太田述正コラム#5486(2012.5.17)
<日進月歩の人間科学(続x27)(その3)>(2012.9.1公開)

 (4)子供の精神病質

 「・・・現在のところ、子供の精神病質のための標準テストは存在しないが、次第に多くの心理学者達が自閉症のように、精神病質も、早ければ5歳で認めうるところの、独特の神経学的状況であることを信じるに至っている。・・・
 (<ただし、>成人の<精神病質の>診断基準の一部であるところの、ナルシシズムと衝動性は、子供達はその本性においてナルシスト的で衝動的であるため、子供達に適用することは困難だ。)・・・
 ・・・ある少年は、家の猫のしっぽをナイフを使って少しずつ切り取って行き、それを数週間続けた。
 この少年は、この連続切断を自慢に思っていたが、彼の両親は最初のうちはこれに気付かなかった。
 「我々が<この少年>とこのことを話した時、彼はまことにあっけらかんとしていた(straightforward)・・・。
 彼は、「僕は科学者になりたくて実験をしていたんだ。どうこの猫が対応するかを見たかったんだ」と。」
  もう一つの有名な事例では、・・・9歳の男の子が赤ん坊をフロリダのモーテルのプールの深い方の端に突き落とした。
 この赤ん坊がもがきながら底に沈んで行った時、<この男の子は、その様子を>眺めるために椅子を引き寄せた。
 警察によって後で尋問された時、<この男の子は、>誰かが溺れるところを好奇心で見たかった、と説明した。
 拘束されることになった時、彼は投獄されることなど何とも思っておらず、関心が自分に集中していることに満足しているように見えた。
 しかし、多くの子供の場合、兆しはもっと微妙だ。
 無感覚で無感情な(callous-unemotional)子供は行動に操作的な傾向がある・・・。
 彼らは頻繁に嘘をつく。
 全ての子供の場合のように叱られることを回避するためだけではなく、他のあらゆる目的のために、或いは目的なしに<嘘をつくのだ>。・・・
 最近の諸研究が明らかにしたのは、精神病質問診表(Psychopathy Checklist)の若者版で高得点をあげたところの、青年期の子供の脳には<健常者と比較して>顕著な解剖学上の差異があるところ、これは、この特徴が生来のものであることを示すように見える。
 もう一つの研究では、25年間にわたる3,000人の子供達の心理的発達を追跡したところ、早くも3歳の子供において精神病質の兆しが検知できた場合があることが見出された。・・・
 <無感覚で無感情な子供は、高度の>操作性<を示すとともに、>・・・諸ルールにとても注意深く従うことが可能なのだが、その諸ルールを自分に有利なように用いる点に特徴がある。・・・
 第一に、ほとんど全ての精神病質の成人は、子供の時に重度に反社会的だった。
 第二に、反社会的資質の度合いで高得点をあげた子供のほとんど50%は精神病質の成人にはならなかった。
 換言すれば、だれが究極的に暴力的な犯罪者になるかを予想するためには、早期の問診の結果得られる<高>得点が必要条件だが、それだけでは十分条件ではない、ということだ。・・・
 また、その他の課題も残っている。
 精神病質は、高度に遺伝性があるので、・・・冷たく無感覚な子供は同じような感じの片親を持っている可能性が、<健常な子供>より高いわけだ。
 そして、両親は狂的にふるまう子供と絆を結ぶとは限らず、<むしろ、>こんな子供は<往々にして>たくさん叱られ少なくしか養育されない<ことが多い>ため、、「自己実現的予言」と・・・呼ばれるものが作り出されるのだ。・・・
 研究者達は、冷血的ふるまいを低水準のコルチゾル(cortisol)及び扁桃体・・恐怖や恥等の嫌忌的な社会的諸感情を処理する脳の部位・・内の正常値を下回る機能と結び付けてきた。
 このような不快な気持ちを味わうことを回避しようとする欲求が、若い子供がまともにふるまうことへの動機づけの一つになる・・・。・・・
 <しかし、>無感覚で無感情な児童が違うところは、彼らが不快な気持ちにならない点だ。
 だから、彼らは叱られたり、誰かを傷つけたりする経験をすることに対する、<健常の児童のものと>同様の嫌忌が発達しないのだ。・・・」(A)

