太田述正コラム#5633(2012.8.1)
<皆さんとディスカッション(続x1620)>

<lAl9bmh10>(「たった一人の反乱」より)

≫≫尖閣は昔から日本(琉球)領だったという思い込みは捨てた方がエエよ≪(コラム#5629。太田)
 これは、仰るとおりですね。
 当該の産経記事は拝読していませんが、人民網の記事は(反論根拠の)「史料がある」というだけで、史料そのものが載っていない点が残念です。
 また、明清と中共の連続性如何について触れていませんね・・・さすが! ≪(コラム#5631。pika0128)

 もっと言えば石原慎太郎が佐藤内閣に尖閣の事で協力した、も出鱈目。
 青嵐会設立は73年、佐藤内閣終焉は72年。

<太田>

 石原慎太郎は、既に1968年7月に議員(72年11月まで参議院議員、同年12月から1975年まで衆議院議員、1976年12月から1995年まで再び衆議院議員)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%8E%9F%E6%85%8E%E5%A4%AA%E9%83%8E
になっているし、佐藤内閣は、1964年11月9日〜1972年7月7日という長期間続いたんだから、キミが何で「出鱈目」と断定できるのかさっぱり分かんないね。
 そもそも、青嵐会の話がなんでここに出て来るのさ。
 なお、pika0128サンの「明清と中共の連続性如何について触れていませんね」については後述。

<Jvhm+EVy0>(「たった一人の反乱」より)

 2012年7月28日の「人民網日本語版」に反論記事を書いた清華大学当代国際関係研究院の劉江永副院長は、伝統的な漢文に慣れていないか、または分かっていて無理な解釈(こじつけ)をしているようです。

 確かに古代漢語(漢文)の「渉」に「入る」や「到達する」という意味はありませんが、劉氏の言うように「水の上を、○○へ向かって進む」というのも違います。
 本来「水を歩いてわたる」というのが原義で、やがて船でわたる場合にも使うようになりました。
 「渉水」といえば「水(川など)を歩いてわたる」、「渉浅」といえば「浅瀬を歩いてわたる」の意味です。
 船を使った場合、「渉○○」といえば「○○という水域をわたる」という意味になります。
 すなわち、「○○へ向かって(その手前を)進む」ではありません。
 「○○の水域(海域)の中を進む」という意味です。

 郭汝霖が皇帝に提出した上奏文「石泉山房文集」の中の「行至閏五月初三渉琉球境界地名赤嶼」の文は、劉氏のように「行至閏五月初三、渉琉球境界地、名赤嶼」と区切ってもよいし、または「行至閏五月初三、渉琉球境界、地名赤嶼」と区切っても、ほとんど意味は変わりません。
 しかし、劉氏の解釈はオカシイです。
 劉氏は、「「渉琉球境界地、名赤嶼」の部分を正しく訳すと、「水の上を琉球との境界に向かって進む--名前は『赤嶼(赤尾嶼)』」となる。」と述べていますが、ここは「渉琉球境界地=名赤嶼」または「渉琉球境界=地名赤嶼」と読むのが順当で、正確に訳せば、「琉球境界地すなわち赤嶼と名づくるところ(海域)を渉った」または「琉球境界すなわち地名を赤嶼というところ(海域)を渉った」と読むべきです。
 (漢文に過去形はありませんが、過去の時点=閏五月=が明示されている以上、過去形で読むべきです。)

 「渉」には確かに「到達する」という意味はないものの、他動詞として用いる場合は「対岸を意識した」動詞となりますので、「渉」の後に来る語は、「現在わたりつつある水域」や「それに連なる対岸の地名」となることがほとんどです。
 「渉」の後に「出発地(此岸)側の地名」が来ることはありません。
 また「渉る」主体は、地名の渦中に居るのです。

 そんなわけで、劉氏の解釈「水の上を琉球との境界に向かって進む--名前は『赤嶼(赤尾嶼)』」はこじつけです。特に「境界に向かって」は誤り。
 原漢文を素直に読めば、「琉球の境界--地名を『赤嶼』といふ--を渉りき」となります。
 現代語で表現すれば「琉球の境界すなわち地名を赤嶼というところ(海域)を渉った」となり、行為主体は既に琉球の海域を航行中であり、琉球も赤嶼も対岸(目的地)に連なる地名ということになります。赤嶼は境界域の手前にあるわけではありません。(以上)

