太田述正コラム#5530(2012.6.11)
<皆さんとディスカッション(続x1572)>

<CYQqNQkV0>(「たった一人の反乱」より)

この(国会の)原子力発電所事故調査委員会のメンバーに安全保障の専門家がいないのは仕方ないにしても事故や防災とかリスク管理とかにもあまり関係のなさそうなメンバーばっかりじゃん。
http://tinyurl.com/6md4shk

大阪市の特別顧問で怪しげなことをやってる弁護士が主査だって言うし。

<太田>

 本件に関して菅前首相が言っていることの結論は基本的にすべて正しいと思った方がよい。↓

 「・・・菅直人前首相は自身のブログで10日、国会が設置した東京電力福島第1原発事故調査委員会から、事故対応をめぐって「官邸による過剰介入で現場に混乱を招いた」と指摘されたことについて「異例ではあるが、東電も保安院も想定していなかった過酷事故が起き、そうせざるを得なかったのが現実」と反論した。
 菅氏はブログで、事故発生当初に経済産業省原子力安全・保安院が組織として機能していなかったことを挙げ「もし官邸が動かなかったならば、結果はどうなったか」と主張。「国会事故調に理解されていないとしたら残念だ」としている。」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120611/plc12061105000000-n1.htm

  「結論は」と書いたのは、東電の首脳陣や保安院の担当者等が仮に「組織として機能してい」たとしても、重大な有事においては、情報結節は少ない方がいいからだ。
 ただし、かかる情報を踏まえて意思決定を行う際には、独断は避けなければいけないことは言うまでもない。

<TA>

≫かなり全球的標準からズレるに至っていたところの、先の大戦の頃の日本軍においてさえ、こんな、<今回の原発事故対応で「全面撤退」を言った言わないのような、中央と出先との齟齬なんて聞いたことがない。かくも重要な話を文書(含む電信)で交わさないってんだから、いかに戦後日本が安全保障/危機管理を忘れちゃってるかということだな。≪(コラム#5528。太田)

 この件のような、命令発信者と命令実行者が直接意思疎通可能な場合の例とは異なるのでしょうが、「先の大戦の頃の日本軍において・・・重要な話を文書(含む電信)で交わさ」れなかった例ならあるようです。↓

 「・・・米軍捕虜の移送において発生した<いわゆる>バターン死の行進を巡って、多くの連隊に、「米軍投降者を一律に射殺すべしと」の大本営命令が兵団司令部から口頭で伝達されていた。ところが大本営はこのような命令を発出しておらず、本間中将も全く関知していなかった。・・・この命令は辻が口頭で伝達して歩いていた・・・。・・・
 結局、バターンにおいて大量射殺は起きなかったものの、辻は大本営の命令を偽作し、日本軍の不評を徒に増大させたわけである。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BE%BB%E6%94%BF%E4%BF%A1

→これは、単なる犯罪行為であって、「例」にはあたりません。
 犯罪行為を犯した、しかも繰り返したとされる、辻正信中佐がなにゆえ処罰されることがなかったか、はまた別の問題です。(太田)

 また、「先の大戦の頃の日本軍において・・・重要な話を文書(含む電信)で交わ」したにもかかわらず、それが誤りであった例もあります。↓

 「<「私物命令」>とは正規の発令者が全然知らないのに、堂々たる命令として、時には口達で、時には正規の文書で来る命令である。・・・
 <例えば、>フィリピンでエマニュエル・ロハスすなわち後のロハス大統領を助けた神保中佐(ミンダナオ独立守備隊幕僚長)・・・<の例だ>。・・・
 神保中佐は<ロハスを処刑せよとの>正式の文書が来てもなお、一種の第六感で、「だれかが勝手につくった命令(すなわち私物命令)じゃないか」と思った。そしてそのヒントは・・・バターン戦終了時に、どこからともなく発せられた捕虜殺害の“軍命令”実は「私物命令」だったわけである。現在では、この私物命令の発令者が、大本営派遣参謀辻正信中佐であったことが明らかである<(「だれが出したか当時はついに分からなかった」と神保中佐は述べている)>。」
(山本七平 著 『一下級将校の見た帝国陸軍』153〜157頁より)

→山本は、それが「正規の文書」であった・・違法命令に従うべきか、或いは、神保中佐は命令不服従で咎められるべきか、という問題が生じる・・のか、それとも神保中佐が第六感で犯罪行為であると思ったのが正しかったのかを検証する必要がありました。恐らく後者が正しかったと想像されます。
 そうだとすれば、これも「例」にはあたりません。
 (この本は読んだことがありますが、)いずれにせよ、こういう手抜き執筆をする山本を、私は全く信用していないことはご承知のことと思います。(太田)

