太田述正コラム#5529(2012.6.10)
<映画評論32:マンデラの名もなき看守(その3)>(2012.9.25公開)

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 結論を最初に書いておきますが、この映画ないし原作は、有名人と有名人を利用して名声や権力やカネを得ようとする者とが織りなしてきた、人類史においてどこにでも見られるドラマの一つである、ということです。
 ただ、この映画ないし原作における、有名人たるマンデラと彼を利用しようとしたグレゴリーの間の知力と人間の器の差が極めて大きい点が面白いところです。
 どれくらい差が大きいかですが、マンデラについては、既にその経歴等に触れているので、ここでは、まず、グレゴリーについて触れましょう。

 グレゴリーに関する英語ウィキペディア
D:http://en.wikipedia.org/wiki/James_Gregory_(writer)
があるのは、彼によるマンデラの利用が成功したあかしでしょう。
 しかし、このウィキペディア、彼の名前がJames Gregoryであって、1941年に生まれて2003年に亡くなったことが分かるくらいで、後は、彼の書いた原作の歪曲性に少し触れているくらいで、グレゴリー自身の経歴や人物については、全く書いてありません。
マンデラに深くかかわった3人の看守の中で、グレゴリーの関わり方が、マンデラの囚人生活全27年中の22年と最も長期にわたったことは事実です。
 それにしても、看守達を束ねていた将校クラスの刑務官達でマンデラについて語った者はいませんし、上記看守達でグレゴリー以外の2人は、マンデラについては、たまに、しかも不承不承語ったに過ぎません。
 想像に難くないことですが、グレゴリーによるマンデラ本にはゴーストライターがいたのです。
 英国人ジャーナリストのボブ・グラハム(Bob Graham)がそうです。
 英国の民間TV局がグレゴリーの話をドキュメンタリーに仕立てようとしたけれど、深みがないとして断念したというのに、グラハムは、自分が話に尾ひれをつければ、売れる、とふんだのでしょうね。
 グレゴリーは、マンデラが釈放された直後に、将校昇任候補が受けるコースを受講させられていますが、にもかかわらず、このコースを終えた1993年、51歳の時に、勧奨退職を求めて退職しています。
 その翌1994年、グレゴリーは、アパートを借りて、グラハムと本作りの共同作業を3か月間にわたって行います。
 グラハムは、自分がグレゴリーとマンデラの特異な関係・・グレゴリーは、最初は、マンデラがテロリストであって絞首刑に処せられるべきである、と考えていたのに、実際にマンデラに接することで、かかる見方を改めた・・を自分が更に脚色し、マンデラの1990年2月11日の釈放からまだ5年しか経っておらず、また、マンデラの1994年4月27日の大統領就任から1年の時点の1995年において、この本の出版に成功するのです。
 (その12年後の2007年に、今度は、この本をベースに映画がつくられることになったわけですが、それは、それまでの2003年に既にグレゴリーは亡くなっていて、他方、マンデラは次第に公的生活を退きつつあった頃です。)
 (以上、下掲による。)
F:http://www.nelsonmandela.org/images/uploads/Nelson_Mandelas_Warders.pdf
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%A9 (ただし、マンデラがらみの年代のみ)
http://en.wikipedia.org/wiki/James_Gregory_(writer) (ただし、グレゴリーがらみの年代のみ))
 マンデラ自身による自伝が1994年に出たばかりであったことからも、絶好の時期にこの本は出版されたことになります。
 グラハムによる脚色ぶりですが、紅茶を飲みながら、まさにマンデラと話をするのが少佐たる刑務官の務めであったのに対し、グレゴリーのようなヒラ看守にマンデラと親しく話をする機会などない、ということ一つとっても、後のことは推して知るべしでしょう。
 さすがに知る人ぞ知るということでしょうか、この本は一度も再版されることはなく、現在に至っています。
 映画が封切られてからでさえそうです。(F)

 有名人と親しいとして、話に尾ひれを付けて第三者に吹聴し、そのことによって有形無益の利得を図る、というのは、よくある話である、と先ほど記しましたが、本件の場合は、グレゴリーがグラハムという「共犯者」にうまく乗せられてしまった、という点も興味深いのではないでしょうか。

 (リハビリ中なので、本日のところは、これくらいにしておきます。)

(続く)
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