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太田述正コラム#5938(2012.12.31)
<フォーリン・アフェアーズ抄(その12)>(2013.4.17公開)

3 Foreign Affairs Report, December 2012, No.12

・アンドリュー・F・クレピネビッチ「緊縮財政時代の米国防戦略--日本の安全保障とA2・AD戦略」

 「Andrew F. Kurepinevich, Jr.<は、>・・・戦略・予算分析センター会長。ウエストポイントを卒業後、米陸軍に勤務し、この間に3人の国防長官のスタッフを務めた。陸軍時代にハーバード大学で博士号を取得した・・・。」(15)

 「韓国と台湾は地域防衛ネットワークへの重要な貢献ができるが、それでも、西太平洋の安全とアクセスを保証するアメリカの戦略の要となるのは、やはり日本だ。東京は潜水艦、対潜哨戒機、対艦巡航ミサイル、防衛機雷、対空・対ミサイル防衛、基地防衛の強化と基地の分散化など、もっとA2・AD・・・<すなわち、>接近阻止・領域拒否・・・への投資を増やすことで、中国や北朝鮮による攻撃の危険を低下させ、北東アジアの防衛にあたる米戦力の重荷を緩和すべきだろう。湾岸協力会議(GCC)諸国による同様の投資も、イランの地域的な脅威を最小限に抑えこむ助けになる。 」(8、11)

→韓国と台湾はともかく、どうして「日本の安全保障」の話に湾岸協力会議諸国が登場するのかと奇異に思った方がいらっしゃるかもしれませんが、日本が「独立」して再軍備をしてくれれば、米国の中東/インド洋における前方展開を継続できる、つまりは、世界の警察官役をかろうじて続けることができる、という趣旨だと受け止めればいいでしょう。
 (もちろん、オバマ自身はそんな役割は御免蒙りたい・・米国を南北アメリカ大陸の地域警察官程度へと引き籠らせたい・・のは山々なのでしょうが、中東/インド洋にはEUも日本も存在せず、しかも、最も「危険」な地域なので、当分の間、米国自らが、ある程度警察官役を果たさなければしょうがない、と考えているはずです。)
 とにかく、米国の日本への期待は極めて大きい、ということがこの論考からも伝わってきます。(太田)

・ルチール・シャルマ「BRICsの黄昏--なぜ新興国ブームは終わりつつあるのか」

 「Ruchir Sharma<は、>モルガン・スタンレー・インベストメントマネジメント社の新興市場・グローバルマクロ担当マネージングディレクター。」(25)

 「今後10年にわたって、アメリカ、ヨーロッパ、日本の経済はゆっくりとした成長に甘んじることになるだろう。だが、米欧日経済の停滞といっても、中国経済の成長率の34%の低下という、グローバル経済にとってのより大きなストーリーに比べれば、それほど心配する必要はない。既に鈍化し始めている中国の成長率は、経済が成熟していくにつれてさらに低下していくだろう。巨大な人口を抱え、しかも、人口が高齢化し始めている以上、これまでのような急成長を維持できるはずはない。」(22)

→依然として高度経済成長が続いている現在において、既に中共は危機的状況にある(前出及び後出)のですから、そう遠くない将来において、経済成長が著しく減速することが必至だとすれば、たとえそれまで中共当局が何とか持ちこたえられたとしても、その先は絶望的だ、ということになりそうです。
 既に指摘したように、オバマは、中共当局をそれまでに打倒しようと着々と布石を打っている、と私は見るに至っているわけです。
 申し上げるまでもなく、中共当局が倒れれば、論理必然的に北朝鮮の金王朝も滅亡します。(太田)

 「今後は成長軌道がさまざまな方向へと拡散するので、最近の経済ロールモデルは、新たなモデルに置き換えられていくか、モデルそのものが消失することになるだろう。
例えば、これまでアジア諸国は日本を経済モデルのパラダイムとみなし、バルト諸国からバルカン諸国は欧州統一市場に参加したいと考え、そして世界のあらゆる国が、程度の違いこそあれ、アメリカを経済モデルにしたいと考えてきた。しかし、 2008年の危機によって、これらのロールモデルの信頼性は大きく損なわれた。