 また、第二次大戦当時首相を務めたチャーチルの言として、こういうものもあります。↓

 「私は、公務の処理は文書によって行うのがよいという強い信念をもっている。・・・軍事的規律にしばられた階級のなかをのぞいて、命令をくだすことより意見や願望を述べることのほうがつねによい。それでも、合法的に定められた政府の首班や、とくに国防任務を担当する大臣から直接に文書で指示がくだされれば、たとえ命令の形式をとっていなくても、それは非常に重視され、実行されることが多かった。
 私の名前がみだりに使用されないようにするため、私は七月危機のさい、次のような覚え書きを発表した。<(以下、その覚え書き。表記上、一列下がっている)>
 私がくだす指示はすべて文書になっているか、あるいは直後に文書で確認されるべきものであること、また、私が決定したとされる国防に関する諸問題のうち、文書に記録されていないものに対しては、私は責任をとらないことを、明確に了解されたい」
(W・S・チャーチル 著 佐藤亮一 訳 『第二次世界大戦 2』23頁より)

 ↑わざわざ「覚え書きを発表した」ということは、少なくとも当時それを当然とするシステムにはなっていなかった、ということでしょう。
 山本七平の従軍体験に関する著作などを読むに、軍隊において重要な命令(後々自分の立場を危うくするような命令)は文書で受けるのが常識(鉄則)だったようです。
 多分、他国の軍隊においても同様でしょう。
 ですので、上記太田さんの言そのものは正しいのでしょうが、揚げ足取りができる余地のある書き様だと思いました。

<太田>

 (この本は、私は、訳本も原本も読んだことがないところ、)本来、英語の原文にあたらなければならないのですが、チャーチルは、「国防<(=安全保障/危機管理)>に関する」「命令」・・及び「命令」を下してよいかどうかの意見具申(太田)・・は全て文書でなされているということを当然の前提としつつ、「命令の形式をとっていな」い「意見や願望を述べ」た「指示」的なものは、「文書になっているか、あるいは直後に文書で確認され」たもの以外、自分「は責任をとらないことを、明確に」しただけのことではないでしょうか。
 そうだとすれば、これは、ここで引用するような話ではない、と私は思います。

<KC>

≫その後、ブログを直しましたが、ご確認をお願いします。≪(コラム#5528。太田)

 有料会員ではないので、全部は把握していませんが、公開分について、以下が訂正されていません。

コラム#5521(2012.6.8)<皆さんとディスカッション(続x1569)>
   ↓
コラム#5524(2012.6.8)<皆さんとディスカッション(続x1569)>

→直しました。(太田)

 尚、#5494(2012.5.21)のタイトル名を教えて下さい。

→「第一回十字軍(その4)」です。(太田)

<太田>

 それでは、その他の記事の紹介です。

 金正恩と生母の高英姫のめずらしいツーショットだ。
http://english.chosun.com/site/data/html_dir/2012/06/11/2012061100617.html

 シリアのアサド大統領夫妻は、米国の一流広告アドバイザー達を使って自分達が親しみ易く進歩的で魅力的である、というイメージを世界中に売り込ませたんだと。
 これに、ヴォーグ誌等がひっかかっただけでなく、英米の一流紙もひっかかり、その結果、ボクもまたひっかってしまったというわけだな。↓

 ・・・With the help of high-priced public relations advisers who had worked in the Clinton, Bush and Thatcher administrations, the president and his family have sought over the past five years to portray themselves in the Western media as accessible, progressive and even glamorous. ・・・
http://www.nytimes.com/2012/06/11/world/middleeast/syrian-conflict-cracks-carefully-polished-image-of-assad.html?_r=1&hp&pagewanted=all

 ターザンは、イギリス至上主義の象徴であり、しかるがゆえに、ドイツ、ロシア、そして日本とも戦わせられたのね。↓

 ・・・Tarzan is variously set against Germans, Ant-Men, Russians, dinosaurs, a lost city of Roman legionnaires, a lost city of medieval knights, a lost city of Atlanteans, a film crew and the inhabitants of Pellucidar, the world inside our hollow Earth (and the subject of another six Burroughs novels). In Tarzan and the Foreign Legion, he joins the RAF and is shot down over Sumatra, where his jungle education comes in handy in seeing off the invading Japanese.・・・
http://www.guardian.co.uk/books/booksblog/2012/jun/08/tarzan-100-lord-superheroes-burroughs

 大恐慌は、欧州において金融恐慌をもたらし、その結果が第二次世界大戦になった、という史実を、ニール・ファーガソンが改めて説いている。
 ここでは引用しなかったが、現在の欧州の金融危機だって、さすがに戦争にこそならないだろうが、深刻な状況になるのは必至だとさ。
 この金融危機の克服は、欧州の政治統合以外にない、と彼は主張する。↓

 ・・・It’s often forgotten that the Great Depression, like a soccer match, was a game of two halves. If the first half was dominated by the U.S. stock-market crash, the second was kicked off by a European banking crisis. It began in May 1931, when the biggest bank in Austria, the Creditanstalt, was revealed to be insolvent. The lethal blow was the collapse two months later of the Danat Bank, one of the biggest in Germany.
 As economic confidence slumped, unemployment soared to unprecedented heights. At the peak in July 1932, 49 percent of German trade-union members were out of work. We all know what the political consequences were. All over Europe, the extremists of the right and the left—fascists and communists—surged in popularity. Hitler came to power in 1933. Six years later Europe was at war.・・・
http://www.thedailybeast.com/newsweek/2012/06/10/niall-ferguson-on-how-europe-could-cost-obama-the-election.print.html
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太田述正コラム#5531(2012.6.11)
<私の現在の事情(続x18)>

→非公開。