 『人民日報』は1953年1月8日に現代の琉球問題を掲載。記事中、琉球には尖閣諸島が含まれることを明示しています。
 ポータルサイト「百度」に先日、記事の写真が掲載されました。
 これに対する多数のユーザーの賛否は削除されたようですが、なぜか記事の写真だけはまだ残っています。
http://tieba.baidu.com/p/1749039411?from=prin

<太田>

 こういった投稿、実名でやってくれてもよさそうなもんだけど、サンキュー。

 誤解がないように一言。
 固有の領土論なんてのはもってのほかだけど、昔はどこどこの国の領土だった、なんてのは、領土紛争を考えるにあたって、ほとんど関係ないことなんだからね。
 (例えば、外蒙古や、黒竜江・ウスリー江以北の地は昔清に属していたけど、so what? だよな。)
 関係するのは、現在の関係国際法と関係条約だけだ。
 このような、現在の関係条約を解釈する際・・尖閣のケースで言えば、サンフランシスコ平和条約に言う台湾の範囲を解釈する際・・、初めて関係する歴史的事実がどうであったかが問題になってくる。
 いずれにせよ、明の時代に尖閣がどこに属してたか、なんてのは「そんなの関係ない」だわさ。
 その上でだけど、台湾の学者が、(彼のWSJ掲載論考には典拠そのものは掲げられていないが、)指摘しているところの、日清戦争時点まで清の領土であった台湾に尖閣が属していた、(コラム#5459)ということが事実だとすれば、サンフランシスコ条約の解釈で日本側が不利であることは否めないね。
 それだけに、中共や台湾にとっては、彼らが1970年代以前には、尖閣について沈黙してた、って点はチョー不都合な真実だねえ。

<ねこ魔人>

 太田さんは、日本において、政治家と官僚、民間業者が相互に利益のために結びついた状態を、政官業癒着構造と呼ばれていますが、これは、政治学で言うところの、鉄の三角同盟と同じ概念なのでしょうか?

<太田>

>鉄の三角同盟

 使用事例を典拠と共にお示しください。

<ねこ魔人>

 政府が規制することによって、しばしばレント(ある生産要素を供給させるために必要な水準を超えた支払い)が発生する。・・(略)

 具体的な例を見よう。日本では、地元の中小の商店を守るために大規模小売店の出店が規制されてきた。しかし、1980年代にはアメリカなど諸外国からの外圧もあって、規制緩和が進められてきた。

 大規模小売店舗の出店規制が緩和されるにつれて、アメリカ資本の玩具安売りスーパー「トイザらス」が全国に出店を始めた。当然、地元の玩具店は出店に反対する。・・(中略)・・規制に守られてこれら中小の玩具店は、その地域の消費者に、品ぞろえの悪い店で高い値段でおもちゃを買わせてきた。その結果、超過利潤(※=レント)を得てきたと言える。

 このような中小商店の利益は、外圧によって規制緩和が進むまで強く守られてきた。それはどうしてだろうか。・・(中略)・・この規制の存在のために消費者が被る不利益は、薄く広い範囲で存在する。・・(中略)・・これに対して、この規制によって守られている玩具店は、規制がなくなれば倒産するかもしれない。かかっている利益が大きい分だけ、玩具店はその規制を守るために一所懸命活動する。議員や官僚に必死の働きかけをするのである。他方、規制が緩和されておもちゃの値段が下がる利益は、規制緩和のためにがんばった人にもがんばらなかった人にも享受される。消費者は数が多いだけに、自分が規制緩和のためにがんばろうとは思わないのである。この結果、政治の世界では、規制によって既得権益を守られている少数のグループのほうが活動は活発であり、政治的影響力を持つことになりやすい。
 しかも、このように規制に守られてレントを得ている集団は、その規制を守るために、レントの一部を用いて政治献金をしたり、官僚に天下り先を用意したり、さらに都合の悪い場合は賄賂を贈ったりする。利益団体と政治家、官僚が手を結んで既得権益を守る構図を、鉄の三角同盟と呼ぶ。このようにして、規制から既得権益を得る人々が強い影響力を持つことになる。これが、政治腐敗の原因となることもある。・・(後略)

