太田述正コラム#5984(2013.1.23)
<フォーリン・アフェアーズ抄(その13)>(2013.5.10公開)

1 Foreign Affairs Report, October 2007 No.10 より

 エリザベス・C・エコノミー「中国の環境破壊はなぜとまらないか(The Great Leap Backward?)」

 TAさんから、最新のフォーリン・アフェアーズの中共関係の論考をいくつか提供を受けたところ、一つだけやや古い論考も含まれており、まず、それからご紹介することにしましょう。
 なお、エコノミーは、米外交問題評議会アジア研究担当ディレクター(当時)です。

 「・・・かつて世界最大の漁場の一つだった東シナ海の80%以上(00年は53%)は、いまや漁業には不適切な海域とされている。・・・
 <また、>中国の輸入木材の50%は違法伐採によるものと考えられて<おり、中国は海外においても環境悪化を促進している。>・・・
 今年<(2007年)>発表された世界銀行と中国政府の共同研究プロジェクトでは、大気汚染を原因とする死者の数は年間75万人とされている・・・
 <更に、>本来中国は、(ブラジル、ロシア、カナダに続き)世界で4番目に水資源に恵まれている国だが、需要の急増や非効率的な消費、汚染、水資源が公平に供給されていない・・・ 07年春、北京は気候変動に関する初の国家評価報告書を発表し、21世紀後半には7大河川地帯のうち淮河、遼河、海河の三つで降水量が30%減少し、全国の麦、米、トウモロコシの収穫量が37%減少するとの予測を示した。チベットの氷河を主な水源とする長江と黄河についても、氷河が融解していくにつれて氾濫が起き、最終的には干上がるという見方を示している。また中国内外の研究者の多くが、地球温暖化による海面上昇によって、上海は2050年までに水没すると警告している。・・・

 北京は国としての目標は設定できても、政策の実施面を管理しているわけではない。しかも、地方政府が北京の環境保護指令に注意を払うことはめったになく、もっぱら経済成長のさらなる推進にエネルギーと資源を注ぎ込んでいる。中国の環境保護政策の方向転換を図るには、環境保護に向けた目標を設定したり投資したりするよりもはるかに困難な、抜本的な政治経済制度の改革が最終的には必要になる。
 中国の指導層は、地方政府と工場経営者が適切な環境保護対策をとるように適切なインセンティブを与える必要がある。同時に裁判所、非政府組織(NGO)、メディアに対する政治的制限を緩和して、それぞれが環境保護に向けて独自に動けるようにしなければならない。<しかし、本当に真剣には取り組んでいない。>・・・
 環境の悪化によって、持続的な経済成長、公衆衛生、社会的安定、そして国際的評価の基盤が損なわれていけば、中国共産党の権威そのものが損なわれる<というのに・・。>・・・
 <実際、>国家環境保護総局を動かしているのは北京の常勤専門職員300人と、国内にちらばる職員数百人にすぎない(ちなみに、EPAには首都ワシントンだけで9千人近くの職員がいる)。加えて、国家環境保護総局の指導が実行されるかどうかは、地方政府や地方の環境保護当局に委ねられている。・・・
 <このこともあって、>中国の環境法規制のうち実際に執行されているのは10%程度にすぎない。・・・
 <例えば、>北京などの一部の都市では水道料金が高騰しつつあるが、他の多くの都市ではコストの20%程度に抑えられている。つまり、水道水が安く調達できるために工場や地方自治体は、廃水処理による水資源の再利用や、水資源を節約しようとする動機をほとんど持っていない。
 さらに、水資源を汚染させても罰金が少額<なので、この点でも、汚染対策を行うインセンティヴが働かない>・・・
 <また、>01〜05年に環境保護のための予算として振り分けられた年間GDPの1.3%規模の資金のうち、合法的なプロジェクトに費やされたのはその半分にすぎない。<目先の経済成長のための資金に転用されているわけだ。>・・・
 <結局、>中国の環境問題<は、>、北京の成長至上主義路線だけでなく、腐敗した非民主的政治システムに起因している<、と言わざるをえない>。・・・」