 「・・・小児期行為障害の子供の大部分は成長した時に精神病質者にはならないし、少なくとも3分の1はこの診断を完全に乗り越えてしまう。
 彼らは、<精神病質どころか、>反社会性人格障害すら発症しないのだ。
 しかし、少数の集団は、初期から、はるかに厄介である(troubling)ところの、恐怖の欠如と他者に対する無関心を示した。
 これらの子供達は、無感覚で無感情な諸特性によって特徴づけられるが、精神病質者になる最大の危険性に直面している。・・・
 彼らは叱られても屁のカッパなので、たとえそれが悪いふるまいをする大部分の児童に関しては常識に反することであっても、報償をベースにした治療が無感覚で無感情な子供には一番効き目がある。・・・
 だから、・・・大部分の専門家達は、短気な(hotheaded)成人の反社会性人格と冷血な精神病質との様々な違い、及び子供に関しては、通常の行為障害を持つ者と小児期行為障害プラス無感覚で無感情な諸特性を持つ者との様々な違い、を強調するために、両者を<明確に>区別された診断を行うことを支持している。・・・」(B)

 「・・・もしあなたがとても安定した愛に満ちた家族で育てられたならば、共感の欠如が暴虐的なものとなる可能性は低くなる。
 すると、虐待的な家庭で育てられた者は連続殺人鬼になり、愛に満ちた家族で育てられた者は社長になるということか?
 その通りだ。
 「そういう風に生まれた以上は死ぬまでそういう風であり続ける」という考え方は何かとても虚無的なものがある<のであって、決してそうではないのだ>。・・・」(D)

3 終わりに

 「・・・強い記憶力の素質(predisposition)とPTSDにかかる危険性の間には遺伝的結びつき(link)がある・・・。・・・
 ・・・多くの「善玉(positive)」遺伝子は負の面(downside)もあるし、同様、多くの「悪玉(negative)」遺伝子は正の面(upside)もある。
 例えば、とてもいいもの(treats)を他者と分かち合う性向と結びついている遺伝子は、注意欠陥多動性障害(ADHD<=attention deficit hyperactivity disorder>)、及びその後の人生における性的乱交や中毒とも結びついている。・・・
 ・・・自閉症についての<ある>説は、自閉症の状況は、脳が情報を取り入れ過ぎることから起こるとし、その結果、知覚(sensation)、連想、及び記憶の過多に対処することが困難となるとする。
 このような者は、高い知能を持った過敏なタイプとなり、過多な入力に対して秩序を押し付けようとして、引き籠り(withdrawal)と同じふるまいの繰り返しとが同時に起こる。
 我々が記憶力を高めようとする際、それが我々の成功と愉楽だけでなく、災厄と痛みを思い出す力も強めることを念頭におくことが重要だ。
 どうやら、タダ飯はない、ということのようだ。」
http://healthland.time.com/2012/05/15/does-a-better-memory-equal-greater-ptsd-risk/
(5月16日アクセス)

 更に言えば、鬱病患者は予見力があり、双極性障害者は芸術的創造力がある、という次第です。(典拠省略)
 要は、精神障害者は、その弱点を強みに変えることができるということを自覚して、本人や周りの人々が、精神障害とうまくつきあって行けばよい、ということです。
 ただし、そうはいかない唯一と言ってよい精神障害者が精神病質者ではないでしょうか。
 常習的凶悪犯たる精神病質者は社会から隔離するほかありませんし、それ以外の精神病質者が「活躍」でき、社長になったりできる社会・・例えば米国・・は根本的に改革することで、彼らを下積みの仕事にしかつけないようにすべきなのです。
 そして、それと平行して、これら精神病質者の脳を健常化する抜本的治療法を追求すべきだと思います。

(完)