太田述正コラム#6701(2014.1.17)
<デール・カーネギーの生涯と主張(その5)>(2014.5.4公開)

 (4)批判者と信奉者

 殆んど瞬時に、批判者達は『人を動かす』の諸弱点を見つけ出した。
 それが明らかに不誠実さ(insincerity)を宣伝している、と。
 この本は、仮に、あなたが語り合っている相手について、まぬけ(schnook)であってその相手の切手収集癖は欠伸が出る(snooze)と思っていようとも、そんなことはどうでもよいのであって、その逆の思いでいると思わせるべく操作すればよい、という解釈に力を貸している、と。
 最も意地悪い痛打はシンクレア・ルイス(Sinclair Lewis)<(注5)>から来たと言えるかもしれない。

 (注5)1885〜1951年。エール大卒。米「小説家・劇作家・批評家。・・・1930年、<米国>人として初のノーベル文学賞を授与された。・・・2度の結婚を経験するものの、いずれも破局を迎えている。1951年、重度のアルコール中毒の為にイタリアのローマにて永眠する。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9

 彼は、カーネギーがルイスの創造物・・暖かく歓迎されるアホ(muttonhead)のバビット・・の諸価値を行商していると非難した。
 カーネギーは、<そんなことを言うのは>反則だと叫んだが、冷笑主義であるとの告発は、より粗雑な(less-scheming)ベストセラーである『道は開ける』を書いた後でさえも、消えることはなかった。」(B)

 「この本の楽天的な世界観を『セールスマンの死(Death Of A Salesman)』の中で虚仮にしたアーサー・ミラー(Arthur Miller)<(注6)>や、1965年に上梓した自伝に『どうやって淫らな言葉を使って人を動かすか(How To Talk Dirty And Influence People)』という題名を付けたレニー・ブルース(Lenny Bruce)<(注7)>のような人々から強打を浴びながらも、カーネギーのこの大ヒット作は、いまだに版を重ねており、毎年6桁の販売部数が続いている。

 (注6)1915〜2005年。ユダヤ系。ミシガン大卒。米劇作家。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC
 (注7)1925〜66年。米海軍水兵、コメディアン、社会批評家、風刺家。
http://en.wikipedia.org/wiki/Lenny_Bruce

→これらはとんだ言いがかりというものです。(太田)

 <そして、>その一部を挙げるだけでも、オプラ(Oprah)、『魂のための鶏のスープ(Chicken Soup For The Soul)』シリーズのジャック・キャンフィールド(Jack Canfield)<(注8)>、及びTV伝道師のジョエル・オスティーン(Joel Osteen)<(注9)>のような、現在における積極性(positivity)<がウリ>の預言者達は、カーネギーの陽気な(sunny)蘇生(reinvention)なる元気良き福音に多くを負っている。・・・

 (注8)1944年〜。ハーヴァード大卒、マサチューセッツ州立大学アマースト校工学修士。やる気を起こさせる話者(motivational speaker)にして著述家。
http://en.wikipedia.org/wiki/Jack_Canfield
 (注9)1963年〜。米オラル・ロバーツ(Oral Roberts)大中退。父親の創設したキリスト教派・・現在全米最大・・を引き継ぐ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Joel_Osteen

 カーネギーのメソッドが成功に導くことを証明した、・・・ビジネスマン達には、ウォルター・クライスラー(Walter Chrysler)<(注10)>、ジョン・D・ロックフェラー(John D. Rockefeller)<(注11)(コラム#1575、1776)>、そしてJ・P・モルガン(J.P. Morgan)<(注12)>がいる。・・・

 (注10)1875〜1940年。通信大学卒(機械)。クライスラー社の創業者。
http://en.wikipedia.org/wiki/Walter_Chrysler
 (注11)John Davison Rockefeller, Sr(1839〜1937年)。高卒。スタンダード・オイル創業者。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%A9%E3%83%BC
 (注12)John Pierpont Morgan(1837〜1913年)。ゲッティンゲン大学卒。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%AB%E3%82%AC%E3%83%B3
 モルガンお雪(1881〜1963年)は、このモルガンの甥のジョージ・モルガンの妻。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%AB%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%81%8A%E9%9B%AA

