太田述正コラム#5788(2012.10.17)
<オバマの外交政策について>(2013.2.1公開)

1 始めに

 本日のディスカッションで予告したコラム
http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/10/16/how_the_russian_reset_explains_obama_s_foreign_policy?page=full
を取り上げます。
 ちなみに、このコラムの共同執筆者の1人ののダグラス・J・フェイス(Douglas J. Feith)(注1)はブッシュ・ジュニア政権下の2001年から2005年まで国防省政策担当次官を務め、もう1人のセス・クロブシー(Seth Cropsey)(注2)は、米海軍士官歴(1985〜2004年)があり、レーガン政権下及びブッシュ・シニア政権下で米海軍副次官(deputy under secretary of the Navy)と務め、2人とも現在ハドソン研究所のシニア・フェローです。

 (注1)1953年〜。ユダヤ系。ハーヴァード大、ジョージタウン・ローセンター卒。
http://en.wikipedia.org/wiki/Douglas_J._Feith
 (注2)1948年〜。セント・ジョンズ・カレッジ学士、ボストン・カレッジ修士。ネオコンとして知られる。(海軍士官歴はこのウィキペディアには出てこない。)
http://en.wikipedia.org/wiki/Seth_Cropsey

2 オバマの外交政策

 「・・・国務省政策企画局の長としてオバマに仕えたアン=マリー・スローター(Anne-Marie Slaughter)<(注3)>は、2008年2月にコモンウィール(Commonweal)誌に「謙虚であるべき立派な理由(Good Reasons to be Humble)」と題する論考を寄せた。

 (注3)1958年〜。プリンストン大、オックスフォード大、ハーヴァード・ロースクール卒。国務省政策企画局長:2009〜2011年。その前はプリンストン大ウッドロー・ウィルソン・スクール学長、現在はプリンストン大学政治・国際問題教授。元米国際法学会会長。
http://en.wikipedia.org/wiki/Anne-Marie_Slaughter

 その中で、彼女は、米国は、「我々の倨傲(hubris)…が我々を矮小化し、数万人の不必要な死を招いたことをはっきりさせなければならない」と述べた。
 現在のホワイトハウスの補佐官(adviser)のサマンサ・パワー(Samantha Power)<注4)>は、ハーヴァード大の講師であった時、ニュー・レパブリック(the New Republic)誌の2003年3月3日号に、「罪を認める(mea culpa)教義を打ち立てることは、米国の意思決定者達が彼らの前任者達の罪(sins)を擁護(endorse)しないことを示すことで我々の信頼性を高めることだろう」と記した。・・・

 (注4)1970年〜。アイルランド生まれで米国に移住。エール大卒。ジャーナリストとしてピューリッツァー賞受賞後、ハーヴァード・ロースクール卒。ハーヴァード大ケネディ行政大学院教授を経て、オバマの最初の大統領選スタッフとなり、当時候補者の一人だったヒラリー・クリントンをモンスターと評して辞任。そして、現職。
http://en.wikipedia.org/wiki/Samantha_Power

→たまたまじゃないかと言われるかもしれませんが、批判者二人と被批判者二人の学歴と性別とを比較することで、それぞれのスタンスが理解できそうです。
 まず、米国の場合、学歴(≒知的能力)は大学院レベルで評価すべきであり、被批判者達の優位は明らかであり、この点で優位にある彼女達は、歴史や現在をより俯瞰的、客観的に見ているからこそ、米国の対外政策が過去において過ちの連続であったことや現在の米国の国力の相対的衰えを深刻に受け止めているのでしょうし、彼女達が女性であるからこそ、他国の人々の気持ちをより忖度できるとともにより平和志向的なのでしょう。
 それにしても、オバマは、自らもそうであるところの、ハーヴァード・ロースクールの卒業生が、(奥さんのミシェルもそう
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%90%E3%83%9E
ですが、)大好きなようで、そんなオバマが同じくハーヴァード・ロースクール卒業生のロムニー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%A0%E3%83%8B%E3%83%BC
と今回の大統領選を戦うことになったのは因果な話ですね。
 因果な話と言えば、ロムニー自身、被批判者の二人やオバマらとそれほど異なった考えを持っているとも思えないのですが、二大政党制の下で、批判者の二人のような人々を側近として使わなければならず、更に、何よりも、民主党支持者たる有権者に比べて相対的により無知でしかもキリスト教原理主義者の多い、共和党支持者たる有権者の票を集めなければならないことから、このところ、心にもない言動を行わざるをえないのであろう、と私は想像しています。
 優しいオバマ・・縄文人的とあえて言いたいですね・・は、そんなロムニーに同情的で、前回のTV討論の時に力が入らなかった、といったところではないでしょうか。(太田) 

