太田述正コラム#6050(2013.2.25)
<フォーリン・アフェアーズ抄(その18)>(2013.6.12公開)

・バリー・R・ポーゼン「米軍の大規模な撤退を--控えめな大戦略への転換を図れ」

 ポーゼン(Barry R, Posen)は「マサチューセッツ工科大学教授。同大学安全保障研究プログラム・ディレクター。専門はアメリカのグローバル戦略、国家安全保障政策。」(30)です。

 「アメリカの国防予算は、同盟国や友好国の軍事予算の合計、潜在的敵対勢力の軍事予算の合計をはるかに上回るレベルに達している。」(19)

→常識に照らしても、また、同じ頁に掲げられている、軍事費世界ランキング15位まで・・中共、ロシアが含まれている・・のうち、1位の米国を除く14カ国の合計を米国だけで上回っており、米国の友好国とまでは言い難いけれど断じて潜在的敵対勢力ではないところの、インドやブラジル潜在的敵対勢力ではないことからこれら諸国の軍事費を除けば、米国の軍事費は残りの12か国より顕著に多いことが分かることもあり、翻訳ミスであった可能性が高く、二番目の「合計」の後に、「の総計」を挿入すべきであろう、と思います。(太田)

 「米軍は世界各地で縦横無尽に活動して来た。冷戦終結以降は、冷戦期と比べてさえ2倍の期間におよぶ戦闘を遂行している。アフガニスタンとイラクの戦闘地域に展開している米軍を別にしても、18万の米軍部隊が現在も外国に駐留している。・・・
 この戦略ゆえに敵を倒すたびに新しい敵が作り出され、同盟国は応分の負担をするのを嫌がるようになった。それだけではない。(中ロなどの)他の大国は、連帯して(国連安保理などで)アメリカの行動に反対する「ソフトバランシング」戦略をとるようになり、アメリカはより大きなコストを強いられている。
 それでも1990年代当時のアメリカは、圧倒的なパワーをもっていただけでなく、どこでどのように戦争を戦うかを慎重に選んでいたので、拡大戦略の帰結もある程度管理できた。だがこの10年でアメリカのパワーが相対的に低下しているにもかかわらず、ワシントンはどのような戦争をいかに戦うかについて無節操な選択をするようになった。・・・
 しかし、グレート・リセッションと肥大化する債務を前に、現在のレベルの国防予算を維持するのは困難になってきている。必要なのは、覇権的戦略を放棄し、より抑制的な戦略へと路線を見直していくことだ。ワシントンはグローバル規模の改革路線を断念し、より限定的な国益に焦点を合わせた戦略への転換を図るべきだろう。
 米軍の規模を削減すべきだし、戦争に訴えるのは、本当に必要な場合だけに制限しなければならない。そのためにも、前方展開基地から部隊の多くを撤退させ、同盟国に自国の安全保障にもっと責任を持たせる必要がある。」(19〜20)

→米国の主導した冷戦期の典型的な戦争であるベトナム戦争には独はもとより英仏さえ、そのどちらも参戦していない
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%A0%E6%88%A6%E4%BA%89
というのに、冷戦終結後に関しては、冷戦終結直後の湾岸戦争には英仏、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%BE%E5%B2%B8%E6%88%A6%E4%BA%89
ポーゼンが言う「この10年」に関しては、イラク戦争には英、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%AF%E6%88%A6%E4%BA%89
アフガニスタン紛争には英仏独が参戦、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%B2%BB%E5%AE%89%E6%94%AF%E6%8F%B4%E9%83%A8%E9%9A%8A
という具合であり、冷戦終結後、冷戦期に比べて対米国比で軍事支出を大きく減らした欧州主要国が、むしろより積極的に米国主導の戦争・紛争に参戦しています。
 これでは、米国が、冷戦後、とりわけこの10年に「どのような戦争をいかに戦うかについて無節操な選択をするようになった」とは言えそうもありません。
 そんな米国であったとすれば、より多くの欧州主要国が協力するようになったはずがないからです。
 つまり、ボーゼンは、「同盟国<が>自国の安全保障に・・・責任を持た<なくなり、米国の軍事力にただ乗りをするようになった>」原因を他に求めなければならなかったのです。(太田)

