太田述正コラム#6759(2014.2.15)
<資本主義と不平等(その1)>(2014.6.2公開)

1 始めに

 昨年、フランス語で出版され、英訳が今年3月に出版される予定の、英訳後のタイトルで言うところの、トマ・ピケティ(Thomas Piketty)の『21世紀における資本(Capital in the Twenty-First Century)』のさわりを、書評類をもとにご紹介し、私のコメントを付けたいと思います。

A:http://www.nytimes.com/2014/01/29/opinion/capitalism-vs-democracy.html?ref=opinion&_r=0
(1月29日アクセス)
B:http://equitablegrowth.org/2013/12/18/1348/tomas-piketty-capital-in-the-twenty-first-centuryinequality-and-capitalism-in-the-long-run-the-honest-broker
(1月31日アクセス。以下同じ)
C:http://mpra.ub.uni-muenchen.de/52384/1/MPRA_paper_52384.pdf
D:http://www.motherjones.com/kevin-drum/2014/01/thomas-piketty-has-grim-view-out-plutocratic-future
E:http://www.economist.com/blogs/freeexchange/2014/01/inequality
F:http://www.economist.com/news/finance-and-economics/21592635-revisiting-old-argument-about-impact-capitalism-all-men-are-created

 なお、ピケティ(1971年〜)は、「社会党 (フランス)系のフランスの経済学者。・・・<卒業したパリの高等師範学校、及びLSEの>経済学博士。・・・経済的不平等の専門家であり、特に歴史比較の観点からの研究を行っている。・・・パリ経済学校 (Ecole d'economie de Paris, EEP) 設立の中心人物であり、現在はその教授である。・・・ピケティが取り上げた、所得上位層の所得が総所得に占める比率の推移をめぐる研究は、2011年のウォール街を占拠せよ運動に、大きな影響を与えた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%BB%E3%83%94%E3%82%B1%E3%83%86%E3%82%A3 (注1)

 (注1)当然、彼のフランス語ウィキペディアは存在する
http://fr.wikipedia.org/wiki/Thomas_Piketty
が、英語ウィキペディアは存在しない。
 英語圏におけるフランスの位置づけに比較して、日本語圏でのフランスの位置づけは、現在に至ってもなお高いようだ。

という人物です。
 便宜上、書評Fからの抜粋の紹介を軸にして進めたいと思います。

2 資本主義と不平等

 「産業革命の初期において、賃金は上昇せず富が集中したことから、デーヴィッド・リカード(David Ricardo)<(注2)>とカール・マルクス(Karl Marx)<(注3)>は、資本主義の持続可能性に疑問を投げかけた。

 (注2)1772〜1823年。ユダヤ系イギリス人。「自由貿易を擁護する理論を唱えたイギリスの経済学者。各国が比較優位に立つ産品を重点的に輸出する事で経済厚生は高まる、とする「比較生産費説」を主張した。労働価値説の立場に立った。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89
 (注3)1818〜83年。ユダヤ系プロイセン人。1845年以降は無国籍。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%B9

 20世紀の経済学者達は、第二次世界大戦後の「大<貧富差>圧縮(Great Compression)」<時代>の只中において、分配諸問題への関心を失った。
 しかし、最近の不平等度の亢進により、新しい経済学者達は、マルクスやリカードがそうしたように、<分配諸問題を>考えるようになった。
 資本主義の果実がより広範に分配されることを妨げている諸力は何であるかについて。・・・
 彼の<この本の>タイトルは、マルクスの主著の<『資本論』の>引喩だ。
 しかし、彼はこの二人に比して優位にある。
 2世紀にもわたる具体的データが与えられていることだ。
 この本は、20世紀の通説(conventional wisdom)が甚だしく間違っていることを示唆している。
 ノーベル賞受賞経済学者のサイモン・クズネッツ(Simon Kuznets)<(注4)>が1950年代に、経済が成熟すると不平等度は低減する、と主張したがそうは見えない、と。

 (注4)1901〜85年。ベラルス生まれのユダヤ系米国人。米コロンビア大で修士、博士。
http://en.wikipedia.org/wiki/Simon_Kuznets

 また、もう一人の経済学者であるニコラス・カルドア(Nicholas Kaldor)<(注5)>が経済成長の基軸的事実であると公言したところの、所得フローの資本に対する割合が時を超えて概ね変わらないということについても、我々はそんな期待をすべきではない、と。・・・

 (注5)1908〜86年。ハンガリー生まれのユダヤ系イギリス人。LSE卒。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%A2

→経済学の祖と言えるアダム・スミスこそユダヤ系ではありませんが、ここで登場した4人の著名な経済学者達は、全てユダヤ系であり、ユダヤ人の上澄みの優秀さと、キリスト教圏において、実業の世界からユダヤ人が長らく締め出されていて、金貸業等に従事せざるをえない時代が長く続いたこと、を改めて思い出させてくれます。(太田)

 ピケティ氏の分析の肝は、特定の経済における、資本(ないしはそれと等価であるところの富)の年間産出に対する比率にある。
 1700年から第一次世界大戦まで、西欧の富の総額(stock)は国民所得の700%前後で推移した。
 時間が経つにつれて、富の内訳は変化した<のだが・・>。
 <すなわち、>農地の重要性は減少する一方で、工業資本・・諸工場、機械、知的財産権・・が注目を集めるに至った。・・・
 1914年より前の諸経済は極めて不平等だった。
 1910年には、欧州の家庭(household)群の上位10%が全富の90%をコントロールしていた。
 賃貸料と資本からの配当、というフローが所得の高度な不平等に貢献した。
 すなわち、上位10%が全所得の45%超を獲得していたのだ。
 ピケティ氏の本は、第一次世界大戦が勃発した時点で、不平等度が自然に減少していくかすかな兆候すらなかったことを示唆している。
 <ところが、>1914年から1950年までの間の諸戦争と諸恐慌は、富者を地上へと引きずりおろした。
 <これに加えて、>諸戦争は、資本の破壊、国有化、課税、そしてインフレをもたらしたし、大恐慌は、資本の諸喪失と破産を通じて諸財産を破壊したのだ。・・・

(続く)