太田述正コラム#5863(2012.11.24)
<皆さんとディスカッション(続x1732)>

<太田>(ツイッターより)

 グラフを見て欲しいが、米国で人口当たり自動車運転距離が減少に転じている。
 高齢化の影響だって。
http://www.slate.com/blogs/moneybox/2012/11/22/vehicle_miles_per_capita_in_decline.html

<TA>

 フォーリン・アフェアーズで、持病を抱える安倍議員が自民党総裁に就任し選挙を戦おうというタイミングを狙いすましたように公開になった記事があったので、(主にこういう行為が好きという個人的理由から)ご紹介させて頂きます。

 権力と精神病理――政治権力と自信過剰症候群
 シャーウィン・B・ヌーランド イエール大学医学部臨床外科教授
 フォーリン・アフェアーズ リポート 2009年1月

 ↑同じエール大学ってところもニクイです。↓

 安倍氏、野田首相の批判に反論=金融政策、<エール大学教授>の「お墨付き」【1
2衆院選】
http://jp.wsj.com/Japan/Politics/node_551389

<太田>

 お示しのフォーリン・アフェアーズ論考、こんなところが面白かったですね。↓

 「・・・イーデン<英首相>・・・は、「肝機能障害と高熱を伴う病気・・・」<に罹っていた>。
 <この病気の>薬物治療の副作用もあったと考えられる。例えば、彼に処方されていたドリナミルは落ち着きのなさや苛立ち、そしてうぬぼれといった副作用を伴う。イーデンが「イスラエルと手を組み、米大統領を欺き、エジプト侵攻後にもイギリス下院で嘘をつく」という致命的な間違いを犯したとき、彼の判断力は「著しく損なわれていた」。・・・
 <また、>人間は権力を持つことで精神構造に変化が生じ、自信過剰な行動をとるようになるが、これはたんなる性格上の特性ではなく、病理的なものである・・・。・・・政権の座にある期間が長ければ長いほど、こうした傾向は強くなり、その結果、「政策遂行能力の完全な欠落」という事態に陥る・・・。・・・ 自らを過信した指導者は、崇高な道徳的使命を遂行するためなら、嘘や手抜き、外国への侵攻も厭わない。時とともに権力が強大化し、誰も指導者に異を唱えなくなると、指導者の奢りと自信過剰はますますひどくなる。・・・
 国の指導者は就任の際に、健康面でのプライバシーを放棄することに合意すべきであ<る。>・・・」

 だけど、肝心の二人、ギラン・バレー症候群であった可能性が高く、しかも12年以上にわたって大統領を務めたフランクリン・ローズベルト(注)、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88
及び双極性障害持ちのチャーチルに触れないってのは困ったもんですね。

(注)建国の父達から始まり、20世紀半ばまでの米国の指導層は人種主義者ばかりだと指摘した「ジェファーソンの醜さ」シリーズ(未公開)との関連では、下掲を銘記すべきだろう。
 「駐米イギリス公使・・・との私的な会話で・・・<ロ>ーズベルトは、・・・日本人の頭蓋骨は「われわれのより約2000年、発達が遅れている」という見解を紹介した上で、・・・「インド系やユーラシア系とアジア人種、欧州人とアジア人種を交配させるべきだ。だが日本人は除外する」、「日本人が敗北した後は、他の人種との結婚をあらゆる手段を用いて奨励すべきである」などと<この公使>に語った」(上掲ウィキペディア)

 同様、この書評の対象たる本も書評子自身も、チャーチルが日本を対米英開戦に追い込んだ大チョンボに触れてないのは嘆かわしい限りだ。↓

 <チャーチルは、米国が英国の利益を念頭に置いて行動してくれると思い込んでいたとさ。↓>
 ・・・Churchill・・・did not, for instance, really understand the relationship with the United States, wrongly assuming that the Americans would keep British best interests in mind. Nor did he remotely understand how the atom bomb changed not only warfare but international relations.
 <チャーチルが1945年の総選挙で敗北したのは、国民が戦時社会主義化した英国を戦後も維持したいと思ったからだと書評子は主張してるが、ボクに言わせれば、国民が、大英帝国崩壊を予感した、換言すれば、先の大戦参戦の費用便益分析をやってマイナスと判断したということ。↓>
 Even more seriously, he did not comprehend the way the British people had changed because of their struggle. Industry was nationalized, food rationed and labor controlled. Britain became a socialist nation in all but name. Far from resisting these changes, the British welcomed them because a fairer society evolved. Burdens were shared and rewards equitably distributed. Despite shortages, health actually improved. No wonder, then, that the people saw the wartime context as a model for the New Jerusalem they hoped to build after victory. ・・・
 <チャーチルがドレスデンの徹底的空爆に固執したのは対独復讐或いは対ソ脅迫ってんだけど、米国による原爆投下にゴーサインを出したのはなぜなんだい?↓>
 One example of the book’s superficiality is its discussion of the destruction of Dresden. The authors present that action as just another episode in a long bombing campaign, yet historians now generally accept that it was something uniquely vicious. Interpretations vary: It was perhaps an act of spite, an attempt to intimidate the Soviets or a manifestation of Churchill’s febrile bellicosity.・・・
http://www.washingtonpost.com/opinions/the-last-lion-winston-spencer-churchill-defender-of-the-realm-1940-1965-by-william-manchester-and-paul-reid/2012/11/17/6a251b26-1478-11e2-ba83-a7a396e6b2a7_print.html


 それでは、その他の記事の紹介です。

 なんで、「国防軍・核想定」や集団的自衛権行使が「右」なのかい、朝日サン。
 核恫喝を平気でやる中共、北朝鮮はさしずめ「極右」なんですかい?

