太田述正コラム#5647(2012.8.8)
<皆さんとディスカッション(続x1627)>

<太田>(ツイッターより)

2週間に及ぶ激戦が続いている、アレッポ(シリア最大の都市)で、既に同市の60%を確保しているシリア反体制派が、全面的確保は間近いと語る。http://www.guardian.co.uk/world/2012/aug/07/syria-rebels-verge-seizing-aleppo 本当にそうなり、更に、アサド政権が崩壊するに至るのか、オリンピックの動向より気になるなあ。

<太田>

 「日本の政局の動向より」としなかったところがミソ。

<bdZsk+Ia0>(「たった一人の反乱」より)

 自民、不信任・首相問責案を8日午後に提出へ
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120807-OYT1T01306.htm

 野田首相、詰みです。

<代案さす>

≫一、こういう服務規律に係る事案は、通常の軍隊であれば、(軍隊が起こした事故の場合等と同様、)軍法会議にかけられ、一般の(民事)裁判にかけられることはない。≪(コラム#5552。太田)

 本件のように、「民間人」の「『元』軍人」に対する「損害賠償請求訴訟」が軍法会議で扱われる例というのはそんなに多いのでしょうか。何か国ぐらいの裁判制度と比較した上で言っておられるのでしょうか。具体的に教えてください。

→フツーの軍隊では、戦死・戦傷、事故死・事故負傷、殺人・傷害、自殺・PTSD、等部隊で起こった死亡・負傷事案で犯罪/不法行為がらみのものについては、一般の裁判にかけられることなく軍法会議で刑事/行政上の措置が講じられるとともに、軍法会議における事実認定や因果関係に係る認定を踏まえ、退職金制度や恩給制度(遺族恩給制度を含む)や(現役及びOBの軍人に対する)無償医療制度、等に基づいて手厚い対処がなされることから、本人や遺族が民事訴訟に訴えることはありません。
(余りにも当たり前すぎて、すぐには直接的な典拠が探せなかったのですが、例えば、米海軍における「大」いじめ事案の顛末のどこにも民事訴訟の話など登場しません。
http://en.wikipedia.org/wiki/United_States_Navy_dog_handler_hazing_scandal
 文民においても、職場での死傷は労働災害補償制度によって一律的な補償を受ける・・補償を受けるためにいちいち民事訴訟を起こす必要が基本的にない・・
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012080890070216.html
わけですが、軍人に対しては、この労働災害(公務災害)補償制度
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E5%8B%99%E7%81%BD%E5%AE%B3
はもとより、警察官や消防団員に対する賞恤金制度
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B3%9E%E6%81%A4%E9%87%91
的なものすらなじまない、或いは、戦死者に対するものを超える有形的無形的「補償」などありえない、とでも説明しますかね。
 或いはまた、犯罪/不法行為がらみの事案について、いちいち軍当局や「加害者」に対する民事訴訟が行われるようでは、軍の秘密保全や規律・士気が損なわれてしまう、とでも説明しましょうか。)
 これは、私の防衛庁(省)勤務を通じて身に付けた知識です。
 そうではない、とおっしゃるのであれば、例えば米国なり英国なりについて、典拠を踏まえた指摘をして下さい。(太田)

≫三、通常の軍隊であれば、情報公開制度が、そのままの形で適用されることはありえない。≪(同上)

 本当にこのように言い切れるのでしょうか。海上自衛隊が給油量取り違えを隠した件(米艦艇に80万ガロン給油しながら20万ガロンと偽った件)がアメリカでの情報公開請求によって発覚したこと一つとってみても、このように言い切るのは難しいのではないでしょうか。(ちなみに、日本で航泊日誌を情報公開請求すると、全部黒塗りで出て来たらしい。日本よりアメリカのほうが軍事情報公開に積極的とも言える。)
 何か国くらいの情報公開制度と比較した上で言っておられるのでしょうか。具体的にえて下さい。

→軍隊に対し、一般の行政官庁並の情報保全制度が適用されているのは日本だけである・・ただし、米国に係るものに関しては特別の情報保全制度がある・・、ということを、コインの裏側から指摘したまでのことです。
 ところで、「航泊日誌」類について、そのままの形での情報公開に応じている国があったら、ぜひご教示いただきたいものですね。
 なお、「一般の行政官庁並びの情報保全制度」しかないことから、自衛隊が米軍に比べて全般的に情報をより出し渋りがちであることには理解できる部分があります。(太田)

