太田述正コラム#5330(2012.2.29)
<日進月歩の人間科学(続x25)>(2012.6.15公開)

1 始めに

 「ディスカッション」上でも話題になっていますが、今後、折に触れて書き綴っていこうと思っている「松尾匡『商人道ノススメ』を読む」シリーズの内容とも密接に関わっていることから、朝日の「お金持ちで高学歴、社会的地位も高い「勝ち組」ほど、ルールを守らず反倫理的な振る舞いをする――。・・・」
http://www.asahi.com/science/update/0228/TKY201202270655.html
(2月28日アクセス)
という記事で紹介されている、カリフォルニア大学バークレー校の博士課程のポール・ピフ(Paul Piff)が主導した研究を、英米の主要メディアの記事、就中ロサンゼルスタイムスの記事に基づいて、より詳細に押さえておきたいと思います。

A:http://www.latimes.com/news/science/la-sci-0228-greed-20120228,0,5965885.story
(2月29日アクセス)
B:http://www.guardian.co.uk/science/2012/feb/27/upper-class-people-behave-selfishly
(2月28日アクセス)
C:http://www.csmonitor.com/USA/Society/2012/0228/How-the-1-percent-lives-Yes-the-rich-take-more-candy-from-kids-study-finds
(2月29日アクセス)

 なお、上記の朝日の記事だけではなく、英米の主要メディアの記事も、「ルールを守らず反倫理的な振る舞いをする」人々を「金持ち(rich people/wealthy people(A))」、「高学歴」、「社会的地位<が>高い(People of higher status/higher socioeconomic status/higher social status/higher social rank(A)/upper echelons(B)/Privileged people(B)/society's elite(B)」、「上流階級(higher social class(A)/higher economic class(C)/higer socioeconomic class(C)/upper classes(B))」、と様々に言い換えていますが、要するに「金持ち・・・」なので、惑わされないようにしてください。

2 金持ちは反倫理的

 「・・・以前の諸研究において、ピフは、金持ちの人々は、相対的に貧乏な人々に比べて、気前よくふるまうことがより少ない傾向がある、と記した。・・・
 ≪この作業は、上流階級の人々は、他人達のことを理解する度合いが低く、他の人々の感情を読むことにかけてはもっとダメで、低い社会階級の個人達よりも利他的度において劣っている、との以前の研究の上に構築されている。・・・≫
 今回の研究において、彼は、金持ちの人々がルールを守ることよりも利己を優先するかどうかを見極めようとした。・・・

 <まず最初に、>訓練された観察者達がバークレー市の下町の交差点の近くに身を潜めた。・・・
 すると、最も高価な車を運転する人々が最も安価な車の運転者達≪(彼らの10%未満)≫に比べて、4倍、優先権のない交差点に進入する傾向がある、という結果が出た。
 この差異は、優先権を歩行者が行使しようとしている場合には[3倍であり、]≪45%に達した≫。
 車の価格とその運転者の社会的地位との間には顕著な相関関係がある、とピフは述べた。
 しかし、どんなに車が素敵に見えても、車は富の完全な指標ではない。
 そこで、実験室に戻って、ピフは、彼の同僚達と実験を更に5つ行った。・・・
 ・・・このチームは、標準的質問票を用いて、大学の学生達に自分達の社会経済的地位を評価させた上で、これらの被験者達が、8つの異なったシナリオの下で非倫理的にふるまう傾向があるかを質した。
 これらの板挟み状況のうちの一つだが、学生達は、10ドル紙幣でコーヒーとマフィンを買ったところ20ドルの時にもらえるお釣りが渡された。
 このカネをあなたはどうしますか、と<学生達は聞かれた>。
 もう一つの仮想のシナリオでは、学生達は、彼らの教授が試験の採点を間違えて、B相当だったのにAを付けられた。
 採点を変えてもらうように求めますか、と<学生達は聞かれた>。
 路上において見られたのと同様のパターンが実験室でも見られた。
 非倫理的なふるまいを最も行うつもりのある者は、最上の社会的地位に属する者だったのだ。
 一つの可能性として、単に、金持ちの人々は自分達の利己的な側面について認める傾向がよりある、という説明ができないか、ということがある。

→言行が一致するとは限らないよ、(特にキリスト教徒の場合においてをや、)とコラム#5326で記したところですが、ここで示唆されているように、この種のアンケート型のフィールドワークを行ったり援用したりする場合には、この点にくれぐれも注意しなければなりません。(太田)

