太田述正コラム#5990(2013.1.26)
<フォーリン・アフェアーズ抄(その16)>(2013.5.13公開)

・ダミアン・マ「中国の産業政策とレアアース資源」

 「<マは>ユーラシアグループ・中国アナリスト」(32)

 「ピーク時の2009年には、中国は世界で生産されるレアアース13万2000トンのうち12万9000トンを生産するようになっていた。つまり、中国は世界のレアアース生産の97%を一国で担うようになり、生産量のおよそ40〜50%を輸出にまわしていた。・・・
 <ところが、>レアアース輸出にキャップを導入した結果、北京の思惑通り、市場でのレアアース価格は高騰したが、2010年以降の価格の上昇を前に、オーストラリアのライナスなどの企業がウェルド鉱山でレアアースの開発に着手し、2012年までに2万2000トンのレアアースを算出すると予測されている。また、米モリコープ社もカリフォルニアでのレアアース生産を再開し、今後数年で生産量は4万トンに達する見込みだ。
 中国は市場と価格を管理しようと試みたが、世界各地でのレアアース生産を復活させるという予期せぬ流れを呼び込んでしまった。
 いずれ、中国は数あるレアアース輸出国の一つに過ぎなくなるだろう。輸出国としての立場を強化しようとしたが、市場メカニズムを無視したために、その影響力は低下しつつある。・・・
 <しかも、>レアアースの国内価格<高騰により、>産業政策で育成していくはずの蛍光灯製造産業は衰退し、すでにこの産業の小企業は廃業に追い込まれている・・・。」(34〜36)

→以上は記憶に新しいことですが、中共の当局も人々も、よくもまあこんなに、ルールを無視して目先の利益を追って恥じないものよ、という感を新たにしますね。
 それにしても、そんな中共に重要資源を100%近く依存するに至っていたところの、日本を含む先進諸国は、オメデタイ限りであり、それこそ、戦前の支那及び支那人に何度も煮え湯を飲まされた日本が、先頭に立って欧米諸国に注意喚起をしてこなかったとは、何たる怠慢でしょうか。(太田)

・ジェームズ・A・ルイス「中国の経済諜報活動」

 「<ルイスは>米戦略国際問題研究所シニアフェロー」(37)  

 「中国の経済諜報戦略は、通信、航空、エネルギー、防衛といった重要産業において大きな成果を上げている。だが、中国の新しい指導者たちは、経済技術諜報という手法が中国の国際的なリーダーシップと国内の技術開発に悪影響を与えることを理解する必要がある。
 中国の対外諜報アプローチ同様、中国の経済諜報も、政府の諜報プログラムと個人、企業、民間人エージェントによる活動を組み合わせて展開されている。・・・
中国は自らに責任がない理由として、次のような根拠を示している。
「中国はいまだに貧困にあえぐ途上国である。欧米は帝国主義によって「百年国恥」という苦難を中国に強いた原罪を負っている。19世紀にイギリスに対して同じように経済諜報したアメリカにそのそのようなことを言われる筋合いはない」
もちろん、こうした理屈で経済諜報を正当化することはできない。中国はもはや貧困国ではないし、欧州列強による帝国主義の責任をアメリカが取るべき理由はない。
 かつてイギリスに対する経済諜報に手を染めたアメリカは中国の経済諜報に反対する立場にはないという主張がも馬鹿げている。アメリカは、本は盗んだかもしれないが、中国は図書館を盗んでいる。重要なのは、19世紀のアメリカが世界の知識の蓄積と技術革新に大きな貢献をしていることだ。
 アメリカは、蒸気船、電信、綿操り機などの数えきれないほどの技術を発明し、他国はそうした技術革新を自由に共有し、利用した。中国はそのような技術的貢献をしていない。
最大の違いは、当時は知的所有権を保護する協定が存在したかったことだ。19世紀の経験を通じて各国はいい加減な保護をしても技術革新と貿易の障害になるだけであることを理解するになった。知的所有権に関する最初の条約が成立したのは1883年(「工業所有権の保護に関するパリ条約」)。その後100年をかけて交渉が続けられ、1994年に(WTO協定の一部として)「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」が成立した。アメリカはこれらの協定を順守しているが、中国はそうではない。」(38、40)

→論考中に出て来る「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights=TRIPS協定=TRIPs協定)」は、「工業所有権の保護に関するパリ条約や文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約といった知的財産に関する既存の条約の主要条項を遵守することを義務づけるとともに・・・一部の事項については、これらの条約を上回る保護を求めている」ものです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A5%E7%9A%84%E6%89%80%E6%9C%89%E6%A8%A9%E3%81%AE%E8%B2%BF%E6%98%93%E9%96%A2%E9%80%A3%E3%81%AE%E5%81%B4%E9%9D%A2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%8D%94%E5%AE%9A
 このくだりは、コラム#5985で読者達が行った議論を思い出させます。
 中国は、国有企業中心の経済であり、これら国有企業が勤しんでいるところの、先進諸国からの技術のパクリは、即、国による技術諜報だ、ということになるわけです。
 (もとより、当局が直接行っている技術諜報もあるでしょうが・・。)
 そういう誹りを受けない、というか、誹りを受けにくくするためにも、国有企業の民営化を推進する必要があるわけですが、それは容易なことではなさそうです。
 「中国経済に・・・国有企業が・・・占めるシェア<は、現在、実に>60%を超え<ています。>
 これから何を経済成長のエンジンにするかというとき、輸出振興も財政による刺激も難しいとなると、民間需要しかありません。それを伸ばすには給料をもっと上げ、セーフティー・ネットを整備する必要がある。しかし、そのためには国有企業が民業を圧迫しているので、国<有>企業を改革しなければいけません。それが本当にできるかという問題があります。
 党の常務委員になっている人の学歴はほとんどがエンジニアです。彼らの昇進の仕方をみると、地方の党幹部や国<有>企業で仕事をしている。こういう人たちは国<有>企業の利益を背負って常務委員になるので、そう簡単に国<有>企業の理系を犠牲にするような構造改革に乗り出すのは難しいと思います。」(白石隆「「台頭する中国」とアジア外交」(日本アイ・ビー・エム(株)『無限大』(No.132 2013年新春)28頁)
 この状況に限って言えば、(このところ、中共の大学生の工科離れが急速に進んでいること(コラム#5987)、及び、中国共産党の高級幹部を中心に子弟を海外留学させ(て非工学系を専攻させ(太田))る風潮があること(白石上掲28頁)を踏まえれば、それが変わるのもそう遠くはなさそうですが、こうして進士
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%B2%E5%A3%AB
的な、いわば長袖者
http://dictionary.so-net.ne.jp/leaf/jn2/144342/m0u/
的なリーダーばかり・・しかも、機会あらば海外脱出しようと考えているリーダーばかり・・になったらなったで、やはり、中共の将来には希望は持てそうにもありません。
 中共、すなわち中共当局、の終焉はそう遠くない、と再度申し上げておきましょう。(太田)
 
(第6部完)