 オバマは、原則として人権に反対したことはないどころか、その反対だ。
 しかし、とりわけ、大統領に就任した当初は、彼は、世界中の大勢の犠牲者達にお辞儀をし、謝罪し、告白すべきであって、しかるがゆえに、米国は、人権のための旗手としてしゃしゃり出る権利はないと信じていたふしがある。・・・
 <オバマは、>「自由世界」という言葉も、米国がその指導者であるという観念も好んでいない。・・・
 オバマ・・・は、冷戦中の米国の政策を批判した。
 というのは、彼に言わせれば、共産主義への反対が歴代の米大統領達をして、安全保障の追求に関して協力的であった諸政権(regimes)の人権侵害に関して目をつぶらせたからだ。
 <ところが、>現在では、核兵器ゼロの追求にあたって、オバマは、<例えば、>ブーチン政権の人権蹂躙の重大性を認めることを拒否している。・・・
 ・・・致命的であったところの、2012年9月11日のリビアでの米国の役人達への攻撃の後、ロシア大統領のウラディミール・プーチンは、米国が気が滅入っている時こそ、米国を蹴っ飛ばすチャンスだと見た。
 1990年代からそれが行ってきたところの、私的諸集団に民主主義について助言を与えるのが仕事であって、そのことを彼は明らかに憤っていた、米国際開発庁(the U.S. Agency for International Development)を追放することで、プーチンはそれをやってのけたのだ。
 おまけに、今まさに、彼は、ずっと続いてきたところの、ソ連の古い大量破壊兵器を破壊し安全にするため<に米国が資金を提供するところ>のナン・ルーガー(Nunn-Lugar)協力計画を反故にした。
 ロシアは米国からの助力など何もいらないというのだ。・・・
 要するに、オバマが、諸大国は、「他国に君臨したり(dominate)他国を悪漢呼ばわりしたり(demonize)することによって力を誇示する」ことはない、と声明してからの39か月というもの、ロシアは米国とNATOに対して挑むことに努め、ならず者諸政権、就中シリアとイラン、への政治的投資を増大させてきたのだ。・・・
 ロシアの主たる国益は石油が高価格であることであり、中東が激動するのはこの国益に資するわけだ。・・・
 ポーランドとチェコ共和国・・・は、ブッシュ大統領との間で、米国のミサイル防衛用レーダーと要撃ミサイルを<自国内に>設置することに同意した・・・。・・・
 ところが、オバマは、これらの合意よりも、これらの合意を取り消すことでロシアの善意を買うことの方が、より重要度が高いと明らかに決めたのだ。・・・」

→ロシアのことばかり、共同執筆者の二人が書いていること自体、核を大量に保有しているという点を除けば、もはやとるに足らない存在となったこの国を、アナクロにも、冷戦時代の感覚で彼らが見ていることを示しています。
 イランについては、オバマはイランが核能力を持つことは許さないと明言しています(典拠省略)し、シリアについては、米国(NATO)が軍事介入する法的環境が整っていないし、いずれにせよ、軍事介入した場合のコストが、このまま「放置」して時間はかかるけれどアサド政権の崩壊を見届けることのコストを顕著に上回る、と判断しているのだと思います。(太田)