太田述正コラム#6713(2014.1.23)
<『「里山資本主義」のススメ』を読む(その6)>(2014.5.10公開)

 「いつしか・・・山口県南東部、瀬戸内海に浮かぶ・・・周防大島は、人口における65歳以上の割合を示す高齢化率が・・・日本で最も・・・高い自治体の一つとなっ<てい>た・・・。
 ところが、この10年余りでにわかに変化がみられるようになった。・・・近年、島に移住する人が増えているというのである。・・・
 松嶋匡史(ただし)さん<が>・・・この過疎の島で挑戦しているのは、カフェを併設したジャム屋さん・・・だ。・・・
 山口市からも広島市からも離れたへんぴな場所に客<が>来<てい>る<のだ。>・・・
 もともと京都出身の松嶋さん。2006年、勤めていた電力会社を辞めてIターン<(注8)>、東京から・・・妻の父親<が住んでいて>・・・原料となる果樹がすぐ身近にある・・・周防大島にやってきて店を開いた。・・・

 (注8)「元参議院議員の小山峰男が長野県社会部長時代に命名したとされる。人の動きを地図上に示すとアルファベットのI字状となることにちなむが、起点から他の場所を経由して元へ戻るわけではないので、「ターン」という言葉を使うのは本来は誤用である。元は出身地への移住を指す「Uターン現象」という語が先に使われ、これに倣う形で「Iターン現象」という語が「作られた」のが実情である。
 Iターン現象を定義する意味は、過疎化の進んだ村落(農山漁村)においても、その地域の特性を発揮すれば、定住人口の誘致は決して不可能ではないということにある。・・・人口減に悩む地方自治体の中には、Iターン希望者の存在を視野に入れ、地元の林業組合や漁業組合と共同企画で具体的な仕事(林業の仕事の就職先、漁師の見習いの仕事の場など)を用意、様々な好条件(住宅の格安提供、新築集合住宅の無料貸与、教育費の無料化、子育て支援費の支給、医療費の無料化など)も併せてパッケージ化した企画を用意し、はっきりとIターン希望者募集という形で広報することも行われるようになっている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/I%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B3%E7%8F%BE%E8%B1%A1

 松嶋さんが選んだのは、便利な国道沿いではなく、静かな海辺だった。・・・
 「都市部から来ると、海が見えるところでコーヒーを飲みたいとか、ありますよね。ここならいいなって感じだったんです。僕にとっては」・・・
 経済成長のために、地域を安価な労働力や安価な原材料の供給地とみるのではなく、地域に利益が還元される形で物づくりを行う。ただし、・・・自分たちも、ちゃんと利益をあげる。その仕組みを松嶋さんは一生懸命考えた。・・・
 まず、松嶋さんは島を回りながら、生産者との交流を深めた。・・・
 ヒントをくれるのは柑橘農家ばかりではない。・・・東和金時という品種のサツマイモが・・・栽培されていること<も>知った。・・・
 松嶋さんは、原料となる果物は<従来の10倍もの>高い価格で買い取ることにした。・・・
 ジャム作りでは、徹底的に手作りにもこだわっている。・・・人手をかけた方が消費者にアピールできることももちろんあるが、その方が地元の雇用につながるのだ。・・・
 松嶋さんが販売するジャムの値段は・・・大手メーカーの大量生産品に比べると格段に高い。しかし、・・・飛ぶように売れ続け・・・ている。・・・
 <また、>福岡で調理師をしていた20代の笠原隆史さんは、周防大島へ戻ったのち、果樹の多い島では良質の蜂蜜が採れると考え、養蜂業へと転身した。・・・
 40代の山崎浩一さんは18歳のときに周防大島を離れ、広島・フランス・東京で料理人の腕を磨いたのち、Uターン。島内外で常に満員御礼の人気レストランを複数経営している。・・・<彼は、>みかん鍋も開発。島の新たな特産に育てようとしている。
 ・・・30代の新村(しんむら)一成さんは、広島の食品加工会社で働いていたが、結婚を機に島に帰り、実家の水産加工会社を継ぐ。・・・純国産のオイルサーディン<(注9)を販売し始めたが、>人気が広がり、生産が追いつかない状態である。・・・」(155、157〜166)