 「右に寄る自民・維新 「国防軍・核想定」・・・
  「尖閣を防衛するため日米の船が航行していて、米国の船が攻撃された時、自衛隊が米国を助けるか助けないかが、集団的自衛権を行使できるかできないかということだ。助けなかったら日米同盟は終わる」
 自民党の安倍総裁は23日、岐阜市内で講演し、集団的自衛権行使の必要性を強調した。・・・
  自民党の安倍晋三総裁は2007年の首相当時、有識者懇談会に行使について検討を指示。公海上で隣の米艦が攻撃された時や米国に向かう弾道ミサイルの迎撃で、行使を可能とすべきだとの結論を出した。

→ホント、危なかしくってしゃーないよ。
 ボクの言ってる、吉田ドクトリンを恒久化するための集団的自衛権の部分的解禁をやらかしそうだな。(太田)

 集団的自衛権の行使は野田佳彦首相の持論でもあるが、首相就任後は封印している。ただ、今年7月には「集団的自衛権の一部を必要最小限度の自衛権に含むというのは一つの考えだ」と国会で答弁。行使が合憲になる場合があるとの認識を示している。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201211230753.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201211230753

→野田首相による民主党の安保政策の大転換とその再度の大転換は実に興味深い。(太田)

 「野田佳彦首相(民主党代表)は23日、・・・「自民党の政権公約はすぐにでもできること、可能なことを盛り込んだと安倍氏は言っているが、憲法9条の改正を含め、国防軍というのはそう簡単にすぐできることなのか」と批判した。・・・
 日本維新の会代表代行の橋下徹大阪市長は23日のテレビ朝日番組で、国防軍について「(自衛隊の)名前を変えるのは反対」と言明。公明党の山口那津男代表も22日、「長年定着した自衛隊の名称をことさら変える必要性はない」と否定的な考えを示している。」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121123/plc12112321410006-n1.htm

→自民党は、自衛隊の国防軍への名称変更を、政府憲法解釈変更で行おうとしているのか、憲法改正で行おうとしているのかを明らかにすべきだ。
 前者だとすれば、集団的自衛権の部分的解禁とは論理的整合性がないぜ。(太田)

→野田政権は、具体面においては、引き続き、着々と安保政策を前進させつつある。↓

 「日米、新型戦闘艦を共同研究へ 中国抑止の象徴に・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121124/plc12112409170004-n1.htm

 昨日指摘したように、橋下市長は、太陽との合併で自信ができ、みんなつぶしに出たと見るべきであり、産経のこの分析は誤りだろう。↓

 「日本維新の会代表代行の橋下徹大阪市長が23日に呼びかけた「吸収合併」に対して、みんなの党の渡辺喜美代表が強く反発・・・。衆院選の候補者調整のもつれをきっかけに両党の関係は一気に悪化。
 (旧太陽の)園田博之前衆院議員から江田幹事長に、都知事選は一緒にやりたくないという話が来た<とも。>・・・
 民主でも自民でもない第三極の一大勢力は「共闘」どころか「共倒れ」の可能性も出てきた。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121124/elc12112408100018-n1.htm

 はいはいよくできました。↓

 「中国、空母「遼寧」で艦載機の着艦に成功・・・」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/11/24/2012112400506.html

 全ての種類の色の光線を合わせると白い光になるし、全ての種類の音を合わせると白い音になることが分かっていたところ、このたび、全ての種類の臭いを合わせると白い臭いになることが分かったって。
 白い音と白い臭いを体験してみたいもんだ。↓

 Light of all colors or wavelengths combine to form white light. Similarly, sounds of all different frequencies mix to produce white noise. ・・・The researchers discovered that a white odor does, in fact, exist. ・・・
http://newsfeed.time.com/2012/11/23/researchers-discover-white-noise-of-smell-olfactory-white/

 だそうですよ。↓

 「「性体験遅いと出世する」 テキサス大研究結果・・・」
http://news.livedoor.com/article/detail/7170897/ 
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 一人題名のない音楽会です。
 今回は、ブラームスに関する記事↓の内容をご紹介する形でお送りします。
http://www.slate.com/articles/arts/music_box/2012/10/brahms_third_symphony_what_you_can_learn_about_the_man_from_the_music.single.html
(10月24日アクセス)

