太田述正コラム#5706(2012.9.6)
<インドの経済>(2012.12.22公開)

1 始めに

 昨日に引き続き、『學士会報』(No.896 2012-V)から、今度は、近藤正規国際基督教大学教養学部上級准教授の「インド経済の現状と今後の日印関係」のさわりをご紹介しましょう。

2 インドの経済

 「・・・インド経済の特徴の一つは、経済に占める輸出の比率が低く、内需主導である点です。・・・

→独立後長く維持されたところの、国内産業保護政策・・英植民地時代に国内綿織物工業を壊滅させられた等の経験を踏まえたものでしょうね・・のけがの功名ってやつでしょう。
 なお、「インド型社会主義」は戦後の英労働党の政策のコピーである、と私は受け止めています。
 (「独立以降、重工業の育成を図り、国内産業保護を政策としていた。冷戦が終わり、1991年に通貨危機をきっかけとしてインド型社会主義の実験を終え、経済自由化に政策を転換した。外資の導入、財政出動などにより、経済は成長を遂げた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89#.E7.B5.8C.E6.B8.88 )(太田)

 もう一つの特徴は、サービス産業が経済を牽引していることです。通常は経済成長に伴い、主幹産業が農業、工業、サービス産業と移行していくものですが、インドではGDPに占める農業の比率が60%から15%に下がったものの、工業の比率は変わらず、代わりにサービス産業が伸長し<(注1)>、GDPの60%を占めています<(注2)>。・・・

 (注1)2005〜1010年の間、一貫して、しかも各四半期を通じて、サービス部門の伸びがGDPの伸びを上回っている。
http://indiabudget.nic.in/es2010-11/echap-10.pdf
 (注2)中共では、39.2%(2009年)にとどまっている。(同上)

 インドのサービス産業というと多くの方がITを思い浮かべるでしょうが、IT産業はインドのGDPの5%程度を占めているに過ぎません。小売産業を始めとして、運輸・通信・金融を含むサービス産業が、インド経済の主幹産業ということになります。

→どうしてインドでサービス部門が隆盛を極めているのかについて、説明するサイトがすぐには見つかりませんでしたが、私には、カースト制と無関係であるとは思えません。
 (「IT関連産業などは、当然カースト成立時期には存在しなかったので、カーストの影響を受けない。インドでIT関連事業が急速に成長しているのは、カーストを忌避した人々がこの業界に集まってきているからと言われている。しかし、高等教育を受けることが出来ない下層カースト出身者は高度な仕事が出来ない上に、仮に優秀であったとしても上層カースト出身者で占める幹部が下層カースト出身者を重要なポストに抜擢することはなく、表面的にはカーストの影響を受けないIT関連事業においてもカーストの壁が存在するのが現状である。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88 )
 ちなみに、インドのカーストは、プリーストランドの本を扱ったシリーズ(コラム#5688、5692、5696)での用語を用いれば、バラモンは賢人、クシャトリアは戦士、ヴァイシャは商人、シュードラは農民、不可触選民はその他、という感じでしょうか。(プリーストランド自身、その発想をインドのカースト制度に負っているのは間違いないでしょう。)(太田)

 一方、鉱工業部門のGDPに占める比率は過去20年間でほとんど変わっていません。・・・<つまり、>鉱工業<が>GDPと同じ成長率で伸びている<ということです。>・・・
 インド経済の最大課題は、インフラ整備が遅れていることです。・・・インドでは、人口の60%を占める農民のために様々な補助金がばら撒かれてきたため、財政赤字が深刻で、電力<(注3)>・道路・鉄道・水道など産業振興のためのインフラ整備に回す資金がありません。・・・

 (注3)「7月30、31日と2日連続でインドを襲った大停電・・・<で>12億人が暮らすこの国・・・で6億人以上が電力を失<った>」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120816/235609/
のは記憶に新しいところだ。

→前にも指摘したことがあります(コラム#省略)が、インフラ整備よりばらまき、というのは、特に中共と比較した場合に、まさに民主主義のコストと言えるでしょう。(太田)

 <その財政赤字についてですが、>日本と同様、国債の大半は海外の投資家によってではなく、国内で消化されており、短期資金の流入に対する規制もあるため、ギリシャ、ロシア、インドネシア、タイ、韓国などで起きたような経済危機が起きにくいです。・・・ ただ、日本と違うところは、インドの場合、高い経済成長率のおかげで税収も増加傾向にあることです。
 インドの財政赤字の比率は、今年の予算で5.1%(対GDP比)に設定されています。インドの国債発行残高(対GDP比)は68%で、日本(229%)、やアメリカ(102%)に比べれば少ないものの、途上国としては高すぎます。「先進国になる前に高齢化を迎えたのが中国だとしたら、先進国になる前に財政赤字大国になったのがインド」と言えます。・・・」(29〜31)

→なるほど。(太田)

 「・・・インドの輸入品第一位は原油・石油製品、輸出品第一位も石油製品です。石油資源に乏しいので国内で消費される石油の7割以上を輸入し、精製して輸出しています。・・・
 輸入品第二位は金・銀・真珠・貴石類となっていますが、一方で輸出品第二位は宝石・宝飾品です。これはインドはダイヤの原石を輸入し、加工研磨して世界に輸出することによります。世界で流通するダイヤモンドのうち、数量ベースで9割、価格ベースで6割がインドで研磨加工されたものです。・・・」(33)

→これは知りませんでした。(太田)

 「・・・08年<の>・・・アメリカに続き、フランス、ロシアとも原子力協定が結ばれ、これらの国々の大手企業は早速、インドで原発を受注しています。
 一方、・・・日本とインドとの間には協定はありません。そのため、日本からインドに原子力関係の部品を輸出できず、米仏露の企業がインドで原発を建設する上での問題となっています。・・・こうしたことから、アメリカとフランスは日本政府に対しロビー活動を行い、日本とインドの間で原子力協定締結に向けた交渉が始まっていますが、交渉はなかなか進んでいません<(注4)>。・・・」(34)

 (注4)「日本政府は、日本が唯一の被爆国で、インドがNPT・核拡散防止条約に加盟していないことからインドとの原子力協力に難色を示してきました。しかし、<一昨>年、方針を転換し、インドと協定の締結交渉を開始しました。方針転換の理由は2つあります。1つは協定を結んでインドに核実験の凍結などの不拡散の義務を負わせ、NPT体制に取り込むきっかけにした方がよいと判断したことです。もう1つは世界の主要国がインドの原発市場に相次いで参入しているのに対抗して、日本も原発の輸出を積極的に進めたいという狙いがあります。<しかし、>原子力協定の交渉は・・・<福島>原発事故のあとは停滞してい・・・<ま>す。」
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/450/82360.html

→野田首相が、早期に協定締結にこぎつけてくれることを願って止みません。(太田)

 「・・・貿易額では、日印貿易は日中貿易の20分の1以下にすぎません。人の動きでも、日印は日中の20分の1から30分の1にすぎませんが、08年度はインド向け投資額<が>中国向け投資額を上回ったという画期的な年でした。・・・09年度・・・、10年度・・・は減少したものの、インドは今や日本にとって中国やASEANと並ぶアジアの三大投資先の一つです。・・・
 <ちなみに、>インドのGDPは為替レート換算では中国や日本の4分の1ですが、購買力平価換算によるGDPでは、昨年日本を追い抜きました。・・・」(36)

→中共を牽制するためにも、日本とインドの(軍事上の結びつきはもとより、)経済上の結びつきを一層活発化させなければなりませんね。(太田)