太田述正コラム#6957(2014.5.25)
<ピケティv.FTの大論争(その2)>(2014.9.9公開)

4 岡目

 FT自身は、次のように総括しています。

 「論点は、今年の最も影響力ある経済学の本が出来の悪い数学の上に構築されているのかどうかだ。
 ピケティ教授の中心的テーマは、富の諸不平等が、第一次世界大戦の前に最後に見られた諸水準まで戻りつつある、というものだ。」
http://www.nytimes.com/2014/05/24/upshot/did-piketty-get-his-math-wrong.html?hp&_r=0

 NYタイムスは、ブルッキングス研究所のシニア・フェローにしてミシガン大学の経済学・公共政策教授のジャスティン・ウォルファーズ(Justin Wolfers)のコラムを載せました。

 「ファイナンシャルタイムスの分析は間違いなく挑発的だ。
 同紙は重要な諸疑問を投げかけてはいるけれど、私は同紙がそれ以上のことをやったという確信を持てない。
 ピケティ氏は既にかなり一般的な返答をFTの分析に対して書いているが、まだ、挙げられた特定の諸嫌疑に対する返答は行っていない。
 諸誤りが存在するのであればそれらを認め、擁護できる場合は彼のデータ選択を擁護するところの、より長くより詳細な一つ一つへの返答をピケティ氏が適当な時に書いてくれることを希望する。」
http://www.nytimes.com/2014/05/25/upshot/a-new-critique-of-piketty-has-its-own-shortcomings.html

 ガーディアンは、一日遅れで本件に関する記事を載せたところ、その記事のキモの部分を、一専門家のブログから下掲の転載をすることだけでお茶を濁しています。

 「新しい証拠と理論の照射の下で、時間とともに枠組みが修正されるであろうことは疑いないけれど、我々は、今後長期間にわたって、この本のレンズを通して、富の集中と経済的かつ社会的変化のより幅広い諸側面を眺めて行くことになる可能性が高いように見える。」
http://www.theguardian.com/business/2014/may/24/thomas-picketty-economics-data-errors
(5月25日アクセス)

 どちらも、ピケティに甘く、歯切れが悪いこと夥しいのは、NYタイムスにせよ、ガーディアンにせよ、左翼を標榜しているところの、米英それぞれを代表する高級紙であり、両紙とも、かねてから、米英それぞれにおける所得や富の不平等の進展に警鐘を鳴らしてきたことから、自分達の主張に援護射撃を行ってくれているピケティの本に対する評価をそう簡単には改められないからでしょう。

5 どちらが正しいのか

 では、どちらが正しいのでしょうか。
 ワシントンポストは本紙の電子版ではまだ沈黙を守ったままですが、系列のスレート誌では、事実上、FTの側に軍配を上げています。

 「若干の諸国に関する両者の不一致点群(disagreements)はかなり取るに足らないように見える。
 例えば、フランスに関するデータに関し、ピケティの趨勢線を青で、FTによる訂正後のバージョンを赤で示したものがこれだ。
 結局のところ、二つは基本的に重なり合っている。・・・
 <(典拠を開き、当該グラフを始めとするグラフ群を自ら確認されたい。なお、その他のグラフの青と赤も基本的に同じ意味だ。(太田)>
 はるかに重要な論議のある点は英国だ。
 FTは、ピケティの諸グラフは、彼のその裏付けたる英国のデータと、要は「合致しない(do not match)」のであって、公式諸推計は、1970年代以来の同国の富の集中に関しては、顕著な増加を示してはいない、と主張している。
 この英国の訂正後のデータが図柄の中に包含されれば、富の不平等が欧州全体で増大しつつある、ということの証拠は消えてしまう、とFTは主張している。・・・
 FTの報告書について結論を下すのは、いささか早過ぎる。
 しかし、英国についての不一致は神経に触る。
 そして、ピケティの本が、資本主義の本性(nature)について、普遍的諸主張を行うことを追求している以上は、彼は、より詳細な論駁を提供する必要がある。」
http://www.slate.com/blogs/moneybox/2014/05/23/financial_times_on_piketty_his_data_is_wrong.html

 確かに、英国の訂正後の趨勢線を見ると、サッチャリズムのもとでほんのちょっと不平等度が増したけれど、その後、不平等度は、長期低減趨勢線に沿った高さまで減ってきているように読み取れますし、フランスの訂正後の趨勢線も、このところの不平等度の高まりは、長期低減趨勢線を覆す程度には至っていないように読み取れます。
 他方、どうやら、米国に関しては、ピケティの主張は正しいように思われます。
 私自身は、ピケティの本は、ゴミ箱行きが決した、と判断しました。
 そして、改めて、英国、(より正確にはイギリス、)と米国の(恐らく文明の違いに由来するところの、)大きな違いに注目せざるをえませんし、英国とフランスを始めとする欧州諸国との間の微妙な違いも、見た目以上に大きいのではないか、と改めて感じさせられた次第です。

(完)