久米郁男ほか(編)『政治学』(補訂版)第2章「政治と経済」47頁~48頁

 以上の通りです。

<太田>

 私は、「レント」を求めて利益団体が特定の政党を支援すること自体は当然のことであり、それが「政治腐敗」の原因となるのは、当該特定の政党による政権が長く続き過ぎた場合である、と考えています。
 この「政治腐敗」の具体的な表れを、私は「政官業癒着構造」と呼んでいるわけです。
 上記の本の編集者ないし執筆者が使っている「鉄の三角同盟」という言葉は、私のいう「政官業癒着構造」と一見同じように見えますが、「レント」そのものを否定的に見ている点で私の考えとは微妙なズレがあるように受け止めました。
 なお、私のこのような考え方の前提となっているのは、そもそも市場は公的規制なくして成り立ちえないのであって、公的規制の態様や度合いによって様々な「レント」が発生することは避けられない、という私の現実認識です。

 若干補足しておきましょう。
 おもちゃ量販店は日本にはなかったので、より一般的な形で考えてみましょう。
 食料品と日用品を扱う一般の量販店はかなり以前から日本にありました。
 中小商店が自民党を支援して直接的な「レント」を求めたのに対し、自民党以外の政党が事実上なかったことから、そして、自民党政権が恒久化していたことから、量販店は支援できる政党がなかったために、その普及が遅れた、と言えるのではないでしょうか。
 量販店は直接的に「レント」を求めたわけではありませんが、量販店が普及すると駅前/町の中心の中小商店が廃業に追い込まれ、次第に消費者は町はずれにある量販店に行かざるをえなくなり、当該量販店は、食料品と日用品に関する地域独占店化し、その結果として「レント」が得られるようになることは否定できません。
 政権交代が頻繁に起こっておれば、中小商店が支援する政党と量販店が支援する政党の間で政権交代が繰り返され、人間的な触れあいの確保ないし町の空洞化回避と廉価さの追求という二つの価値の間で均衡がとれた落着点にもっと早期に到達していた、と思いませんか。


 それでは、その他の記事の紹介です。

 賛否が分かれるところだろうな。↓

 「引き分け狙い…なでしこ、フェアプレー精神はどこへ・・・」
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO44407890R00C12A8000000/?dg=1

 いい話じゃん。↓

 「ロンドン五輪:日本が銅、主将は韓国出身=アーチェリー女子団体・・・」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/07/31/2012073100941.html

 米国では、(犯罪が劇的に減ってきているだけでなく、)10代の妊娠率も劇的に減ってきているってさ。ここでは引用しなかったが、最大の要因はピルの普及だって。↓

 ・・・teenage pregnancy rates in the past few years. They’ve reached a three-decade low, down by 40 percent since 1990. Teen births and abortions also have fallen respectively by one-third and one-half.・・・
http://www.slate.com/articles/health_and_science/medical_examiner/2012/07/preventing_unwanted_pregnancies_forget_sex_ed_and_compare_the_pill_to_iuds_.single.html

 米国の大旱魃でトウモロコシの価格が暴騰しているが、この際、トウモロコシからバイオ燃料をつくる政策を撤廃すべきだとするコラムだ。確かにそうだな。↓

 Every day that the drought continues garroting the American Midwest, the lunacy of turning corn into motor fuel becomes ever more obvious and ever more outrageous.・・・
 Wheat and soybean prices are soaring, too. Wheat prices are directly linked to those of corn: Bakers and other wheat users have to bid up the price of wheat to keep it in relative parity to corn, because if they don’t, the entire wheat crop could be bought up and used as animal feed. As for soybean crops, Lapp says they’re suffering from the very same drought that is hammering corn.・・・
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/food/2012/07/drought_and_ethanol_how_congress_mandates_and_the_epa_s_new_policy_are_hurting_americans_.single.html
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太田述正コラム#5634(2012.8.1)
<中共と毛沢東思想(その5)>

→非公開