太田述正コラム#5712(2012.9.9)
<いしゐのぞむ『尖閣釣魚列島漢文史料』を読む(その1)>(2012.12.25公開)

1 始めに

 長崎純心大学で漢文を教えておられるいしゐのぞむ(コラム#5679、5697)さんからご著書の『尖閣釣魚列島漢文史料』を提供いただいたので、その中から、台湾(中華民国)の外交部が引用している2つの史料に係る箇所(うち1箇所は台湾の馬英九総統(総統:2008年〜)が国民党主席に就任する前年(2004年)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%AC%E8%8B%B1%E4%B9%9D
に論文中で引用)をご紹介することにしました。
 公的に引用されているという事実に着目した次第です。
 もとより、今後、中共や台湾の公人やマスコミが引用した史料が出てきた場合にこの本に載っておれば、その都度、この本に拠って論評を加えるつもりです。

2 史料その一

 史料そのものは省略して、外交部がこの史料を引用している文章を下に掲げます。

 「中華民國外交部ネットページ・・・(平成23年12月6日掲載)に曰く、
 臺灣が康熙二十二年(西暦千六百八十三年)に正式に清朝に編入されたことに隋ひ、釣魚臺もまた臺灣の附属島嶼として併せて編入された。清代の御史の巡察した報告と、地方の編纂した福建省及び臺灣府の地方志とは、我が方の論證中で最も権威を有する歴史文獻だが、それらの中には清の康熙六十一年(千七百二十二年)に臺灣を巡視した御史黄叔○<(王偏に敬)>の著「臺海使槎録」巻二「武備」が含まれ、臺灣府の水軍艦艇の巡邏航路を列擧し、「山後は大洋にして、北に山有、釣魚臺と名づけらる、大船十餘を泊すべし」と稱する。」(162)

→いしゐさん。ネットから引用する場合は、URLをつけ、いしゐさんがこのURLにアクセスしたのがいつだったのかも明らかにすべきです。
 また、上記「」内は、外交部がこのように邦訳した文章をネットに載せているわけではなく、いしゐさんが邦訳されたということでしょう・・もしそうでないのなら、「原文のまま」とでも注記すべきです。・・が、邦訳にあたっては、(仮名遣いは現代仮名遣いを、また、)漢字は新字体をお用いになるべきでしょう。
 私自身、書き写すのに、漢字変換で大変苦労させられました。
 これは、いしゐさんご自身の文章の部分にもあてはまります。
 「と稱する」などは、「と称する」とされてしかるべきでしょう。
 以下、いしゐさんの「解説」を、現代仮名遣い、新字体漢字に直して紹介します。
 いしゐさん。あなたが文学者やエッセイエストであれば旧仮名遣い、旧字体で書かれるのもご自由ですが、教育者でいらっしゃり、かつ一般の人向けに尖閣問題等で啓蒙活動に従事しておられるようにお見受けするので、読み易く、書き写し易い文章を書かれることを強くお奨めします。(太田)

 「・・・この条は台湾の沿海河口・水道を列挙したもので、唯一釣魚台だけは台湾島外の記載である。この頃の台湾における清朝統治地域は、台湾府の管轄下に台湾西部の台湾県・諸羅県・鳳山県の三県を以て成っていた。台湾東部は「山後」と呼ばれ、先住民の居住地域であり実効統治は及んでいなかった。・・・
 <上記史料は、>釣魚台・・・<に>停泊した記録ではなく、停泊可能だと述べているだけである。実際に停泊したと書かれない以上、停泊せずにただ大きさを述べただけだと解釈せざるを得ない。また、諸河口・湾口の列挙の末尾で釣魚台に言及しているため、釣魚台を地理上で台湾島に連なるものと看做す意識が存在するのは確かだろう。しかし釣魚台についてだけは「有り」・「名づけらる」と未知の事物を紹介する語気であり、台湾島内の諸地名とは明らかな区別がある。釣魚台は普通に認知された地名ではないことが分かる。・・・山後すなわち東部にすら<清の>実効支配が及んでいないのだから、山後の大洋の北として認識された釣魚台にも統治が及んでいないことが強く推測される。また<清の>統治外<であることがはっきりしているところ>の<釣魚台以外の地名である▼▼▼>に載及していることからも、この条が統治界外まで含む記録だと分かる。後に至っても山後の中路・南路は、道光年間の姚△(颪離汽鵐坤な个鬟肇襦法帛鋪垰蓋緻げ蝶墾議」・傅安「臺灣番社紀略」など諸著作の「版図に隷せず」「未だ歸化せず」「化外の地」といった語の通り、統治が及んでいなかったことが知られている。

→▼▼▼については、書き写すのが大変なので「伏字」にしましたが、これが現在のどこなのか、ご教示ください。(太田)

 本条を含む卷二「武備」全体にも台湾各地の衛戍状況が記録されているが、全て台湾島の西側だけであり、東側には中華民国外交部の言うような艦艇巡邏も実地踏査も及んでいない。康熙二十二年に清朝の版図に入ったのは台湾全島ではない。」(163〜164)

→いしゐさんの主張はかなり説得力がありますね。
 台湾外交部等による反論があったらご教示いただけるとありがたいですね。(太田)

(続く)