太田述正コラム#5642(2012.8.5)
<ロシアと国家マフィア主義(その3)>(2012.11.20公開)

 (2)ロシアの諜報機関

 「・・・ロシア軍はその前身の名存実亡的存在(ghost)に堕してしまっているかもしれないが、(内国諜報のための)FSB、(外国諜報のための)SVR、及び(軍事諜報のための)GRU、に分割されたところの、古のKGBは、その、全ての威信と豊富過ぎるほどの資金を維持している。
 FSBだけで、300,000人の人々を雇用しており、米海兵隊よりはるかに大きい・・・。・・・」(A)

 「・・・<ロシアの支配者達>がコントロールしているところの、<諜報>諸機関は、約340万人の(大部分が男性の)特権的一団を雇用しており、これら諸機関は、古のソ連共産党の力、富、そして多くの特徴を承継してきている。・・・」(E)

 「・・・現在のロシア社会における高レベルの腐敗にもかかわらず、これらの特殊諸機関は、引き続き仕事に専念していて、弾力性があって、適度に規律が高いように見える。・・・」(C)

 (3)国家マフィア主義

 「・・・マグニツキー事件は重要だ、とルーカスは主張する。
 というのは、国民国家における通常の諸機能である、行政府、経済界、そして司法が、市民に対して、窃盗、詐欺(chicanery)、そしてマグニツキーの件に関しては、その全てに加えて死の手段へと捻じ曲げられている<ことを、この事件は指し示している>からだ。・・・」(D)

 「・・・ルーカスは、彼が海賊国家的諸機能と呼ぶ体制がどのように機能しているかを説明する。
 それは、賄賂とリベートを潤滑油としており、公共消費の半分がそれを管理する者の懐に入るところの、ロシア「スパイ主義(spookocracy)」は、今後永久に続く可能性がある、と。・・・

→私は、現在のロシアのイデオロギーについて、ルーカスが名付けた「スパイ主義」より、後出の米国務省電信の「マフィア国家」という表現を踏まえたところの、「国家マフィア主義(State-Mafia-cracy)」と呼んだ方が、より適切であると思います。(太田)

 しかし、<ロシアにおける>この何週間かの諸抗議運動は、ロシア人達が、プーチンと諜報機関群に対して、堪忍袋の緒を切らしつつあることを証明している。
 とはいえ、ロシア人達は、ロシアの盗賊政治(kleptocracy)について、そのロシア内での略奪行為(depredation)に比して、略奪行為の国際的側面(dimensions)に余り気付いていない。
 この両側面(aspects)に最もよくまたがっている事件が、ロシア人弁護士で、2億3000万ドルの詐欺(fraud)を暴露しようとして、投獄され、拷問され、殺された、セルゲイ・マグニツキー事件だ。
 英国系米国人の金融家でマグニツキーを雇っていたウィリアム・ブラウダー(William Browder)によるキャンペーンのおかげで、マグニツキー事件は今や大反響を呼び起こした事件(cause celebre)となり、この事件に関わったところの、どんどん増えつつあるロシア人官僚達の名簿掲載者達は米国入国を禁止されるに至っており、英国政府も議員達から米国政府と同じ対処をするよう圧力をかけられている。
 例によって、クレムリンは、傲慢な対応を行っており、この死亡した男の家族を迫害するとともに、故マグニツキーに対してみせしめ裁判を行うぞと脅かしている。・・・」(E)

 「・・・<このようなロシアの実態は、アンナ・チャップマンの亭主だったところの、>不運なるアレックス・チャップマン(Alex Chapman)のように、欧米出身者でロシア人と恋に陥った者全てを悩ませることだろう。・・・」(D)

 「・・・アンナ・チャップマン<は、>・・・同じく<ロシア人>スパイである父の娘だったが、彼女は、欧米の繁栄を支えているところの、民主主義、自由、或いは法の支配の何たるかについて全く無知なのに、欧米の富を妬ましく思うという、ポスト・ソ連の典型的な産物なのだ。・・・」(E)

