太田述正コラム#6503(2013.10.10)
<バングラデシュ虐殺事件と米国(その1)>(2014.1.25公開)

1 始めに

 バングラデシュ独立の過程で行われた虐殺に対して米ニクソン政権がいかに醜い対応をしたかを暴いた本が出ました。
 その本とは、ゲイリー・J・バス(Gary J. Bass)の『ブラッド電信--ニクソン、キッシンジャーと忘れられたジェノサイド(The Blood Telegram: Nixon, Kissinger, and a Forgotten Genocide)』です。
 バスにはそんな発想は全くないのですが、先の大戦における米英の対日愚行が、どれだけ戦後の世界の人々を苦しめてきたか、を改めて確認することができる、ということもあって、この本の概要を書評をもとにご紹介し、私のコメントを付そうと思います。

A:http://www.washingtonpost.com/opinions/the-blood-telegram-nixon-kissinger-and-a-forgotten-genocide-by-gary-j-bass/2013/10/04/aa475130-1fc9-11e3-b7d1-7153ad47b549_print.html
(10月5日アクセス)
B:http://www.nytimes.com/2013/09/29/books/review/the-blood-telegram-by-gary-j-bass.html?pagewanted=all&_r=0
(10月6日アクセス)
C:http://www.bookreporter.com/reviews/the-blood-telegram-nixon-kissinger-and-a-forgotten-genocide
D:http://online.wsj.com/article/SB10001424127887323846504579073510606727756.html
E:http://www.indianexpress.com/news/the-foreign-hand/1140670/0
F:http://www.economist.com/news/books-and-arts/21586514-new-history-sheds-fresh-light-shameful-moment-american-foreign-policy-blood
G:http://www.asianreviewofbooks.com/new/?ID=1602#!
H:http://www.nyjournalofbooks.com/review/blood-telegram-nixon-kissinger-and-forgotten-genocide
I:http://www.counterpunch.org/2013/10/04/nixon-and-kissingers-forgotten-genocide/
J:http://www.thedailybeast.com/articles/2013/09/28/bloody-bloody-richard-nixon-s-role-in-a-forgotten-genocide.html

 なお、バスは、プリンストン大学の政治学と国際問題の教授であり、元英エコノミスト誌の記者で、NYタイムス、ワシントンポスト、ロサンゼルスタイムス各紙、及びニューヨーカー誌にしばしば寄稿している、という人物です。
http://www.princeton.edu/~gjbass/

2 バングラデシュ虐殺事件と米国

 (1)総括

 「ゲーリー・J・バスは、<新本の>『ブラッド電信』を引っ提げて登場した。
 これは、リチャード・ニクソンとヘンリー・キッシンジャーが、1971年のパキスタンの内戦の際の、(その後バングラデシュ国になった)東ベンガルの何十万人もの住民の虐殺と1000万人の難民の発生において果たした隠された役割についての、まことにもって心穏やかならざる説明を行ったものだ。
 当然のことながら、死者の正確な数は分からないが、バスは、殺害されたのがCIAと米国務省の中位数推計たる約200,000人にのぼる、という数字を引用している。」(A)

 「これらの挿話は、巧みに(expertly)語られ、しばしば忘れられているニクソン政権による諸犯罪の文脈を提供している。
 すなわち、そのうちのいくつかを挙げれば、民主党全国員会本部への侵入、すなわち「ウォーターゲート事件」、とは直接関係のないところの、カンボディアの秘密爆撃、政治的敵対者達に対する広範な妨害・諜報諸作戦、政府職員達に対する盗聴、そしてペンタゴンペーパーズ(Pentagon Papers)<(注1)>の告発者のダニエル・エルズバーグ(Daniel Ellsberg)を沈黙させるための違法な努力、<という諸犯罪>についての・・。・・・

 (注1)「国防総省国際安全保障局国際安全保障問題担当次官補ジョン・セオドア・マクノートン(海軍長官就任直前に死亡)が命じて、・・・ポール・C・ウォンキ国防次官補に提出されたベトナム戦争に関する極秘報告書・・・1971年、執筆者の1人であるダニエル・エルズバーグ(当時シンクタンクのランド研究所に勤務していた)がアンソニー・ルッソとともにコピーを作成し、ニューヨーク・タイムズのニール・シーハン記者などに全文のコピーを手渡した。ニューヨーク・タイムズでは・・・1971年6月13日から連載記事として報道された。・・・当時のニクソン大統領は・・・司法省に命じて記事差し止め命令を求め連邦地方裁判所に提訴した。・・・新聞への掲載を国家機密文書の漏洩であるとし、国家安全保障に脅威を与えると・・・。一審却下、控訴審・・・で訴えは認められたが、その後連邦最高裁判所での上告審では「政府は証明責任を果たしていない」という理由で却下された。・・・エルズバーグとルッソは窃盗、情報漏洩などの罪で起訴されたが、後にホワイトハウスの情報工作を担当した「鉛管工(プラマー)」チームが、信用を失墜させる目的でエルズバーグのかかっていたロサンゼルスの精神科医・・・のオフィスに侵入しカルテを盗もうとしたことがウォーターゲート事件の余波として判明し、「政府の不正」があったとして裁判は却下された。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%B4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BA

 ニクソンとキッシンジャーは、自分達のウォーターゲート、ヴェトナム、そしてカンボディアに関する記録を取り繕う(sanitize)ことには概ね失敗したが、バングラデシュに関しては、彼らは公衆による審判を逃れることにまことに上手であったことが<この本によって>分かる。」(J)

 「バスは、東パキスタンにおけるジェノサイドは、米国の外交政策のありえない失敗を<我々に>知らせてくれる、と記す。
 それは、ローズベルトが第二次世界大戦中にホロコーストに掣肘を加える(limit)ことに失敗したような不作為による過誤やビル・クリントンのルワンダに対する散漫な取り組みよりも悪質だ、と。
 東パキスタンでは、米国は殺人者達と同盟関係にあったのだ」と。」(E)

→バスよ、ローズベルトが、第二次世界大戦において、ソ連や蒋介石政権等の殺人者達と同盟関係にあっただけでなく、参戦し、日本に対して戦争犯罪の限りを尽くしたことをどうしてくれる、と詰問したいところですね。(太田)

 「<こういった話に諸君は>既視感はないか?
 ちょっと抜き出しただけでも、米国の<関わった>、エジプト、バーレーン、パレスティナ、或いは(もう一つ、キッシンジャーの仕出かしたことから例を挙げれば)東チモール<で発生した虐殺>、といったものの・・。
 歴史家のラルフ・ライコ(Ralph Raico)<(注2)>は、リバタリアン的世界観に対する批判者は、市場は人々を商品群のように取り扱うと文句を言うこと見て取る(observe)。
 ライコは、そうかもしれないが、国家は人々をゴミのように取り扱うよ、と返答する。<まさに、米国は、世界の人々をゴミのように取り扱ってきたのだ、と。>」(I)

 (注2)米国の歴史家にしてリバタリアンであり、欧州の古典的自由主義とオーストリア派経済学の専門家。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ralph_Raico

(続く)