 (注9)「オイルサーディンは頭と内臓を抜いた鰯を塩水に漬け、拭き取った後、香辛料と共に弱火で油煮した食べ物である。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3

 「都会から過疎地へ。そうした動きは全国に広がっている。・・・
 いま、若者たちの5人に1人が、農業や漁業といった「一次産業」に挑戦したいと考えているという。かつて、起業の花形だった「IT産業」の2倍以上である。・・・
 三菱総合研究所の阿部淳一氏・・・は、震災以降の新たな若者たちの消費傾向を、「ニューノーマル<(注10)>消費」と名付け、分析を進めてきた。・・・

 (注10)ニューノーマルという「言葉は、米国の債券運用会社ピムコ(PIMCO)の最高経営責任者であるモハメド・エラリアン(Mohamed El-Erian)氏が提唱したことから、米国の経済関係者の間に広まった。・・・日本では三菱UFJフィナンシャル・グループの畔柳信雄(くろやなぎ・のぶお)社長が、金融危機から脱した後の世界経済の展望について、・・・次のように発言している。「新しい秩序は危機時の『異常』と対比し、『ニューノーマル(新しい正常)』と呼ばれている。(中略)米国は金融、レバレッジ、民主導が浸透しており、ニューノーマルへの適合は急にはできない」・・・ニューノーマルの経済では、そのアングロサクソンモデルからの乖離を思わせるようないくつかの変化が訪れるという。・・・このうちもっとも顕著な変化が、金融経済から実体経済への回帰かも知れない。・・・経済に対する政府の大きな関与も、ニューノーマルの大きな特徴のひとつだ。・・・またレバレッジの縮小傾向もある。レバレッジ(梃子の意)とは、借金を行うことで自己資本より大きい規模の投資や消費などを行う手法を言う。サブプライム問題では、ローンの焦げ付きでレバレッジが逆に作用した(自己資本では耐えきれない大きな損出を生んだ)ことからリーマンショックが発生した。そこでレバレッジに対する警戒感が強まってしまった。・・・もうひとつ、新興国の台頭という傾向も指摘する必要があるだろう。・・・ これらの状況を総合すると、これまでの経済モデルでは「米国が中心となり市場主導で高成長を果たした」のだが、ニューノーマルでは「先進国や新興国などの多極的な主体が、政府主導で低成長を続ける」モデルに移行していることになる。」
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091113/195264/

 自分のための消費(ブランド品や高級品)を求めるのではなく、つながり消費(家族や地域、社会とのつながりを確認できるもの)を求め、新しいものをどう手に入れるかという所有価値でなく、今あるものをどう使うかという使用価値へ重心が置かれるようになっている。そして、それは一過性ではなく、長期的、持続的な変化であり、後戻りできない消費傾向だと捉えられている。
 阿部氏は、こうしたトレンドは<日本で>今に始まった話ではないと主張する。1990年代のバブル崩壊で芽吹き、水面下で少しずつ花開いていたものが、リーマンショックで、一気に顕在化、そして、東日本大震災で加速したのだ。まさに、2012年は、「消費のニューノーマル化け」の元年となった。静かな革命という呼び方をする人もいる。
 これに対して、「オールドノーマル」とは「成長が是」とする認識だ。・・・

→何と言うことはない、日本では、江戸時代の経済体制も、現在の日本型経済体制も、「オールド」も「ニュー」もない「ノーマル」であったということではありませんか。
 江戸時代に比べると現在の体制の方がはるかに一極(東京)集中ではありますが・・。それも、今後、地方分権が進んで行くならば、日本型経済体制が、文字通り「ノーマル」化する可能性があります。(太田)

 <さて、話を戻すが、>周防大島では、・・・自治体も応えた。2011年4月、若い起業家に事業用のスペースを貸し出す、いわゆるチャレンジショップを始めた。・・・2〜3坪という少々手狭な敷地ながら、賃料は月1万円。しかも、年間28万人が訪れる「道の駅」の目の前にあるだけあって、集客力は抜群。・・・
 2012年4月からは、島内のあちこちに増えていた空き家を、移住を希望する人に破格の家賃で貸し出す取り組みも始めている。」(167〜170、173〜174)

(続く)