 「・・・ブラームスは、彼の発見者であり良き指導者であったロバート・シューマンが<精神病を病んで>療養所に入っていた時、その妻のクララ(Clara)<(コラム#5095、5253)>に恋をした。
 その後、彼は、クララの娘であるユリエ(Julie)にも恋をした。
 彼は、ユリエが結婚したことを聞いた時、絶望してアルト・ラプソディ(Alto Rhapsod)

 歌唱:JANET BAKER
http://www.youtube.com/watch?v=BQizeJWTO78
http://www.youtube.com/watch?v=NR018bPKc5w&feature=fvwrel

を作曲した。
 <ただし、>彼は、クララに対しては、これは自分の婚礼歌であると伝えた。
 しかし、彼の友人達は、<ブラームスの>ト長調弦楽六重奏(G-Major String Sextet)

 演奏:Heifetz, Piatigorsky et al
http://www.youtube.com/watch?v=UbV-1r5QVu4

に、指輪を交わしてから突然彼が振った女性の名前が出て来る(spell out)ことを知っていた。・・・
 <また、ブラームスのクララへの想いが分かるのが、>ロバートが彼女の名前をC A A(ハ イ イ)音符の形で織り込んだところの「クララの主題」<を>・・・ブラームスが何度も用いていて、最後に、彼の晩年のFour Serious Songs

 Kathleen Ferrier
http://www.youtube.com/watch?v=QWqcizxMGa8&feature=related

の一つの中でも用いた<ことだ。>
 ブラームス自身、内輪の席で、<この歌は、>「シューマン夫人に関して<作曲したもの>だ」と説明している。・・・
 <もとより、ブラームスとシューマンとの関係にも濃密なものがあった。>

 第3交響曲(Third Symphony)
 Sir Colin Davis指揮 Sinfonieorchester des Bayerischen Rundfunks
http://www.youtube.com/watch?v=FtrBd2hRPb8 ←24:34〜31:14の第三楽章だけでも聴こう!

 <このブラームスの曲は、>忘れがたいことに・・・ブラームスは一度もそう語ったことはないが、ロバート・シューマンがその第3交響曲

 Christoph Eschenbach指揮 NDR Symphony Orchestra
http://www.youtube.com/watch?v=DeJeGzyQ2wI&feature=related

に用いた主題<が用いられた>出だしから始まる。
 <ただし、>ブラームスは、シューマンの主主題を借りたのではなく、第二楽章の真ん中あたりに登場する派生主題(derivation)を借りている。
 この主題を通じて、シューマンは、ブラームスの第3交響曲の中に存在しているのだ。・・・
 シューマンは、ブラームスが20歳で自分が43歳であった時に、「この青年はドイツ音楽の未来になるだろう」と宣言した、有名な記事を書いている。・・・
 ロバート・シューマンは、彼の第3交響曲をライン(Rhenish)交響曲と呼んだ。
 換言すれば、これは、ドイツロマン主義者達にとって一種神秘的な川であったライン川(Rhine)についての交響曲なのだ。・・・
 極め付きのロマン主義者であったロバート・シューマンが自殺しようとして飛び込んだのはライン川だった。・・・
 <ブラームスの>交響曲第3番のフィナーレ・・・で、再びシューマンの主題が登場する。
 それは、魔法のような、囁くような雰囲気へと漂いながら下降して行く。
 主題の最後に、何度も何度も、ブラームスが良く知っていた断章(phrase)を示唆する和音群が聞こえてくる。
 それは、ベートーベンの告別(Lebewohl=Farewell)ソナタ(注)

 ピアノ:Claudio Arrau
http://www.youtube.com/watch?v=PlJGliWCDVc&feature=related

(注)第一楽章に告別、第二楽章に別離、第三楽章に再会という副題が付けられている。「ピアノソナタ第26番変ホ長調作品81a《告別》は、彼のパトロンでもあり弟子でもあり友人でもあったルドルフ大公が、ナポレオン軍の侵攻を避けてウィーンを逃れ、翌年戻ってきたという出来事を織り込んで作曲したピアノソナタである。ベートーヴェンが自分自身で標題を命名したピアノソナタは、この《告別》と《悲愴》しかない。彼の標題つきのピアノソナタの中でも、俗にいわれる三大ピアノソナタに次いで人気が高い。
1810年に完成、翌1811年に出版された。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%82%BF%E7%AC%AC26%E7%95%AA_(%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3)
 ルドルフ大公(1788〜1831年)は「神聖ローマ皇帝レオポルト2世の末子」。彼自身も作曲をした。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%92

の始まりに登場する「告別」モチーフだ。
 ・・・ブラームスの第3交響曲は、彼の人生における感動と苦悩の時期、彼の若きヴェルツェル時代、そして彼にとっての悲劇的な良い指導者たるロバート・シューマン、に告別を告げた曲なのだ。」
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太田述正コラム#5864(2012.11.24)
<陸軍中野学校終戦秘史(その4)>

→非公開