太田述正コラム#6711(2014.1.22)
<『「里山資本主義」のススメ』を読む(その5)>(2014.5.9公開)

 「里山資本主義がマネー資本主義に突きつけるアンチテーゼの第一は、「貨幣を介した等価交換」に対する、「貨幣換算できない物々交換」の復権だ。・・・
 お金を払って製材屑を引き取ってもらい、他方で電力を買っていた今までのやり方を、自分で木くずを燃やすことで発電するのに切り替えたということは、結局自社内で木くずを電力に物々交換したわけだ。その結果、億円単位の取引が消滅してしまった。その分、貨幣で計算されるGDPも減ってしまったことになる。だが真庭市の経済がこれで縮小したわけではない。市外に出て行ったお金が内部に留まるようになっただけだ。
 このように物々交換というのは奥深い。特定の人間たちの間で物々交換が重ねられると、そこに「絆」「ネットワーク」と呼ばれるものも生まれる。・・・とはいっても結局金銭換算できない話なので、幾ら交換がなされようと、絆が深まろうと、GDPにはカウントしようがない。だがそうだというだけで、その価値を否定できるものだろうか。・・・
 里山資本主義がマネー資本主義に突きつけるアンチテーゼの第二は、「規模の利益」への抵抗だ。・・・
 だが、地元で取れた市場に出せないような野菜を地元福祉施設で消費するという、およそ規模の利益から外れたような営みが、・・・地域内の経済循環を拡大し、さらには金銭換算できない地域内の絆を深めているという事実もある。車はマネー資本主義に依存してお安く買わせていただくが、食料と燃料に関しては自己調達を増やそう。このいいとこ取りのご都合主義こそ、サブシステムたる里山資本主義の本領だ。・・・
 それだけではなく、規模の利益の追求には重大な落とし穴がある。規模の拡大は、リスクの拡大でもあるということだ。・・・
 震災時の仙台では・・・一部を金銭化せずに親戚の間で分け合うというような習慣が、結局震災リスクをヘッジした。・・・
 そして里山資本主義がマネー資本主義に突きつけるアンチテーゼの第三は、リカードが発見した分業の原理への異議申し立てだろう。・・・

→ここは誤りです。
 「分業のシステムを理論的に定式化したのが,18世紀の<英国>の自由主義経済学者アダム・スミスである。彼は、『国富論』の第一編において分業を論じている。彼はピン製造を例にとり、それがさまざまな過程に分解されていることで生産におけるメリットを示した。彼が示した分業の概念は,デヴィッド・リカードの国際分業理論(比較生産費説)やカール・マルクスによる生産関係の概念に応用され<た。>」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%86%E6%A5%AD
 藻谷は東大法とコロンビア大ビジネススクールを卒業していますが、前者では少なくとも私の頃は経済学は必修でしたし、米国のビジネススクールでも同様であったことを考えると、スミスとリカードを取り違えるはずがないのですがね。
 こういった必ずしも些細とは言えない無知ないし手抜きの露呈があると、藻谷(や共著者であるNHKの記者達)がこの本で開陳しているところの、他のすべての薀蓄を疑ってかかる必要が出てきます。(太田)

 ところが・・・和田さんとその仲間を見ていると、薪も切れば田畑も耕す。少々の大工仕事は自分でこなすし、料理もお手の物。観光事業者のようなこともすれば、通販事業者まがいのこともあり、あっちとこっちをつなぐイベントプロデューサーのようなこともする。場合により講演までして歩く。一人多役なのだ。どれ一つとっても、それだけを専業にする人にはかなわないかもしれないが、でも合わせ技一本でしのいでしまう。・・・
 実は里山資本主義的な一人多役の世界は、マネー資本主義の究極の産物ともいえるコンビニエンスストア<(注7)>の中にも実現していたのだ。・・・

