太田述正コラム#7009(2014.6.20)
<第一次世界大戦がもたらしたもの(その1)>(2014.10.5公開)

1 始めに

 アダム・トゥーズ(Adam Tooze)の『大洪水--第一次世界大戦と全球的秩序の再編(The Deluge: The Great War and the Remaking of Global Order 1916-1931)』のさわりをご紹介し、私のコメントを付します。
 残念ながら、現時点における3つの書評中、2つは無料公開部分が冒頭だけなので、殆んど、ガーディアン掲載の書評だけに拠らざるをえなかったことを、最初にお断りしておきます。

A:http://www.theguardian.com/books/2014/jun/19/the-deluge-great-war-remaking-of-global-order-adam-tooze-review
(6月20日アクセス)
B:http://www.howtoacademy.com/history-politics/end-world-war-1-2552?fromcat=7
(本と著者の紹介)
http://www.thetimes.co.uk/tto/arts/books/non-fiction/article4106873.ece
(冒頭部分のみ無料公開(以下同じ)。引用した部分なし)
C:http://www.thesundaytimes.co.uk/sto/culture/books/non_fiction/article1413269.ece

 トゥーズは、ケンブリッジ大で長く教鞭を執った後、現在、エール大歴史学教授をしています。(B)

2 第一次世界大戦がもたらしたもの

 (1)総括

 「この本の中心的主題は、第一次世界大戦の後、米国が、その巨大な新しい富だけが果たす(exercise)ことが可能であったところの、経済的・政治的な指導的な役割<を果たして欲しいと>の申し出をけとばし(spurn)て人類に悲惨な(woeful)諸帰結をもたらしたことへの弾劾(denunciation)だ。
 それを行うための、現金、道徳的権威、そして政治的手腕を欠いていたところの、<米国の>元の欧州諸同盟国が弁済能力と秩序の回復を追求する、というのが、1918年から1939年にかけての諸出来事の物語の多くだった。
 「どうして欧米の諸大国が、統御力(grip)をかくも華々しく失ったのだろうか」とトゥーズは問いただす(demand)。
 「その答えは、米国が<これら諸国の>諸努力に協力することに失敗した点に求められなければならない」と。」(C)

⇒まさに、わが意を得たり、ですね。(太田)

 (2)第一次世界大戦がもたらしたもの

 「<第一次世界>大戦のさなかに、金融力と、とりわけ海軍力、が大西洋を渡り、その後二度と戻ることはなかった。
 この状況の下、ウッドロー・ウィルソン(Woodrow Wilson)<米大統領>は、歴史学者達がそう言うのを常としてきたところの、自由貿易秩序の覇権国として英国に取って代わること、だけを追求したのではなかった。
 そうではなく、彼は、この戦争それ自体の原因として彼が非難したところの、帝国主義大国の競争という慣行のかなたへと国際システムの総体を移動させたいと欲したのだ。
 よって、彼は、一方に加担することを拒否し、戦争の間中、英仏に対して大いに批判的であり続け、自国を、どちらかの側の支援者としてではなく、人類の運命(destiny)の調停者として位置づけることを追求した。
 ドイツ軍部の愚かさと彼らの無制限潜水艦戦の再開だけが、彼をして、しぶしぶ、協商(entente)諸大国側へと押しやったのだ。
 しかし、彼のヴィジョンは、世界の人々に対して共存する新しい方法を教えたいというもので常にあり続けた。
 その<ヴィジョンの>力は、それを下支え(underpin)していた強力な工業機構(machine)という諸資源にだけでなく、その基本的なもっともらしさ(plausibility)にも立脚して(lay)いた。
 他の多くの諸国の政治家達は、土地を巡って闘うことはもはや意味がないとの彼の根本的洞察を買っていた。
 すなわち、彼らは、諸国境を超えた、新しく制度化された協力の諸形態によって裏書きされたところの、開かれた金融秩序に立脚した国際システムというヴィジョンを共有したのだ。
 トゥーズは、この観念は、米国が国際連盟加盟に失敗したにもかかわらず、生き残り、1920年代を通じて、英、仏、日、独の政治家達は、みんな、それを強力な達成とみなし、それが機能するように自分達の役割を演じることを追求したことを思い起こさせてくれる。
 実際、国際連盟に加入することに失敗したことは、米国人達をして、自分達自身の不可欠性を単に再確認させただけだった。
 すなわち、欧州経済の再建にとって意味を持った(counted for)のは、<米国の>国際連盟加盟ではなく、JPモルガンとウォール街の諸資源の諸富(riches)だったのだ。

⇒どれだけこの書評子がこの本を忠実に要約紹介しているかは分かりませんが、(引用しなかった部分で、この本自身が、米国が南北戦争後の国内再建にかかずらわっていたこともあり、海外における帝国主義的植民地獲得競争に決定的に乗り遅れてしまったことに言及しているらしいところ、)経済力において英国を抜き去ってから、米国は、海外における植民地の多寡に左右されない形での全球的覇権国化を目指しており、国際連盟に加盟しなかったのも、それが、そのような米国の野心を掣肘することになりかねないことを嫌ったためである、と私は解しており、トゥーズは、まだまだ米国に対して甘い、と思います。(太田)

(続く)