太田述正コラム#5690(2012.8.29)
<フォーリン・アフェアーズ抄(その5)>(2012.12.14公開)

・ブラタップ・パーヌ・メータ「インド経済の政治不況」(2012No.8より)

 「Pratap Bhanu Mehta<は、>ニューデリーのシンクタンク、インド政策研究センターの理事長」(91)

 「・・・2010年にGDP成長率が10%を超えると、多くのインド人は、そうした優れたパフォーマンスを当面維持できると考えた。・・・
 しかしその期待も、経済成長が年6%に鈍化したいまや、急速に薄れつつある。・・・
 財政赤字が拡大し、インフレも上昇している。民族と宗教を超えた国づくりも行き詰まり、所得格差が拡大している。・・・
 とはいえ、・・・インドの貯蓄率は今も30%を超えている(因みにアメリカの貯蓄率は5%未満)。・・・個人消費率は60%前後と中国よりも高い。・・・
 <また、>地域的な社会暴力は「2002年のレベルの10分の1に減少し、毛沢東主義派の暴力を除けば、過去10年間であらゆる形の政治的暴力が大きく低下している。・・・

→インドにおける政治的暴力の減少は、余り取り上げられていない明るい話題ですね。
 もっとも、スズキのケースが示しているように、経済的暴力は必ずしも減少していないようですが・・。(太田)

 つまり、・・・インドは・・・世界の経済大国の仲間入りを果たす力を・・・持っている。問題は政治が経済成長を邪魔していることだ。・・・

→英植民地支配、カースト制/ヒンドゥー教等の、歴史、文化、文明面の事柄にメータが全く触れていないために、この論考は皮相な分析に終始してしまっています。(太田)

 <その第一の理由だが、>、インド政治がひどい分裂状態にあるために、コンセンサスの形成が非常に難しくなっていることを指摘できる。・・・
 国民会議派は単独で法案を通すだけの議席を持っていない。しかも、連立パートナーは・・・政府が支持を求める重要な改革法案にことごとく反対している。

→これは民主主義のコストってやつでしょうね。(太田)

 <また、国民会議派は、>イギリスの植民地支配から独立した1947年以降、インドの64年間の歴史で53年間政権を担ってきた。それなのに州政治レベルではいまだに明確な勝利を得ることも、支持基盤も確立できずにいる。・・・
 <だから、>国民会議派は、・・・草の根の運動や人々の声に対応する力を持っていない。・・・

→これは、英植民地統治の遺産でしょう。(太田)

 第2の理由は、<腐敗によって、>政治家の権威が著しく低下しているためだ。・・・
 <政治家が腐敗していることもあり、インドは社会の多くの部分が腐敗している。>
 <例えば、>インド政府は、成長の恩恵を・・・中小企業<ではなく、>・・・ひどく腐敗している<ところの、>大企業<に>優遇策<の形で還元してきた。>・・・
 <また、>社会保障を含む社会プログラムが実施されてきた<ものの、>・・・非効率と腐敗ゆえに、その資金の大部分はターゲット層に届いていない。・・・

→一般に発展途上国に腐敗はつきものですが、それに加えて英植民地統治の悪しき遺産、或いはインド固有の文化的文明的理由、もあげられそうです。(太田)

 <第3の理由は、>現在のインドが、国民会議派を含むいかなる政党でもうまく対応できないような、大きな政治文化の変革期にある<ことだ。>最近までインドのすべての政治家と官僚は「上への説明責任、大きな自由裁定権、秘密主義、中央集権」という四つの原則を共有していた。・・・

→これらすべては、やはり、英植民地時代における、副王ら英本国によって政治任命された「政治家」と主として英国人によって構成された英インド帝国官僚によるインド亜大陸統治の遺産である、と考えられます。
 これらの政治文化的属性は、全方位説明責任、自由裁定権の分散、秘密の共有、権力分散(ボトムアップ)という日本型政治経済体制とは対蹠的です。(太田)

 「上への説明責任」とは、州政府職員が市民や他の組織ではなく、直属の上司に対してだけ説明責任を果たすことを意味していた。しかし今では、・・・インド最高裁や会計監査院のような政府機関による水平的管理が広がり始めている。・・・メディアもこれまで以上に大きな影響力を持つようになった。・・・
 <「大きな自由裁定権」については、>政府の決定によって影響を受ける有権者に、自由裁定に基づく決定をいかに正当化していくか<が>・・・重要<になりつつある。>・・・
 「秘密主義」<については、>これまで人々は、政府文書、統計資料、行政手続きに関するいかなる情報にもアクセスできなかった。・・・
 <その結果、インド行政府は、>透明性を確保し、規制体系を合理化する<に至っていない。>
 だが状況は劇的に変化している。現政権の1期目における唯一かつ最大の功績は2005年に情報公開法を成立させたことだ。・・・
 最後に・・・「中央集権<」>体制・・・も崩れつつあ<り、>少しずつだが、地方政府に権力が委譲されつつある。・・・
 <なお、やや次元の異なる問題だが、>現状では、憲法上の統治責任者はマンモハン・シンかもしれないが、本当の権力を握っているのはガンジー家だ。これでは、何か問題が発生した場合、権力を持たない者が説明責任を負うことになってしまう。そして権力を操る黒幕がいる限り、首相は無力だとみなされる。・・・」(82〜91)

→独立後のインドにおいて、ガンジー家による闇支配がもたらされた原因、更にその背景にあるところの、国民会議派の存在感の大きさ、についても、メータは一言あってしかるべきでした。(太田)

(第2部 完)