太田述正コラム#6419(2013.8.29)
<日進月歩の人間科学(続x35)>(2013.12.14公開)

1 始めに

 「日支戦争をどう見るか」シリーズの脚注で取り上げるべきか、取扱いを迷っていたところの、米国の金持ちの傾向に関する人間科学記事
http://healthland.time.com/2013/08/20/wealthy-selfies-how-being-rich-increases-narcissism/
(8月21日アクセス)を、同シリーズが終了する前に「日進月歩の人間科学」シリーズで取り上げることにしました。
 これまでの私による、人間科学の動向の紹介や、それらを踏まえた米国に関する主張と、背馳するような内容が部分的に含まれるようにも読めたので、このような取扱いにした次第です。

2 米国の金持ちの傾向

 「最近の諸研究は、金持ちは、例えば、人を道の真ん中に置き去りにしたり(cut people off in traffic)、シミュレートされたビジネスや慈善の諸シナリオの中で非倫理的にふるまったりすることを示す。
 今年、これまでに、<米国における>慈善的寄付の諸統計は、最も金持ちな人々は収入の1.3%前後を寄付するのに対し、最も貧しい人々は、3.2%という、自分達の稼ぎに対して金持ちの2倍以上を、実際に与えていることを暴露した。・・・

→ここが問題の箇所です。
 金持ちは寄付を心理的に強制されるのが米国社会だという認識だったのですが、それが様変わりしつつあるようです。
 ひょっとしたら、これは、米国のキリスト教原理主義もリベラル・キリスト教も、どちらも急速に金持ちを中心に勢力を失いつつあって、欧州的な意味での世俗派が増えつつある証左なのかもしれません。(太田)

 ・・・研究者達は、高所得で高社会階級の人々の間における、強いナルシシズムと特権意識(entitlement)を発見した。・・・
 ・・・円でもって、自分達の相対的重要性を視覚的に描写することを求められると、金持ちは自分達自身のために大きな円を選び、他の人に対しては小さな円を選んだ。
 もう一つの実験では、金持ちはより頻繁に鏡を見ることが発見された。・・・
 ・・・これは、特権意識のある人の方が、(ナルシシスト的傾向を醸成することで?)より金持ちになり易いということだけではなく、金持ちは、自身の過剰(excess)を、自分がそれに値すると自身で納得することで、正当化する、ということだ・・・。・・・
 従って、これらの発見は、ナルシシスト達が、何らかの財政的ないし職業的(financial or professional)優位(advantage)を有する、ということを示唆するものではない。
 ・・・ナルシシストがより成功を収めるということが真実ではないことは、我々は、沢山の他の研究から知っている・・・。
 人は、競争が非常に激しいので、ナルシシストでなきゃやっていけないと言うが、ナルシシストであることは、実際には競争することの助けにはならない・・・。
 また、・・・ナルシシスト的傾向と医学的なナルシシスト人格障害との間には違いもある。
 ナルシシスト障害は、・・・実際には、金持ちよりもむしろ貧しい人の間で多い。
 それは、恐らくは、極端なナルシシズムの大部分は家と職場における人間関係を、どちらも破壊してしまい、成功ではなく、失業や貧困を、よりもたらしがちであるからだろう。
 「特権意識は<極端でない(太田)>ナルシシズムの一つの様相(facet)である」ことを認識することも重要だ。
 ・・・それこそ、高い社会階級と最も関連付けられることなのだ。
 それは、自分は特別な扱いをしてもらうに値し、一生懸命働かなくても物事は実現する、という観念だ・・・。・・・
 ・・・ナルシシストが一番苦しむのではなく、彼の周囲にいる人々が一番苦しむのだ。・・・どうして親が、自分達の子供がこの種の特権意識を持つことを許すのか、理解しがたい(mind boggling)・・・。・・・
 世界を他人の視点から眺めることができること、すなわち、共感能力(empathy)、こそ、ナルシシズムと戦うために決定的に重要だ。・・・
 ・・・金持ちはどんどん特権的になっており、彼らが広告を始めとするあらゆる種類の事柄の文化的風潮(tone)を設定することから、・・・<米国では>特権意識があふれるに至っているように・・・思われる・・・。
 それが、次第に深まりつつあるところの、共感の欠如を恒久化するとともに、ナルシシスト的諸傾向を促進する可能性、がある。
 ・・・特権意識の結果として、富の再配分への否定的諸姿勢が存在することを想像できるだろう。・・・
 不平等がひどくなればなるほど、人々はより特権意識を感じるかもしれず、彼らにふさわしい(become)<と思っているところの、彼らに帰属している>諸資源をより<貧しい人々と>分かち合わなくなりがちだ。・・・
 社会の特定の諸部分(segments)がより金持ちになると、諸コミュニティはより利己的諸傾向に対して脆弱になるかもしれず、<その結果、>我々の間で期待しうる最低水準たる、より少ない慈善がもたらされるかもしれない。」

3 感想

 私が推測したように、金持ちの慈善意欲の低下が、米国において、キリスト教原理主義とリベラル・キリスト教の急速な衰亡、すなわち世俗化が進行中である兆表であるとすれば、それは、米国の近代化を示すものであり、ご同慶の至りです。
 とりわけ、我々非米国人にとっては、米国におけるリベラル・キリスト教の急速な衰亡が事実であれば、依然唯一の全球的覇権国であるところの、米国の対外政策のぶれの縮小が期待できそうです。
 しかし、米国のために心配するのは、欧州では、世俗化が基本的に社会保障の進展とともに進行したというのに、米国では、上記記事からも窺えるように、金持ちを中心に社会保障の進展への無関心どころか敵意すら見いだせることです。
 私が言うところの、第三世界化を食い止めることが、果たして米国にできるのかどうか、現状では私は強い疑問を抱かざるをえません。