 「・・・計画経済から自由経済へ、国家的検閲から自由なメディアへ、そして一党支配から自由選挙へ、というのは巨大で重要な変化だった。
 しかし、政治と経済の体制の変貌は、これらの体制に棲息するに至った人々を瞬時に変えることはできなかったのだ。・・・」(G)

 「・・・<この本>は、いかにロシアの支配階級がスパイの機構(machinery)をそのまさに生存のために必要とし、維持しているかを・・・明らかにしている。・・・
 特に、・・・FSBはロシア内で唾棄すべき役割を演じているし、・・・SVRの内部は身内びいきと腐敗だらけときている。・・・」(D)

 「・・・この図柄の中では、ロシア国家の諸機関は、諜報組織(apparatus)を含め、そのメンバー達を富ませることを狙ったところの、超司法的なやみ商売(racket)としてのみ運営されている。
 しかも、それは、ロシアにおける腐敗に通じている人々が、不正入札、いかがわしい収用、そして日常的賄賂から予期するところの、国内での金銭的富裕化だけを意図したものではないのだ。
 むしろ、ルーカスは、ロシアの諜報諸機関は、<この諸機関に>深く根を下ろしたところの、排外主義的攻撃でもって外国の秘密事項の窃盗を行うことによって自分達自身を富裕化させる事業に従事している、と主張しているのだ。・・・」(D)

 「・・・リークされた米国務省の電信は、ロシアを「バーチャルなマフィア国家(virtual mafia state)」であるとし、そのスパイ達が、ギャング達を使って、<トルコの>クルド人叛乱者達には銃を、そして、イランには高度な対空ミサイルを、密輸している、と非難している。
 ルーカス氏が引用したあるスペイン人検事は、「[ロシア]政府と組織犯罪集団とを区別することは不可能である」と信じていて、このギャング達がスペインの法制度よりも上手(うわて)になりつつあるのではないかと恐れている。・・・
 <ちなみに、>北京政府の諸機関は、恐るべきハッカー達を擁しており、軍事的な、そして技術的な秘密を盗むことに長けている、と自他ともに許している。
 しかし、連中は、人々を殺害したり、我々<欧米諸国>の意思決定を捻じ曲げたり、我々<欧米諸国>の同盟を攪乱したりはしない。・・・」(A)

 「・・・プーチンのロシアは、今やあらゆるイデオロギー的制約から自由になったが、新しいご主人達は、彼らの権力をカネに立脚させている。
 その結果、ギャング主義(gangsterism)が政治と、そして国際マフィア作戦が外交政策と、交錯するに至っている。
 ロシア国内では、保安機関のFSB・・これを多くのロシア人は、サウディアラビアの宗教警察やイランの革命防衛隊に準える・・が、そのご主人達の経済的利益並びに政治的利益に奉仕している。
 そして、外国では、FSBの姉妹機関であるSVRが、種々のロシア・マフィアと並行して、<ロシア・マフィアと>おおむね同じ目的のために働いている。
 浸透、操作、そして破壊活動が、過去の在来型のスパイ活動から受け継がれている。
 この二つの<諜報>機関は、ルーカスの言葉で言うと、「狂信的愛国主義と犯罪性の猛毒的結合」へと分かちがたく網にからめ捕られているところ、その<共通の>主要な要素は、巨大な額の現金の移動と洗浄だ。
 このことがもたらしている効果は極めて腐食的であり、ある米国人ロシア観察家が指摘するように、ロシアの主要な輸出品はもはや石油と天然ガスではなく、腐敗なのだ。・・・
 ロシアの諜報の主達は、ルーカスの説明によれば、特定の要請に応えるところの、彼らの欧米における同僚達とは異なった物の考え方をしている。
 「彼らは夥しい時間とカネを使って、即時の利得に対する関心が殆どなくして、長期的な資産群を構築する」と。・・・」(F)

(続く)