→カーネギー「以前」の大企業家3人を列挙するとは、一体、ワッツは何を考えているのでしょうか。(太田)

 リンドン・ジョンソン(Lyndon Johnson)大統領は、若かりしテキサス州時代に、カーネギーのメソッドの講師だった。」(C)

 「彼のビジネス・コミュニケーション教室からは800万人を超える学生達が卒業した。
 その中には、1950年代における、リー・アイアコッカ(Lee Iacocca)<(注13)>やウォーレン・バフェット(Warren Buffett)<(注14)(コラム#1575、2854、3227、4211、5081)>も含まれている。」(D)

 (注13)本名:Lido Anthony Iacocca(1924年〜)。米リーハイ大卒(機械工学・管理工学)、プリンストン大修士。「フォード社の元社長であり、その後クライスラー社の会長も務めた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B3%E3%83%83%E3%82%AB
 (注14)1930年〜。ペンシルベニア大中退、ネブラスカ大リンカーン校編入学・卒、コロンビア・ビジネススクール卒。「世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイの筆頭株主であり、同社の会長兼CEOを務める。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%88

→結局、ワッツが挙げることができた「実」業家は、創業者でもない、アイアコッカ一人だったということになります。(太田)

 それでも、彼は、フランクリン・ローズベルト<大統領>と<その妻の>エレアノア(Eleanor)からのホワイトハウスでの晩餐への招待を勝ち取ることができた。
 だから、急激な反動がやってきて、シンクレア・ルイス(Sinclair Lewis)のような批判者達が、カーネギー<の所説>を、不誠実な女衒行為(pandering)、操作的で感情的な人を出し抜く術、そして経済的音痴、と非難することに、彼は驚愕した。
 もし、あなたがいつも他の人々が欲しているものを見極めようとしているとすれば、理屈からして、どうしてあなたは自分自身に忠実であると言えるのだ、と。
 果たして、労働者階級の米国人達が歓迎されてトップに辿りつけるとでも言うのか(How are working-class Americans supposed to glad-hand their way to the top? )、とも。
 「私は秘訣を擁護しているわけじゃない」とカーネギーは防御的に答えた。
 「私は、新しい生き方について語っているのだ」と。」(E)

3 終わりに

 私の見るところ、カーネギーは人間主義を説いたわけですが、彼の本がベストセラーであり続けていながら、それらの本は、一種のフィクションと受け止められるにとどまり、米国の実際の人々、就中ビジネスマン達の言動や生き様に殆んど影響を与えてこなかったのではないでしょうか。

 「精神病質のケがあると、いかにも勇ましげに見えるものだ。
 2010年の研究は、精神病質者が通りにではなくむしろ角のオフィスの中においてより見出し易いことを見出した。・・・
 <また、>ちょっとしたマキアヴェッリズムは、実は単なる政治的技術(skill)に過ぎないのであって、同僚達を操ったり人々にある観念を売りこんだりすることを可能ならしめる。・・・
 しかし、謙遜もまた鍵なのだ・・・。
 仮に経営者(executive)の自我(ego)が手に負えなくなれば、被用者達は彼または彼女に従わなくなってしまうからだ。
 もとより、あなたが、アップルの元トップのスティーヴ・ジョブズ(Steve Jobs)のような人物であれば別だ。
 彼のように、頭が良くて素晴らしければ、こういった諸ルールは適用できない。」
http://blogs.wsj.com/atwork/2014/01/13/are-you-vain-enough-to-get-ahead/
(1月14日アクセス)

 米国人が夢見る成功はビジネス界における成功であるところ、このブログからも分かるように、米ビジネス界での成功者は、ごくわずかの天才を除けば、「適度な」精神病質者かマキアヴェッリストのどちらか、或いはその双方でなければならないのであって、人間主義者などおよびではない、と考えた方がよさそうだからです。
 大恐慌時に人間の性来の人間主義性に覚醒しかけた米国人は、カーネギーが声を高くして人間主義を唱えたにもかかわらず、ついに覚醒することなく現在に至っている、というのが私の結論です。

(完)