→日本が、つい最近まで、少なくともアジア諸国全体にとっての経済ロールモデルであったことを、この筆者が認めている点は高く評価できます。(太田)

例えば、東京が犯した間違いによって、製造業のパワーハウスとして台頭している韓国が、日本よりもはるかに魅力的なアジアモデルとして浮上してきている。チェコ、ポーランド、トルコのような、かつてはEU(欧州連合)への参加を望んでいたし国も、ユーロ加盟国の一部が生き残るために大きな苦労しているのをみて、果たしてクラブに参加したいのかどうか、もはや確信が持てずにいる。

→日本と韓国は、旧日本帝国の後継たる2つの国であり、韓国モデルなるものがあるとすれば、それは、日本モデルの系以上のものたりえません。(太田)

アメリカに関しても同様だ。財政規律を保ち、経済自由化(改革)路線をとる国には資金が舞い降りるとされた1990年代のワシントンコンセンサスモデルも、当のワシントンが巨大な赤字の削減をめぐって政治的に合意できずにいる以上、もはや説得力はない。・・・
 この10年は、成長の奥行きとペースという面でグローバル経済にとって例外的な時期だった。そうした幸せな時代がまたやってくると考える者は、大きな失望に直面することになるだろう。
 一人当たり所得が2万〜2万5000ドルの国で、今後10年にわたって年3%を超える成を遂げると思われるのはチェコ共和国と韓国だけだ。そして、一人当たり所得の平均が1万〜1万5000ドルの国家集団内で、 4〜5%の成長を実現できるのはトルコだけだろう(ポーランドもそうなる見込みはある) 。5000〜1万ドルの所得集団に属する国で、他の諸国を引き離して成長できるのは唯一タイだけだと思われる。
従って、今後、新たな「新興国のスター集団」が登場するとすれば、それは、一人あたり所得が5000ドル未満の、インドネシア、ナイジェリア、フィリピン、スリランカ、そして東アフリカの様々な国になると考えられる。」(24)

→この中に、中共が登場しないことを再確認しておきましょう。(太田)

・ダミアン・マ「習近平政権の内憂外患」

 「Damien Ma<は、>ユーラシアグループ・中国アナリスト」(46)

 「<中国では>格差が非常に大きな社会問題になっているために、政府は、 (0から1で示され、1に近づくほど格差が大きいことを意味する)ジニ係数を発表するの止めてしまった。だが北京師範大学のリ・シの最近の研究によれば、中国のジニ係数は0.5に近づいており、社会が不安定化するといわれる警戒数値の0.4をすでに上回っている。
北京は大衆行動の件数、つまり、 100人以上が関わる地方でのデモ、暴動、暴力事件の発生件数も発表しなくなった。こうした統計は、これまで中国の公安部が発表してきたが、最後に発表されたのは2005年で、この年には9万件の大衆行動が起きていた。
 北京はなぜ発表を控えているかについて沈黙を守っているが、精華大学のある社会学者は、国内の大衆行動は2000年〜2005年の間に倍増していると推定している。・・・
 政治システムに対する社会圧力を緩和するには、北京はもっと情報公開をすすめ、法の支配を受け入れなければならない。
この領域での改革を中国政府が拒み続ければ、次の指導層の交代期である2021年には、中国共産党は党結成100周年を祝うのではなく、なぜ権力を失ってしまったかを考え込んでいることになるかもしれない。」(50〜51)

→中共当局が危機的状況にある、という点については、米国の論壇で活躍している人々・・必ずしも米国人に限らない・・の間でコンセンサスが成立している感があります。
 2021年までには、中国共産党も北朝鮮「王室」も消滅している、と信じたいところですが、そのこともあり、日本の一刻も早い「独立」が、米国、ひいては世界から待ち望まれているのです。
 (本日のディスカッションで引用した産経記事
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121231/plc12123102070000-n1.htm
を想起されたい。)(太田)

(第5部完)

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