 (注7)「何がそんなに海外のコンビニと大きく違うのか? 1.食品のクオリティ 海外のほとんどのコンビニが保存食のみを提供しているのに対して、ホットフードやお弁当など常に新鮮な物を提供するの日本のコンビニならではのおもてなし・・・2.トイレを自由に利用できる・・・3.サービスの種類の豊富さ・・・ほとんどのお客さんは買い物をするよりもATMやコピー機、チケット販売機の利用だけという場合があるくらいだ さらにほとんどのコンビニは運送会社と提携していて、郵便やハガキ、宅配便などの受付を出来るようにもなっている・・・4.日用品のほぼ全てが揃う・・・5.接客態度の素晴らしさ」
http://xxxkaigaixxx.blog.fc2.com/blog-entry-793.html
 「米国で誕生し、1973年に日本へ輸入された小売りの業態であるコンビニエンスストア。上陸から40年余りが経ち、中食と呼ばれる弁当などの物販を増やして店舗サービスを充実させてきた。日本独自のサービスを付加して国内で磨きをかけ、米国にはない新たな小売りのスタイルを確立。そして、国内コンビニ各社はその実績を基に、アジアを中心に積極的な海外展開を進めている。・・・
 ファミリーマートは国内では3番手だが、・・・国内トッ プのセブンイレブンやローソンも海外出店を強めているが、一番勢いがあるのはファミマだ。・・・
 ファミマが成功した最大の理由は何か。海外の現地企業と合弁会社を設立したうえで、日本流を押し通すのではなく、あくまで現地の商習慣や消費行動に合わせた店づくりをした点にある。
 かといって、すべてを任せっぱなしにするわけではない。日本で培ったノウハウのエッセンスを海外のスタッフが共有し、現地流に翻訳することで新たなサービスを生み出す。」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140120/258490/?n_cid=nbpnbo_mlt&rt=nocnt

 中島さんの銘建工業・・・だけではなく、・・・全国で出会う活力ある中堅・中小企業や、特色ある個人事業者は、むしろ一事業者多事業であるのが当たり前だ。・・・
 都会の生活者であっても、・・・今の生活をちょっとだけ変えて、ささやかな実践をすることは可能だ。・・・
 多年少子化が進んだ日本ではいま、一年に1%のペースで64歳以下の人の数が減っている。・・・<それに伴い、>土地も家も年々、空いたところが多くなっているのだ。・・・
 放置されたままの・・・土地を持て余している人が身近にいたら、思い切って話をして、一時的に借りて畑にしてはどうだろう。
 家を買わずとも賃貸や親との同居でなんとかなってきた人。もし将来の住宅購入の頭金が用意できているのであれば、思い切って田舎にセカンドハウスを買ってはどうだろうか。いやその前に何年か、試しに縁のあった田舎に家を借りて通ってみて、本当に気にいれば物件購入まで進めばよい。・・・
 後の方の難度が高いものほど、何から手をつけたらいいかわからない人相手に何かしらの支援をしてくれる企業やNPOやサークルが続々立ち上がっている。雑誌も書籍も、ネット情報も豊富だ。これは21世紀になってからの日本の大きな変化であり、しかも東日本大震災以降、流れはどんどん大きくなってきている。・・・
 実は人というものの存在の根幹に触れる問題が、マネー資本主義対里山資本主義の対立軸の根底にある・・・。・・・
 マネー資本主義に染まりきってしまった人の中には、自分の存在価値は稼いだ金銭の額で決まると思い込んでいる人がいる。それどころか、他人の価値までをも、その人の稼ぎで判断し始めたりする。違う。お金は他の何かを買うための手段であって、持ち手の価値を計るものさしではない。・・・
 そうであれば、持つべきものはお金ではなく、第一に人との絆だ。・・・
 持つべきものの第二は、自然とのつながりだ。失ったつながりを取り戻すことだ。・・・里山資本主義の実践は、人類が何万年も培ってきた身の回りの自然を活かす方法を、受け継ぐということなのだ。」(141〜154)

→引用ばかりで恐縮ですが、このくだりの藻谷の主張には全面的に同意です。
 藻谷の言っていることは、要するに人間主義の勧めだからです。(太田)

(続く)