≫自殺した兵士は、どちらも戦場で任務中にいねむりをしたことを咎められたものであり、それは部隊全体を危険に晒す行為なのであり、ここかから先は彼と見解を異にするわけだが、そんな場合に『指導』が行き過ぎることはままありうることだ、と私は思う。≪(コラム#5641。太田)

 「海上自衛隊大好き人間」としての立場から、自殺した1士と、居眠りした兵士を同列に論ずることによって、「悪いのは自殺した1士であり、いじめをおこなった元2等海曹は悪くない」という印象操作・情報操作を行おうとしているように思えてなりません。

→そりゃ穿ち過ぎというものですよ。(太田)

≫自衛隊の場合、自殺した士長が何を咎められたのか定かではないが≪(同上)

 「たちかぜ」事件は海上自衛隊史上屈指の不祥事なのですが、なぜ関心をお持ちにならないのでしょうか。海上自衛隊の暗部から目をそらし、海上自衛隊の良い所にだけ目を向けて「海上自衛隊大好き人間」を名乗ることには違和感を覚えます。
 ちなみに自殺したのは「士長」ではなく「1士」です。
 また、「自殺した士長(正しくは1士)が何を咎められたのか」について言えば、「何も咎められていない」が答えです。「たちかぜ」事件は、元2等海曹が艦内に空気銃・ガス銃を持ち込み、自殺した1士のみならず多くの海曹・海士を的にして撃ちまくり、その上自殺した1士を含む一部の海士からはアダルトビデオの代金の名目で金を脅し取っていたという事件です。業務上の指導の延長線上に発生した事件ではなく、業務とは無関係な暴行・恐喝事件と言えるだろうと思います。

≫自衛隊には軍法会議がないために、事件発生から何年も経過しているというのに、いまだに自殺に追い込んだ者に刑が下されておらず・・米国の上記ケースでは、どちらも極めて短時間で刑が下されている・・、≪(同上)

 元2等海曹には平成17年1月に執行猶予付きの有罪判決という「刑が下され」ており、また同月懲戒免職にもなっているのですが、何をもって「刑が下されておらず」と言っておられるのでしょうか。損害賠償問題が解決していないことは、「刑が下されておらず」とは言わないと思います。

→ここは、私の調査不足に起因するミスであり、「自殺に追い込んだ者に刑が下されておらず」は「本件の法的決着がついておらず」と書くべきでしたね。(太田)

 また、少なくとも本件に関しては「軍法会議」云々は無関係でしょう。事件発覚が平成16年10月末で、刑事処分・行政処分が17年1月ですから、まあまあ迅速に処理されたと言うべきでしょう。損害賠償問題が解決していないことについては、そもそも軍法会議との管轄競合が問題となる話なのか疑問ですが、その点は措くとしても、少なくとも本件とは無関係でしょう。本件においては「たちかぜ事件」について広報から発表が為されたほか、「『たちかぜ』事件事故調査結果」やその下資料が情報公開されたり、裁判所に提出されたりして、既に「たちかぜ」が極めて士気が低く規律が弛緩した状態にあったことは明らかになっていました。その上で、「アンケート」等が(例えばアンケートにだけ軍事機密が書かれているとか)合理的理由もなく隠されていたから問題となっているのです。「アンケート」等が軍事機密等の理由で裁判所に提出できないがために訴訟が遅延した…といったことはありません。

→「「・・・事故調査結果」やその下資料が情報公開されたり、裁判所に提出されたりし」ていたのだとすれば、そのこと自体も問題ですが、「アンケート」は生資料であるだけに、それをそのままの形で情報公開したり裁判所に提出したりすることは、なおさら問題である、と思います。(太田)

≫しかも、事件にからんで実施されたアンケート調査の内容・・部隊の規律や士気が分かってしまう・・まで公開されるに至っている。≪(同上)