→中共の公害問題は、何度も取り上げてきているので、その被害実態については、特に興味深いと感じたものだけを紹介しました。
 他方、どうして中共で公害対策が殆んど成功していないのか、については、かなり詳しく説明されているものを今まで紹介したことがなかったので、要点を全て紹介すべく努めました。
 最新の状況がどうなっているのかを、昨日付のWSJの記事で押さえておきましょう。(太田)

 「石炭による火力発電所からの排出・・それは大規模公害の諸問題の伝統的に主要な発生源だった・・を減少させる諸プログラムは、幾ばくかの成功を収めたことが次第に多くの証拠によって示唆されている。
 しかし、それは、急速に増大しつつある産業生産、例えば、石炭を燃料とする鉄鋼生産、及び、膨らみつつある数多の乗用車やトラックの燃費水準の悪さ、によって、部分的に掘り崩されつつある。・・・
 中共の二つの最大の<石油>精製業者たる、シノペック・グループ(Sinopec Group)として知られる中国石油化工集団公司(China Petrochemical Corp.)と<ペトロチャイナとして知られる>中国石油天然気股份有限公司(PetroChina Co. Limited)は、どちらも、自社の環境面での実績を擁護している。
 シノペックは、何十億ドルも精製所群の改善に費やしてきた、と言っている。
 <また、>ペトロチャイナは、国の<定めた環境に罹る>質的諸要求を順守していると言っている。
 <ところが、>何社かの鉄鋼メーカーは、<我々の>コメントの求めに回答を寄越さなかった。・・・
 中共の大小の国有企業群の取り扱いは、習近平の下での新中共指導部が経済改革のためにどんな努力をしようと容易ではないだろう。
 これらは、民間部門との間で資本と資源を巡って競い合っているが、これらは、同時に、政治家とつながっている指導者達を擁するところの主要な労働者雇用主であり、しばしば北京の政府の政策目標<達成>のための道具として機能することから、巨大な政治的影響力を与えられている。
 中共政府が、経済成長を支えるために、道路、鉄道その他のインフラに莫大な投資をしたことに伴い、鉄の生産は、近年、中共で着実に伸びてきており、2012年には3.1%増えた。
 電力部門とは違って、鉄鋼産業は細分化されていて、地方諸政府が、比較的小さく、そしてしばしば比較的汚い<(=公害を撒き散らす)>鉄工所に依存していることから、コントロールするのがより困難だ。
 2012年の最初の9か月において、比較的小さい鉄工所群は、価格下降の只中、比較的大きな鉄工所群が生産高を2%減らしたというのに、比較的小さい鉄工所群はその生産高を20%近く増やした。・・・
 諸費用が高騰しても消費者に転嫁できないことから、燃料価格が厳重に規制されているため、中共の鉄鋼製錬者達はよりきれいなディーゼルを製造するインセンティヴを持たない。
 他方、中共の自動車中、トラックは4分の1近くを占めているところ、それは、自動車<から排出される>粒子状物質の80%近くというべら棒な割合を占めている。」
http://online.wsj.com/article/SB10001424127887323301104578257484144272650.html?mod=WSJASIA_hpp_MIDDLEThirdNews
(1月23日アクセス)

→中共において、いつまで経っても、公共事業ないし基幹産業への傾斜的投資と地方や大企業への権限の委譲・・これらは日本型政治経済体制中採用された部分・・と(この記事には出てきていないところの)社会保障支出の切り詰めと(この記事にも出てきているところの)自由民主主義化の懈怠・・これらは日本型政治経済体制中無視された部分・・からなる政治経済体制の歪が公害を撒き散らす、という深刻かつ構造的な問題が解決されないままでいることが分かります。(太田)

(続く)