)大教授、ロンドンのCentre for Policy Studies所長(Chairman)等を務め、一代男爵を授けられる、という人物です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Hugh_Thomas_(writer)
 彼の年齢に注目してください。

2 スペイン帝国

 (1)序

 「『果てのない世界』は、スペイン帝国についてのトーマスの3部作<(注1)>の第3巻だ。」(A)

 (注1)第1巻は『黄金の川々(Rivers of Gold 』(2003年)、第2巻The Golden Age: The Spanish Empire of Charles V (2010)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Hugh_Thomas_(writer)
 私のレーダーにこの2巻が検知されなかったということは、書評でかなり大きく取り上げられたのは今回が初めて、ということか。

 「これは、スペイン海外帝国の興隆を、15世紀末におけるそのカリブ海地域における始まりから、1598年のフィリップ2世の死に至るまでの年代記を記す、浩瀚な物語の最終回だ。」(B)

 (2)フィリップ2世と彼の帝国

 「イギリスの国王の誰がエルサレム国王たることを主張し、真剣に支那を獲得することを計画したか?
 ウィンチェスター(Winchester)<(注2)>での1554年の、37歳の女王メアリー1世との結婚に際して、すぐにフィリップ2世となるところの、フィリップ皇太子は、イギリスとアイルランドの国王の称号を与えられたことを覚えておくと役に立つ。

 (注2)アングロサクソン時代の国王は領地内を巡回していたので首都があったわけではないが、一般に、イギリス最初の統一王朝となったウェセックスの首都であったということになっている市。
http://en.wikipedia.org/wiki/Winchester
 なお、結婚式が行われたのは、同市の(現在では作家のジェーン・オースティンの墓所として知られている)ウィンチェスター大聖堂。同大聖堂では、それまでも、イギリス国王の葬儀、戴冠式、結婚式が行われた前例があった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mary_I_of_England
http://en.wikipedia.org/wiki/Winchester_Cathedral

 彼の父親である、神聖ローマ皇帝のカール5世・・メアリーの従兄弟・・は既に彼に聖なる地<(エルサレム)>に対する、彼の王朝の請求権を贈呈していた。」(C)

 「フィリップ2世・・・は、音楽好きで、「10のクラヴィコード (Clavichord )<(注3)>、13のビウエラ(Vihuela)<(注4)>、そして16のバグパイプ」を所有していた。

 (注3)「鍵盤楽器の一種。14世紀頃に発明され、オルガンやチェンバロ、ピアノなどと並行して、16世紀から18世紀にかけて広く使用された。特にドイツ語圏の国々、スカンジナビア半島およびイベリア半島において盛んに用いられた。・・・長方形の箱形の楽器で、テーブルや専用の台などの上において用いる。音量はチェンバロなどに比べると小さい。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89
 (注4)「ビウエラ・・・に関する最初の文献中での記述は、15世紀のアラゴン王国において見られる。16世紀になるとルイス・デ・ミランの1536年の曲集 Libro de musica de vihuela de mano intitulado El maestro に始まり、多くのビウエラ用曲集が出版された。・・・スペイン・ポルトガルと、その支配下にあったシチリア、ナポリ、中南米でかなり広く使われたものと思われる。・・・当時「ビウエラ」が指し示す楽器の範囲はかなり広く、撥弦楽器から擦弦楽器に至るまで、種々の楽器がビウエラと呼ばれていた。・・・<そのうちの、>擦弦楽器であるビウエラ・デ・アルコがヴィオラ・ダ・ガンバの祖先と見なせる」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%83%A9
 「ヴィオラ・ダ・ガンバ(イタリア語:Viola da gamba)は、16世紀から18世紀に<欧州>で用いられた擦弦楽器。・・・「ヴィオラ・ダ・ガンバ」とは「脚のヴィオラ」の意味で、楽器を脚で支えることに由来する(これに対して「ヴィオラ・ダ・ブラッチョ(=腕のヴィオラ)」と呼ばれたのがヴァイオリン属)。この場合の「ヴィオラ」は擦弦楽器の総称を意味する。ヴィオラ・ダ・ガンバはヴァイオリン属(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)よりも歴史がやや古く、外観がヴァイオリン属に似ていること、18世紀後半にいったん完全に廃れてしまったことから、しばしばヴァイオリン属の原型の楽器と誤解されるが、両者は異なる系統である。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%90

 <また、>彼は、14,000冊の図書館を持っており、そのことを、彼の6,000もの聖遺物群よりも自慢していたことだろう。
 更に、彼は、ティツィアーノ(Titian)<(注5)>とボス(Bosch)<(注6)>を評価していた。」(D)

 (注5)1488/1490頃〜1576年。「盛期ルネサンスのイタリア人画家。ヴェネツィア派で最も重要な画家の一人である。・・・1550年から死去する1576年までの16年間、肖像画家としてフェリペ2世のもとで過ごすことが多かった。・・・1550年にスペイン王<フィリップ>2世を描いた肖像画が<イギリス>へ送られ、<フィリップ>2世と<イギリス>女王メアリー1世との結婚に大きな役割を果たした。・・・<フィリップ>2世の依頼で、ティツィアーノは宗教画と、「ポエジア」と呼ばれる、オウィディウスの『変身物語』に題材をとった一連の古代神話連作絵画を制作した。現在「ポエジア」の作品はティツィアーノの最高傑作とされている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%84%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%8E%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%AA%E3%82%AA
 (注6)1450?〜1516年。「ルネサンス期のネーデルラント(フランドル)の画家。初期フランドル派に分類される。・・・作品<の>・・・ほとんどが16世紀の宗教改革運動での偶像破壊のあおりを受けて滅失した。現在、30点ほどの作品が残されている。聖書に基づく寓話を絵にしたような作品が多いが、シュルレアリスムを思わせるような、それぞれの主題も謎に満ちている。スペイン王の<フィリップ>2世はボスの絵の愛好者で、ボスの故郷から遠く離れたマドリードに傑作の多くがある(現在、10点がプラド美術館蔵)のもそのためである。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%A8%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%82%B9

(続く)