 「米軍のプレゼンスに対抗しようとする動きは、新興経済国が蓄積した富を軍事力の整備に投入していくにつれて大きくなっていく。中国やインドがアメリカと同レベルの経済力・技術力をもつようになることはあり得ないとしても、そのギャップは小さくなっていくだろうし、実際中国はアメリカのライバルになれるポテンシャルをもっている。
 冷戦がピークに達した1970年代半ば当時、購買力平価でみたソビエトのGDPは、アメリカの57%ていどだったが、中国のそれは、すでに2011年の段階でアメリカの75%に達している。IMF(国際通貨基金)は、中国は2017年には、購買力平価GDPでアメリカと同じレベルに達すると予測している。」(21)

→ポーゼン自身が、「購買力平価」は「経済力・技術力」の指標ではないと言っているに等しいというのに、なお、購買力平価を云々する意味が私には腑に落ちません。
 購買力平価とは、「2通貨がそれぞれ自国内で商品・サービスをどれだけ購買できるかという比率<であり、>一般に通貨の対内購買力はその国の物価指数の逆数である」
http://kotobank.jp/word/%E8%B3%BC%E8%B2%B7%E5%8A%9B%E5%B9%B3%E4%BE%A1
わけですが、武器は国際的商品であり、しかも、中共が生産している武器が世界の他の主要諸国が生産している武器に比べて質的に劣る以上、他の主要諸国平均平価、より端的にはドル平価でみたGDPしか意味を持たないというべきでしょう。
 しかも、ロシアを除く世界の主要国が対中武器禁輸をしているのですから、なおさらです。(太田)

 「新興大国がパワーを増すのと同様に、アメリカが規律を与えて民主化したいと考える小国、そして根絶したと思っている暴力的な非国家集団も侮れない力をもつようになった。事実、ソマリア、セルビア、アフガニスタン、イラクなど、介入したあらゆる地域で米軍は予想外に手強い勢力に遭遇している(べトコンと北ベトナム軍が中国とソビエトから大規模な支援を取り付けていたのに対して、イラクの武装勢力は、外部からの支援をほとんど受けていなかったにも関わらず、アメリカはイラク戦争を終結させるのに、ベトナム戦争に要したのとほぼ同じ期間を必要としている。)・・・
 <このような>非国家集団の持久力と強さを<も>考慮し、ワシントンは冷静に自らの軍事行動の規範を考え直すべきだ。現在の大戦略を維持する限り、武装勢力の活動を促すナショナリズムや(民族や宗教を基礎とする)アイデンティティ政治との全面的な対決路線をとらざるを得なくなる。・・・
 イラク戦争はこれらを立証する手痛い経験に他ならない。・・・
 アフガニスタンにお<いても、>・・・ブッシュ政権は、9.11に間接的な役割を果たしたタリバーンとその実行グループであるアルカイダを徹底的に叩くという目標を超えて、大戦略が内包するグローバルアジェンダに即してアフガニスタンを変貌させようと、国家建設というコストのかさむ、不毛な目標に多くの資源をつぎ込み、オバマ政権もこの路線を踏襲している。」(22〜23)

→「ナショナリズムや(民族や宗教を基礎とする)アイデンティティ政治」は、「部族主義」と言い換えれば、大昔からありましたし、米国による「規律」の付与と「民主化」の営み、すなわち、自由民主主義国家の樹立・拡大なる営みは、例えば、かつてのアラブ人によるイスラム国家
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%E5%9B%BD%E5%AE%B6
の樹立・拡大なる営みに準えることができますし、「暴力的な非国家集団」も、例えば、ニザール派(注二)のように昔からあります。
 また、正規軍がゲリラに手を焼くことに至っては、昔からごくありふれたことです。

 (注二)イスラム教シーア派の一派であるイスマーイール派の分派。「11世紀末から13世紀半ばまでシリア地方からホラーサーンに点在する城砦およびその周辺領域を保持し、イラン高原のアラムート城砦を中心に独立政権を打ち立てた。時に敵対するセルジューク朝や十字軍の要人を暗殺するという手段を用いたことから暗殺教団の別称が生まれ、のちに大麻吸引などと結びつけられて伝説化した」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%83%AB%E6%B4%BE

 こういう話をするのであれば、ポーゼンは、例えば、どうして外部勢力によるイスラム国家の樹立・拡大に比べて自由民主主義国家の樹立・拡大は困難なのか、(現在、マリにおいてもこの二つの国家観の間で、軍事力をも用いた綱引きの最中であることにも照らし、)説明すべきでした。(太田)

(続く)