太田述正コラム#6407(2013.8.23)
<日支戦争をどう見るか(その32)>(2013.12.8公開)

 「『妄想合衆国』は、疑惑と妄想を深めるところの幾ばくかの偉大なる大衆文化の抱き合わせ販売商品(tie-ins)が単なる少数派の諸運動<限りのもの>ではないことについて、特集を組んでいる。
 例えば、人間になりすますか人間をコントロールするエイリアンを描く1950年代の映画がたくさんあった。
 これらの映画の多くは、1953年の『イット・ケイム・フロム・アウター・スペース(It Came from Outer Space)』<(注60)>や、1956年の『ボディ・スナッチャー/恐怖の街(Invasion of the Body Snatchers)』のように、<それらを鑑賞した人に、>自分が遭遇する者は誰でも敵である可能性があるという恐怖をもたらす(feed off)。
 こういったものが、赤狩りないしマッカーシー主義を駆動させたのだ。」(C)

 (注60)日本では劇場未公開。「侵略の意図の全く無い異星人と人間との遭遇を描いたユニークな作品。」
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=84198
 (注61)米国でも劇場未公開でビデオ発売のみ。「カリフォルニアのある街が、異星生物の侵略を受け<る>。その生物は次々と人間の複製を造り上げ、本物と入れ換わっていく。主人公はその事実を知り、恋人と共に街を脱出しようとするが……。」
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=21557

 「一般人が抱いているステレオタイプでは、陰謀論の理論家達は、彼らの妄想を政府に向ける。
 CIAがケネディ大統領を撃ったとか、月面着陸はNASAのでっち上げだったとか、9.11同時多発テロは<政府>内部の犯行だった、といったものがそうだ。
 しかし、政治的妄想の最も顕著な部類は、権力の館の中を外から覗き込んでいる大衆ではなく、その中にいる人々を捉えるものだ。
 直近の事例が、<スノーデン事件等を契機に、>茫然自失させられた米国政府が、自分自身の職員達への恐怖で麻痺させられ、行っているところの、秘密漏洩に対する厳しい取り締まりだ。」(B)

 「<さて、権力の館の中にいる人々を捉えた妄想の典型例としては、>20世紀央の立て続けの何10年かにおける、米国全域を飲み込んだ「茶狩り」と、それに引き続く「赤狩り」、そして最終的に「ラヴェンダー狩り(Lavender Scare)<(注62)>」が挙げられる。」(A)

 (注62)当時の米精神病学界は同性愛を精神障害であると見ていたため、同性愛者は、例えば共産主義者に同性愛者であることを暴露するぞと脅されたら秘密情報を提供してしまうであろうと思われれたことから、マッカーシー上院議員らは、同性愛者は安全保障上のリスクであるとみなした。
 ラヴェンダー狩りという名称は、ジョンソン(後出)が、当時、マッカーシーと共に行動した上院議員のエヴェレット・ダークセン(Everett Dirksen)が同性愛者のことを「ラヴェンダーっ子(lavender lads)」と呼んでいたことからとったもの。
http://en.wikipedia.org/wiki/Lavender_scare
 ちなみに、マッカーシーは1944年に民主党から共和党に移籍しているところ、ダークセンは共和党員だ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Joseph_McCarthy
http://en.wikipedia.org/wiki/Everett_Dirksen

 「<権力の館の中にいる者達を含めた>米国人達は、ナチ達、共産主義者達、そして同性愛者達が邪悪かつ秘密裏に我々の政府、そして我々の心と体を乗っ取ろうと試みていると描写する物語を余りにも多く聞かされてきたので、ナチ達等の類を、あらゆる所で見つけるようになり始めた。
 もっと初期の時代には、彼らは、殺人的な奴隷達や好色なアメリカ原住民誘拐者達を恐れた。
 そして、最近では、UFO群や悪魔的な保育園群を恐れている。」(A)

 「<権力の館の中にいる者達によるところの、>内なる敵に対する最も有名な厳しい取り締まりは戦後の赤狩りだった。
 当時の、ソ連のスパイに対する恐怖は、本当の外国の工作員にとってのみならず、単に左翼傾向があっただけの大勢の人々にとってもトラブルを引き起こした。
 それに比べればあまり知られていないが、より立ち入った(intrusive)事例が、同時期に行われたところの、歴史家のデーヴィッド・K・ジョンソン(David K. Johnson)<(注63)>が名付けたラヴェンダー狩りだった。

 (注63)米南フロリダ大学歴史学教授。'The Lavender Scare: The Cold War Persecution of Gays and Lesbians in the Federal Government' の著者。
http://www.huffingtonpost.com/david-k-johnson

 当時、ゲイやレスビアンは、安全保障上のリスクとみなされていた。
 1950年に、CIA長官のロスコー・ヒレンケッター(Roscoe Hillenkoetter)<(注64)>は、下院の委員会で、「主要なポストにいる変質者(pervert)達」が「政府の中の政府」を形成している、と警告した。

 (注64)Roscoe Henry Hillenkoette(1897〜1982年)。海兵卒の海軍軍人(最終階級は中将)。3代目のDCI(Director of Central Intelligence)にして初代のCIA長官。
http://en.wikipedia.org/wiki/Roscoe_H._Hillenkoetter
 日本語ウィキペディアは、彼を表の中でCIAの3代目の長官扱いにしているが、いかがなものか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E6%83%85%E5%A0%B1%E5%B1%80

 同性愛の官僚達は、「秘密結社(lodge)や同好会(fraternity)に所属している」と彼は続けた。
 「一人の変質者がいると、他の変質者達をその機関に連れて来て、自分達の恋愛(romance)を亢進させるという意図の下で、彼らを一つのポストから他のポストに動かし、昇進させる」と。
 その後、<同性愛者に対する>大きなパージが続いた。
 官僚達は、捜査官達に同性愛者であると疑った同僚達の名前を告げ口した。
 <そして、>尋問官達は、同じ仕事場にいるゲイやレスビアンの名前を挙げるように容疑者達に圧力をかけた。
 ワシントンの多くの私企業においても、とりわけ、その会社が保全許可(security clearance)を要求される政府契約を締結している場合は、自分達の勤務者達に対して、やはり厳しい取り締まりを行った。
 国務省は、1950年代と60年代において、同性愛者であると信じられた約1,000人の職員を馘首した、とジョンソンは推計している。
 これは、鉈を振るわれたところの、いわゆる赤の数をはるかに上回る。
 それは、驚くべきことではない。
 米国には、常に、共産主義者よりもはるかに多くゲイがいる、と想像されるからだ。」(B)

→マッカーシーら、その多くがキリスト教原理主義者であるところの共和党員が、無神論者たる共産主義者や、宗教上の罪である同性愛者を共に迫害するのは不思議でも何でもありませんが、米国が、その後、その多くがリベラル・キリスト教徒であるところの民主党員達の主導の下で、同性愛者に対する迫害どころか、同性婚を認める方向に舵を切りつつあることはご承知の通りです。(太田)
 
 「<スノーデン事件等に見られるように、>厳しい取り締まりの最も陰険(insidious)な部分は、それがスパイと内部告発者の境界線をぼやけさせてしまうことだ。・・・
 これは、国家安全保障のためを意図してなされた努力が、個人の自由にとって、何かより大きく、薄汚れた、そしてより危険なものへとうなぎ昇りして行った最初の事例というわけではない。」(B)

(続く)