 しかし、それがここでの論点ではなかったのだ。
 [この研究の被験者達が、子供達のためのものであると聞かされた、つぼに入ったキャンディーを少しはとってよいと言われると、金持ちの個人達は貧しい被験者達に比べて2倍もとった。]
 <ところが、>すべての社会的地位の被験者達みんなに自分達が高い社会的ランクに属すると想像するよう求めたところ、彼らは、遍く、・・・<この>キャンディーを、よりたくさんとったからだ。
 もう一つの実験では、<あるオンライン・コミュニティ>から募集された人々に、研究者達が細工を施した「偶然のゲーム」をやらせた。
 <すると、>自分を高い社会的階級に属すると申告した人ほど貪欲(greed)に対して好意的な態度を示し、かつ、ゲームでいかさまをより行う傾向があった。・・・
 [<また、>ある研究では、アマゾンの50ドルのギフトカードを勝ち取るというサイコロを使ったコンピューター・ゲームをやらせると、金持ちの個人達は、貧しい仲間達よりも結果をチョロめかす傾向がよりあった。
 <更に>もう一つの実験では、被験者達に安定的な仕事を求める仕事候補者と給与の交渉を行う雇用主達をやらせた。
 偽物の雇用主達は、この仕事がすぐに廃止されることに言及するかどうかは自由だと言われていた。
 この研究では、上流階級の被験者者達は、この情報を出さない傾向がよりあった。
 このことから、この研究の主宰者達は、これは、彼らに騙す意思がある証拠であることを結論付けた。・・・]

 金持ちの人々は、より金融資源を持っているので、彼らは生存のための社会的紐帯により少なくしか依存していない、とバークレーの研究者達は報じた。・・・
 その結果、彼らの利己が彼らを支配し、ルールを破ることに余り疑いを持たなくなる、というのだ。
 「もしあなたがより狭量な世界の住民になると、あなたは他者達のニーズに対する感受性がより少なくなる」と・・・この研究の主管者のポール・ピフは述べた。
 ≪「あなたが上流階級の席につくと、自分自身をより権利を有する存在(entitled)と見て、より自分に大きく焦点を合わせる(self-focus)ようになる。」と<も>述べた。・・・
 ≪・・・「あなたの社会的環境からして自分の行動の影響から、より緩衝材で守られるようになり、自分には、より資源があるので、例えば、弁護士を雇うためのカネをより持っているので、自分のふるまいによるリスクを感知する必要がなくなる、というわけだ」と。・・・≫

 <以上を読んで、>いわゆる99%に属す<ところの貧しい>人々<(注1)>は倫理的優位感を覚えるかもしれないが、その前に以下のことを考えてみて欲しい。
 ピフと彼の同僚達は、それが誰であれ、その倫理的諸水準は、当人が突然宝くじにあたって上位1%<(注1)>の仲間入りを果たした瞬間に低下してしまいがちであることも見出した。・・・

 (注1)どうやら、この研究チームの金持ちの定義は、以下に拠っているようだ。
 「アメリカのメリルリンチなどの調査による富裕層の定義は、主な居住用不動産、収集品、消費財、および耐久消費財を除き、100万ドル(約8000万円)以上の投資可能資産を所有する者としている。英語ではHNWI (high-net-worth individual)と表記する。2011年の統計によると、世界に約1090万人の富裕層が存在し、世界で最も富裕層人口を持つ国がアメリカで約310万人、2位は日本で約173万人である。・・・」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E6%8C%81%E3%81%A1
 100万ドル以上の投資可能資産保有者は、(彼らの被扶養者を入れれば)米国の約1%にあたるからだ。(日本の場合、1%強ということになる。)