 「部隊の規律や士気」に関する情報だから一律に非公開が許されるというものではなく、結局は(例えば国民の知る権利とか)他の利益・価値との比較衡量により開示すべき範囲が定まるものなのではないでしょうか。「部隊の規律や士気」に関する情報だから一律に非公開が許されるというのであれば、そもそも「たちかぜ」でいじめがあった事実自体を隠すことが許されるということになるのでしょうか。その論理で行くと、太田氏が著書やブログで内局や航空自衛隊の不祥事に言及するのは、「内局や航空自衛隊の士気や規律が分かってしまうからいけないことだ」ということになるのでしょうか。

→自衛隊に対して、戦闘に係る実任務(本来の任務)が与えられることが、創設以来一貫してないので、秘密の漏えいや部隊の規律や士気の弛緩が必ずしも任務遂行にとっての致命的(=致死傷的!)支障にはならないというのに、自衛隊の秘密保全意識が一般の中央官庁や警察よりもむしろ強く、しかも、一般の中央官庁の職員に比べて全般的に人材的に見劣りするにもかかわらず、自衛隊の規律や士気がほとんど見劣りしていないことは驚くべきことです。
 とはいえ、やはり、秘密保全意識にせよ、規律や士気にせよ、自衛隊は、まともな軍隊と比較すればまだまだ不十分であり、その結果不祥事が、その中央組織(内部部局)を中心に(一般の中央官庁以上に)続出してきているところ、それは「実任務が与えられていない」以上避けられないことなので、私は自分の防衛庁(省)時代に知り得た様々な不祥事を明らかにすることを通じて、自衛隊に「実任務」を与えるよう、訴えてきたところです。
 そのことと、私が(実任務付与と裏腹の関係にあるところの)軍法会議の設置を訴えたり、このこととも関連して、自衛隊に情報公開制度をそのままの形で適用することに反対したり、自衛隊の規律や士気が分かる生資料をそのままの形で裁判所に提出したりすることに反対したりすることとは、互いに矛盾するものではありません。(太田)

<太田>

 それでは、その他の記事の紹介です。

 何十年も経ってからの記憶など、全くあてにはならんさ。↓

 「日ソ中立条約に違反してソ連が満州(中国東北部)に侵攻して9日で67年。第二次大戦末期のヤルタ会談で、ソ連が対日参戦する密約を結んだとの情報を入手し、大本営に打電したとされるストックホルム駐在、小野寺信(まこと)陸軍武官の公電について、大本営の情報参謀だった堀栄三氏が参謀本部に着信しながら、握り潰されたのは確実と証言する書簡を送っていた・・・
 書簡は平成2年7月26日付と同年8月14日付で堀氏から小野寺氏の妻、百合子氏にあてたもの。・・・」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120808/plc12080807020004-n1.htm

 オバマは英領北米植民地の最初の奴隷の子孫である可能性が高いって話を前に紹介したけど、一緒に逃げ出した同じ年季契約奉公人の2人の白人は、生涯奉公人・・つまりは奴隷・・にはさせられなかったんだって。人種差別が奴隷制を生み出したってオハナシ。↓

 ・・・An indentured servant who escaped from his master along with two fellow indentured servants who were white, Punch alone received a harsh life sentence of slavery.・・・
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-aubry-kaplan-obama-slave-ancestry-20120808,0,5159801.story

 オリンピックの開会式でも、英国の国営医療制度(NHS)が自慢げに紹介されたが、実はそのパーフォーマンスは極めて悪いようだね。
 そもそも、国営サービス制度が素晴らしいワケないよな。↓

 ・・・ The studies compared the healthcare systems of 14 advanced countries, and on the 20 measures of comparison,Britain'scentralized National Health Service performed well in 13, indifferently in two and badly in five.
 On several measures, the NHS came out the worst of all the systems examined. For example, it ranked worst for five-year survival rates in cervical, breast and colon cancers. It was also worst for 30-day mortality rates after admission to a hospital for either hemorrhagic or ischemic stroke. On only one clinical measure was it best: the avoidance of amputation of the foot in diabetic gangrene.
 This hardly seems like a cause for national rejoicing, yet according to the report, the British were the most satisfied with their healthcare of all the populations surveyed. ・・・
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-dalrymple-british-health-system-20120808,0,7412265.story
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太田述正コラム#5648(2012.8.8)
<欧米帝国主義論再考(その2)>

→非公開