太田述正コラム#6300(2013.6.30)
<世俗化をもたらした宗教改革?(その1)>(2013.10.15公開)

1 始めに

 このところ、食欲のそそられる新刊の洋書が英米の主要メディアに登場しなくなっています。
 そこで、昨年2月にFTに書評が出た本を取り上げたいと思います。
 その本とは、ブラッド・S・グレゴリー(Brad S Gregory)の『意図せざる宗教改革:いかに宗教革命が社会を世俗化したのか(The Unintended Reformation: How a Religious Revolution Secularized Society)』です。
 これまで待っていたのは、FT以外の英米主要メディアにも書評が出てからと思っていたためです。
 ところが、キリスト教関係の媒体では長文の書評がいくつも出たというのに、主要メディアではいまだにゼロです。
 余りにも鮮度が落ちないうちに、ということで、思い立った次第です。
 お断りするまでもありませんが、私は、(おいおいお分かりになるであろうところの、)この本の著者の、脱世俗化(再キリスト教化)を目指したいという、いかにも原理主義的キリスト教が今でも蔓延る米国の学究らしい、ばかばかしい問題意識など、全くもって共有していません。
 にもかかわらず、私がどうしてこの本に関心があるかと言いますと、第一に、私のかねてよりの、欧州における宗教改革なるものは実は反宗教改革だったのであって欧州における宗教離れの引き金となった、という指摘を裏付けることができそうであること、第二に、(著者にしても、書評子達にしても、例によって押しなべてアングロサクソンと欧州とを一緒くたにして論じているものの、)これもかねてよりの私の指摘であるところの、宗教改革のきっかけをつくったのはアングロサクソンであって、その背後には自然宗教的なアングロサクソン流の宗教観があった、という点を、従前に比して一層具体的に検証することができそうであること、からです。
 つまり、このシリーズは、私による、久しぶりのアングロサクソン論シリーズでもある、ということです。

A:http://www.ft.com/intl/cms/s/2/cff78460-4e8b-11e1-ada2-00144feabdc0.html#axzz1m2BVnPnH
(2012年2月11日アクセス。書評(以下同じ))
B:http://www.h-net.org/reviews/showrev.php?id=35103
(2013年6月27日アクセス。以下同じ)
C:http://www.timeshighereducation.co.uk/419244.article
D:http://www.thinkingfaith.org/articles/BOOK_20120820_1.htm
E:http://www.newrepublic.com/article/books-and-arts/magazine/107211/wittenberg-wal-mart?page=0,0#
F:http://www.calledtocommunion.com/2012/03/brantly-millegan-reviews-brad-gregorys-the-unintended-reformation-how-a-religious-revolution-secularized-society/
G:http://www.catholicworldreport.com/Item/1364/unintended_problems_unintended_blessings.aspx#.UcxK5Pk9R8E
H:http://www.booksandculture.com/articles/2012/marapr/rotstarted.html?paging=off
I:http://rorotoko.com/interview/20120125_gregory_brad_on_the_unintended_reformation/
(著者による解説)

 なお、グレゴリーは、米ノートルダム大学の近世欧州史の准教授です。
 彼は、1996年にプリンストン大学で博士号を取得し、スタンフォード大学で教鞭を執った後現職、という経歴です。
 このほか、ベルギーのルーヴァン(Louvain)・カトリック大学(注1)で哲学の二つの学位も取得しています。

 (注1)「1425年にローマ教皇のマルティヌス5世によってルーヴェン(ブリュッセルの東20km)に創立された。オランダ語名はルーヴェン・カトリック大学。ルーヴェンはオランダ語(フラマン語)圏の町であったが、フランス語による研究・教育も重要とみなされて盛んに行われた。しかし20世紀中盤以降のベルギー言語戦争の激化に伴い、ルーヴェンが位置するフランデレン地域の住民からこの事実に対し反発が生じることとなった。この結果、1968年には大学の分割が行われ、大学新都市であるルーヴァン=ラ=ヌーヴ(フランス語圏、ブリュッセルの南東20km)に新しく建設されたルーヴァン・カトリック大学にフランス語を母語とする教員・学生が移動し、30km圏内に由来を同じくする二つの大学が並立して存在することとなった。以降両大学は専らそれぞれオランダ語・フランス語を用いて教育研究を行っている。分割の際、人的資源のみならず図書館の蔵書に至るまでの徹底的な資産分割がなされたため、その後の研究・教育に支障があったといわれる。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E5%A4%A7%E5%AD%A6

 グレゴリーの専攻は、宗教改革期のキリスト教、宗教改革の長期的諸影響、近世と近代欧州における世俗化、そして、宗教研究方法論です。(F)
彼の博士論文がベースとなって、彼の前著の『救済されるか否か--近世欧州におけるキリスト教殉教(Salvation at Stake: Christian Martyrdom in Early Modern Europe)』 (1999年)が上梓されたところ、この本は、明確なテーマを持ったプロテスタントとカトリックの殉教者達の比較研究として称賛されています。(D)

(続く)