 <逆に、>子供時代の貧困についての映画を鑑賞するといった単純なことでも、全ての階級の人々に困った他者達を助けることを促すように見える。・・・
 [・・・最後の実験において、研究主宰者達は、被験者達に、貪欲の有利さを考慮するように「前もって教え込み(primed)」、現金を盗むとか賄賂を受け取るとか顧客達にふっかけるといった仕事場での良くない<(=貪欲的な)>ふるまいの例を示した。・・・]
 ≪・・・<その上で、>彼らは、この被験者達が非倫理的な行為を行う度合いについて質問に答える前に、彼らに、貪欲が自分達にとって裨益的となる三つのやり方を書き記すよう求めた。・・・≫
 <このように、>ひとたび彼らが貪欲を好意的に見るよう促されるや、低い階級の被験者達は、かかる非倫理的なふるまいに彼らの金持ちの同僚達同様、積極的に参加するように見えた。・・・]
 ≪<つまり、>上流階級の個人達も下流階級の個人達も、非倫理的なふるまいを行う潜在性(capacity)には必ずしも違いがないのであって、違うのは、規定値(default)の傾向なのだ」と主宰者達は記す。≫
 (以上、Aによる。ただし、≪≫内はB、[]内はCによる。)

3 日本ではどうなのか?

 日本の心理学者に、日本人を対象に同じ類いの実験をぜひやって欲しいものです。
 その結果を大胆に予想すれば、(当然、間違っているかもしれませんが、)規定値でも何かを吹き込んだ後でも、ルール順守度や倫理度において、金持ちと貧乏人の間で、違いは見られないのではないか、と思うのです。
 しかも、(国際比較に伴う困難性はあるけれど、基本的に、)平均的なルール順守度や倫理度において、日本人は米国人を上回るのではないか、と思うのです。

 ここでは、直観的考察を行っておきます。
 日本で金持ちと言えば、戦前では実業家、戦後では開業医や弁護士を通常イメージします。
 まず、開業医や弁護士ですが、彼らは、国家資格商売であり、かつ対面サービス販売業者すから、有能無能はさておき、資格を取り上げられないよう、或いは顧客に逃げられないよう、常識的なルールや倫理は守ろうとします。
 では、戦前の実業家はどうでしょうか。
 戦前から戦後にかけての代表的実業家として、我々がすぐ思い出すのは、土光敏夫(1896〜1988年) 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E5%85%89%E6%95%8F%E5%A4%AB
です。
 彼なんて、ルールや倫理の権化にしか見えません。
 それでは、戦前において、いわゆる成金(注2)と言われた人々はどうだったでしょうか。

 (注2)「成金<とは、>・・・明治維新後には、第一次世界大戦による大戦バブル景気によって、急に富裕層に転じた者を指して使うようになり、一般に広まった。・・・<ただし、>そのイメージの多くが庶民の羨望心や劣等感の裏返しである。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E9%87%91
 
 「内田信也<(1880〜1971年)は、政治家に転じ、鉄道大臣、農商大臣、農林大臣(戦後)を歴任。>・・・旧制水戸高等学校開校のために、100万円を寄付したことでも知られる。・・・列車の転覆事故にあった際に「おれは神戸の内田だ。金はいくらでも出す、助けてくれ。」と叫んだという話はいかにも成金らしいエピソードとして有名になった(内田本人は実際には『金はいくらでも出す』という部分は言っていないと回想している。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E7%94%B0%E4%BF%A1%E4%B9%9F
 この内田、ルールや倫理に無頓着であった人には見えませんね。

 「勝田銀次郎<(1873〜1952年)は、神戸市長も務める。>・・・1918年に<母校の>青山学院に高等学部校舎と院長館のために建築費31万円を寄付し<た>」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%9D%E7%94%B0%E9%8A%80%E6%AC%A1%E9%83%8E
 彼もまともな人であったようですね。

 「山下亀三郎<(1867〜1944年)は、>・・・郷里を始め各地に学校を設立するなど社会事業にも力を尽くした。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E4%B8%8B%E4%BA%80%E4%B8%89%E9%83%8E
 彼もまた、まともな人であったようですね。

 「山本唯三郎<(1873〜1927年)は、>・・・料亭で大散財の後に玄関で履物を履こうとしたところ暗くて良く見えないため、懐から百円札の束を取り出し火をつけるという、成金の逸話として有名な行為を行った。・・・かつて通った同志社に8万円で図書館・・・を寄付、岡山市立図書館の工費・施設費1万8000円、郷里の久米郡の・・・実業学校の設立に20万円を寄付するなど、社会事業にも手を染める。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E5%94%AF%E4%B8%89%E9%83%8E
 一番悪名高い人ですが、ちゃんと社会事業もやっています。

4 終わりに

 いかがでしょうか。
 「金持ち」の方を含め、皆さんのご意見をどしどしお聞かせください。