太田述正コラム#6134(2013.4.8)
<太平洋戦争における米兵のPTSD(その7)>(2013.7.24公開)

 (2)好意的コメント

 「ベトナム戦争の歩兵の帰還兵として、私はあなたの作品の書評を書いたことを名誉に思う。
 この物語は、私の戦争<(ベトナム戦争)>の暴虐性についての考えを私がまとめるのを、そして、私が目撃した諸残虐行為を全体の視野の中に置くのを、助けてくれた。
 <この本>は、米国の全ての高等学校の歴史教室に置かれるべきだ。
 私は再読するつもりであり、この本に5つ星をつける。
 私は、<この本を>生きている、そして死んでなお浮かばれていない(rolling)全ての<米軍>歩兵に推薦する。・・・
 著者は、PTSDの心身を損なう症状と格闘している人々の必読書とされてしかるべき本を書いた。・・・
 <著者の父親>は障害者だったのだろうか。・・・
 <この父親>が鏡の中の自分に見たのはPTN(<戦闘後障害ならぬ>戦闘後正常(Post-Combat Normal))だったのであり、彼のような人を見出した者は心穏やかならざるものがあるだろうが、<この父親>は、一般住民-正常(Civilian Normal)に再び戻ることはできないのだ。」(D)

→好意的コメントはたったこれだけか、という印象を持たれたとすれば、それは錯覚というものです。
 書評中に著者批判がなければ、それは著者に好意的であることを意味します。
 むしろ、批判的コメントが、ご披露したものくらいしかなかったことを驚くべきなのです。
 それどころではなく、たった今ご披露したような、絶賛のコメントが寄せられるなんて稀有なことなのです。
 しかも、時代こそ違え、帰還米兵たる書評子による絶賛なのですからね。
 ただし、この書評子が言う「PTDS=PTN」説には異議があります(後述)。(太田)

4 終わりに

 (1)改めて著者について

 <ブルース・>スプリングスティーン(Springsteen)<(注6)>は、アルバム『ザ・ゴースト・オブ・トム・ジョード(The Ghost of Tom Joad)』を録音中にマハリッジの本<(注7)>を読み、それに触発されて、炉が出てくるヤングスタウン(Youngstown)等の歌<(注8)を作った。・・・

 (注6)Bruce Springsteen(1949年〜)。「<米国>を代表するロックン・ローラー。・・・初期の作品においては、青春群像の描写に際立った才能を示したが、やがて社会的なテーマを作品に織り込むことによって、<米>民衆の声を代弁する存在へと成長した。」『ザ・ゴースト・オブ・トム・ジョード』 は1995年のスタジオ・アルバム。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B3
 (注7)'Journey to Nowhere: The Saga of the New Underclass' 。
http://en.wikipedia.org/wiki/Dale_Maharidge
 (注8)YoungstownとNew Timer。どちらも『ザ・ゴースト・オブ・トム・ジョード』に収録された。
 それぞれについてもっと知りたい人は下掲。↓
http://en.wikipedia.org/wiki/Youngstown_(song)
http://en.wikipedia.org/wiki/The_New_Timer
 それぞれを聴いてみたい人は下掲。↓
http://www.youtube.com/watch?v=Smddcs5n0H0
http://www.youtube.com/watch?v=Fm-Tf3w07MU

 マハリッジは、・・・米国の貧者、ホームレス、そして失業者を扱う職歴を送ってきた。
 スプリングスティーンは、マハリッジの<前>著の『Someplace Like America: Tales from the New Great Depression』(2011年)の序文を書いた。・・・
 マハリッジは、金属工の息子として、貧しい労働者階級の家庭で育った。
 <彼は、写真家のウィリアムソン(Williamson)と組んで書いた>『And Their Children After Them』でピュリッツァー賞の一般ノンフィクション部門を受賞した。
 この本は、・・・大恐慌時代の・・・人々や場所を・・・訪れ<て書かれ>たものだ。・・・
 それまでの30年間に、社会の端っこで生きてきた人々にとって何か変わったものはあっただろうか?
 <いや、>「絶望<だけ>だ」とマハリッジは言ったのだ。」(I)
http://www.goodreads.com/videos/33168-bringing-mulligan-home
(3月23日アクセス)

 (2)「PTDS=PTN」説は正しいか

 下掲を読んでください。

 「ドイツの戦後の経済的奇跡は超熱狂(hypomanic)によって達成したものだ。・・・
 戦争の時に子供だった人々や我々の親達は、我々の罪の意識とトラウマと向き合うのを回避するために働きに働いたのだ。」
http://www.spiegel.de/international/germany/survivor-and-psychoanalyst-reflects-on-german-wwii-trauma-a-891349.html
(3月29日アクセス)

 これぞ、PTNである、と言いたくなるかもしれませんが、「超熱狂」などというのは、文学的な比喩的表現でしかありません。
 ドイツ人は、総体として、先の大戦において、「罪の意識」とも「トラウマ」とも無縁であった、ということではないでしょうか。

 「PTSDは異常な諸出来事に対する正常な反応であるという観念が1980年代央から人気を博するようになった。
 しかし、トラウマを与えても不思議ではない(traumatic)諸出来事を経験させられた人の大部分はPTSDにはならない。
 米国の成人の約60%が少なくとも1つのトラウマを与えても不思議ではない経験をしているというのに、PTSDになる平均的割合は6.8%から7.8%の間なのだから・・。」
http://www.washingtonpost.com/opinions/five-myths-about-stress/2013/03/29/4c3a8b18-8c24-11e2-9f54-f3fdd70acad2_story.html
(3月30日アクセス)

 結局、実戦体験をした人のうち、PTSDになる人は圧倒的少数らしい、ということになります。
 その証拠に、日本兵でPTSDになった人は聞いたことがないし、どうやら、第一次世界大戦の時にもPTSDになった兵士は殆んどいなかったようだし、先の大戦で欧州でドイツと戦った米兵(や英兵)にも殆んどいなかったようだし、同じく先の大戦で、南アジアで日本と戦った英兵についても聞こえてきません。
 朝鮮戦争の時の米兵等についてもそんな話は聞こえてきませんね。
 ところが、例外的に、先の大戦で日本と戦った米軍兵士、ベトナム戦争やアフガニスタン戦争やイラク戦争で戦った米軍兵士に限って、そのかなり多くがPTSDになったわけです。(なお、ベトナム戦争で戦った韓国軍兵士や、アフガニスタン戦争やイラク戦争で戦った英軍兵士等については聞こえてきません。)
 一体全体、これはどうことなのでしょうか。
 
(続く)