太田述正コラム#6234(2013.5.28)
<中共の資本主義化の軌跡(その12)>(2013.9.12公開)

 「今秋には、公的新聞における強い口調の記事群の一斉射撃の形で、保守派は立憲主義的統治の観念に対して新しい攻勢をかけた。
 改革派は縮み上がり、インターネットは怒りの返事で燃え盛った。・・・
 中国共産党の各週刊誌の紅旗(Red Flag)は、立憲主義政府は、「社会主義諸国には適していない」とくさす理論的記事を打ち出した。
 <立憲主義>体制は、資本主義とブルジョワ独裁に属するのであり、」中共の「人民民主主義」には属さない、と人民大学の法学教授のヤン・シャオチンは主張した。
 その次の日、中国共産党に所属するタブロイド紙の環球時報(Global Times)が論争に加わった。
 同紙は、社説で、立憲主義は、単に「中共に欧米の政治制度を採用させることを強いる新しい方法」に過ぎないと述べた。
 「立憲主義の諸要求は、中共の現行の憲法に深く反する」とこの社説は付け加えた。
 このような経緯主義的非難は改革派に不意打ちを食らわせた。・・・
 「中共政策(China Policy)というコンサルタント会社の創立者のデーヴィッド・ケリー(David Kelly)・・・博士は、「中国共産党は誰もその権力を制限できないとの観念に立脚している」<と語る。>
 「彼らが、誰も法の上に置かれることはないと言う場合、たとえそれが憲法の規定に抵触するとしても、彼らは中国共産党の核心部のことは念頭にない」と。
 もっとも、観察者の中には、<保守派と改革派の>戦いにはもう決着がついたとは必ずしも言えないのではないかと思っている者もいないでもないが・・。」(CSモニター前掲)

→私は、保守派の勝利で終わった、そもそも最初から改革派が勝利することはありえなかった、と見ています。
 このところの、国際法を無視した領土問題での、日本や東南アジア諸国やインドに対するゴリ押し、という対外的な法治主義無視の姿勢からして、中共当局が、対内的に、より一層、法治主義無視、すなわち反立憲主義的姿勢をとるのは明白である、と考えるからです。
 よって、中共において知の自由市場が成立する可能性は皆無である、と申し上げておきましょう。(太田)

 (2)腐敗した日本型経済体制

 「現代の中共の体制は政治的独裁主義(authoritarianism)と経済的自由主義の組み合わせ(combination)であるとする在来の観念は間違っている。
 <中共の体制の>秘訣(recipe)のより正確な描写は、独裁制(dictatorship)と身びいき(cronyism)<の組み合わせ>なのであり、その結果が、蔓延する腐敗、環境悪化、そして政治的にコネがある者とそれ以外の全員の間の大きな不平等、として立ち現われているのだ。
 ・・・現在72歳の北京の住人たる共産党員の楊繼縄(Yang Jisheng)<(注21)>・・・は、今日の中共では「憎しみの二つの主要形態がある」、と説明する。
 それは、「金持ちに対する憎しみと権力者達ないし役人達に対する憎しみ」であると。
 しばしば、この両者は一つの同じものだ、とも。・・・

 (注21)1940年〜。ジャーナリストで著述家。精華大学卒。2001年まで新華社勤務。大躍進の時の大飢饉を描いた『墓碑 −−中國六十年代大饑荒紀實』(2008年)ないし『墓碑: 一九五八-一九六二年中國大饑荒紀實』(2010年)の著者として国際的に知られている。約半分ほどに圧縮された独、仏、英語版が2012年に出ている。(Tombstone: The Untold Story of Mao's Great Famine)(コラム#5941)
http://en.wikipedia.org/wiki/Yang_Jisheng

 ハイエク(Hayek)は、彼の有名な論考である「社会における知識の使用(The Use of Knowledge in a Society)」の中で、全ての計画体制の根本的問題は、我々が使用しなければならないところの、「状況(circumstances)についての知識が集中した、ないしは統合された形では決して存在せず、バラバラの個々人が保有する、不完全でしばしば相互に矛盾する知識の分散した小片群としてのみ存在する」点である、と記した。・・・
 「過去20年間にわたって、中共政府は、経済の成長モードを改めなければならないと言い続けてきた。
 楊氏は・・・、マンハッタン研究所(Manhattan Institute)から、入念な調査に基づいた、大飢饉の最も信頼のおける歴史書であるところの、『墓碑』に対するハイエク賞を受けるために、今月はニューヨークにいる<が、>・・・「単に経済を拡大するのではなく、内部的変化を起こさなければならない、すなわち、より付加価値の高いサービスやハイテク<を生み出せるような内部的変化>を、と。
 彼らはこのようなスローガンを20年間にわたって叫び続けてきたが結果は殆んど出ていない。
 どうして我々は余り変化を目にしないのだろうか?
 それは、それが体制そのものに潜む問題だからだ。
 つまり、それが権力<が操る>市場経済だからだ。…
 政治が変化しない限り、成長モードを変えることはできないのだ」と記す。」
http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324659404578501492191072734.html?mod=WSJ_Opinion_carousel_1
(5月25日アクセス)

→楊がハイエク賞を受賞することから、この記事の記者は無理やりハイエクを引用したのでしょうが、現在の中共の経済体制は、計画経済でも市場経済でもない、日本型経済体制なのですから、この計画経済に係るハイエクの言は、中共にはあてはまりません。
 日本型経済体制とは、本来は、国全体としての重要な戦略、戦術情報を経済活動に関わる全ての個人が共有する体制なのですから・・。
 問題は、中共が法治主義国家ではなく、中共当局が経済に恣意的な介入ができる点にあります。
 いつ、いかなる介入がなされるかという重要情報は当局以外には分からず、他方、そのお返しに、当局以外の者は、時に当局に誤情報や加工された情報を上げる結果になるのは必然です。
 つまり、法治主義なき日本型経済体制は、このような意味において、本来的に腐敗せざるをえない、ということです。
 そこから、権力と富の不合理かつ極端な不平等が生まれ、募り、それに対して、楊が言うところの、二つの憎しみが人々の間で醸成される結果、中共は本来的に不安定たらざるをえない、ということにもなります。
 結局、中共当局が、中共を法治主義の国、すなわち、中国共産党も法に服する国にしない限り、中共には知の自由市場が生まれることはないのであり、中共が、楊の言う「より付加価値の高いサービスやハイテク」を生み出す国になることはありえないのです。
 しかし、知の自由市場の機能する国になれば、中国共産党は、法の枠内での、共産党批判も、民主主義実現を求める声も弾圧できなくなるのであり、同党の権威の失墜が加速化され、やがて同党が失権する運びとなることは必定です。
 中共当局自身もそう読んでいるはずです。
 だからこそ、中共当局は、中共における法治主義の確立を回避し続けてきたのですし、今後とも、この姿勢が変わることは考えにくいのです。
 しかし、そうなると、知の自由市場なき中共の経済成長は、近い将来、止まってしまうことになり、革命的状況が出来するであろう、と考えられます。
 だからこそ、追い詰められている中共当局は、ナショナリズムの扇動にこれ努め、領土問題等で周辺諸国全てを敵に回すような言動をとることで、楊が言うところの人々の憎しみを逸らし、緩和しようと必死の画策を行っている、というわけです。(太田)

(完)