太田述正コラム#5186(2011.12.20)
<欧州嫌悪を剥き出しにするイギリス>(2012.4.6公開)

1 始めに

 金融危機を契機に英国を除くEU全体と英国の間の亀裂が改めて露呈しつつありますが、ドイツのシュピーゲル誌の英語電子版が、英国人、就中イギリス人の恐るべきホンネの欧州大陸観を取り上げた記事を二つ載せていたのでご紹介しましょう。

2 その前に

 一昔前は、イギリス人が、結構本心を韜晦していたことが分かる、米スレート誌のコラムを、その前にご紹介しておきましょうか。

 「・・・ほとんど150年前に、イギリスの偉大なる経済論考家のウォルター・バジョット(Walter Bagehot)<(注1)>は、エコノミスト誌で欧州の貨幣統合問題を論じた。
 当時、イタリアは普墺戦争に引き続き、統一されたばかりであり、ドイツは、まだいくつもの政治的単位に分かれてはいたけれど、統一の方向に向かいつつあることは明確だった。

 (注1)1826〜77年。「イギリスのジャーナリスト・評論家・経済学者・思想家。・・・エドマンド・バークの保守主義の政治思想に傾倒した。・・・<彼の>『イギリス憲政論』は、君主制擁護論として、バークの『フランス革命の省察』に次ぐ、政治学の古典となっている。35歳から51歳で死去するまでの期間、『エコノミスト』紙の編集長を務めた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88

 経済的観点から、通貨統合はどこまで行くのかということについて、バジョットは、単一欧州通貨は不可能であることは明確だが、2つの通貨なら可能かもしれない、と論じた。
 つまり、彼は「テュートン貨幣とラテン貨幣」からなる未来に期待を寄せ、「テュートン諸人種の商業活動を見て、それと比較してラテン諸人種の無気力ぶり(torpor)を見れば、テュートン貨幣が最もしばしば、より好まれることは疑いない」、と措定した。・・・」(注2)
http://www.slate.com/articles/business/moneybox/2011/12/european_financial_crisis_is_europe_a_mess_because_germans_work_hard_and_greeks_are_lazy_.html

 (注2)現在もこのような南欧・北欧対置論がよくなされるが、南欧の人々がなまけものだ、と考えてはいけないのであって、2008年のデータで、ドイツ人は1429時間、オランダ人は1389時間しか働いていないのに対し、ギリシャ人は2120時間、スペイン人は1647時間も働いている、とこのコラムの筆者は指摘している。

 要するに、一昔前は、イギリス人も、欧州全体への嫌悪を記したいところをぐっと堪え、北欧と南欧を「区別」した上で、南欧だけを嫌悪していると装う、というくらいの配慮は示していた、ということです。
 注意が必要なのは、この「北欧」にも、少なくとも(英国ならぬ)イギリスは含まれていないことです。

2 欧州嫌悪を剥き出しにするイギリス人

 しかし、このところ、イギリス人は、欧州に対して、配慮し、韜晦することなど忘れてしまったかのようです。
 シュピーゲル誌の記事は、次のように嘆きます。

 「・・・ロンドン証券取引所所属英国教会牧師のピーター・マレン(Peter Mullen)師・・・いわく、・・・ドイツは1870、1914、及び1939年に軍事力でもって欧州に覇権を確立しようとしたが、同じことを今、メルケルは金融システムでもってやろうとしているのだ、と。・・・
 大部数を誇る英デイリー・メール紙は、通貨同盟を救う独仏の諸プランを要約して、「<第三帝国のナチス・ドイツならぬ>第四帝国へようこそ」という見出しを打った。
 また、同紙は、別の記事で、「我々が目撃しているのは、ドイツによる隠密裏の欧州の経済植民地化だ」と記した。
 もちろん、多くの英国人達は、そして、<欧州に対する>憤りが最も広範に見られるところの、イギリス人の幾ばくかでさえ、こんな話はナンセンスであることを知っている。
 しかし、驚くほど多くがそうであることに無知だ。
 英国で、誰かが「ドイツ」という言葉を発すると、1000分の1秒もかからないうちに・・実際、政治、ジャーナリズム、コメディの各界における消息通中の多くさえ・・誰かが「ヒットラー」と言い出す。・・・
 英国の教育当局・・・は、<英国の>歴史教育が過度の「ヒットラー化」に苦しめられていることを発見した。
 英国の学校児童達には、ドイツは1933年にキ印(freak)として登場し、時のウィンストン・チャーチル首相のおかげで当然の報いたる死を1945年に迎えた、と教えられるのだ。
 反独的修辞は、ドイツ再統一・・「鉄のレディ」というあだ名の、当時のマーガレット・サッチャー首相はこれを妨げようとした・・の後、特に強まっている。
 分別のある(levelheaded)エコノミスト誌でさえ、ドイツの核爆弾の脅威と信じられているところのものに対する警告を発したものだ。
 1990年に、サッチャーは、<ロンドン近郊の首相公邸の>チェッカーズ(Chequers)<(注3)>に英国の指導的歴史家達を招じ、危険なドイツの国民性を分析させた。

 (注3)その位置、歴史等は下掲参照。
http://en.wikipedia.org/wiki/Chequers

 この会議の議事録によれば、いわゆるドイツ性の特徴として、「侵略性、利己主義、劣等感、感傷性(aggressiveness, egotism, an inferiority complex and sentimentality)」等が議論された。・・・」
http://www.spiegel.de/international/europe/0,1518,804616,00.html

 何だ、イギリス人の嫌悪の対象は、欧州中、ドイツだけじゃないか、と思われたかもしれません。
 そうではないのです。
 イギリス人にしてみれば、ドイツは、欧州大陸の代表に他ならないのです。
 そのことが良く分かるのが、同じシュピーゲル誌の次のもう一つの記事です。

 「くたばれ欧州(To hell with Europe)、とちっちゃなイギリスの町であるビショップス・ストートフォード(Bishop's Stortford)が決定した。
 この町は、ドイツのフリードベルグ(Friedberg)及びフランスのヴィリエ・シュール・マルヌ(Villiers-sur Marne)と46年間姉妹町関係にあった。
 しかし、デーヴィッド・キャメロン首相と同じ英保守党員である、新しい市長は、それぞれの町に宛てた一枚紙の書簡で、何の説明も施すことなく、姉妹町関係を解消した。・・・
 人口35,000人のこのビショップス・ストートフォードは、静かで豊かで失業がほとんどない町だ。
 この町へはロンドンの金融街であるシティー・・そこで、市長であるウィリー(Wyllie)を始め、住民のほとんどが生活の資を得ている・・から列車で38分かかる。・・・
 キャメロンは、欧州懐疑論者(euroskeptic)達の筆頭に自らを置き、そのことをいまだに悔んでいない。
 彼の政府を取り巻く情勢はよろしくない状態が続いているというのに、突然、彼の支持率が上昇した。
 経済は不況に逆戻りしつつあり、失業率はこの17年間で一番高い水準にあり、インフレ率は5%近いというのに、キャメロンがEUの叛徒を気取った時以来、すべての悪いニュースは忘れ去られたように見える。
 ビショップス・ストートフォードのウィリー市長は、フリードベルグもヴィリエールも訪問したことは一度もない。
 彼は、姉妹町関係を解消したことで騒ぎが起こっていることを理解できない。
 彼は、生徒達は、「関心の欠如」から、ドイツよりは、支那、ロシア、または米国の若者達と交流する方を好む、と言う。・・・」
http://www.spiegel.de/international/europe/0,1518,804572,00.html

3 終わりに

 イギリス人から見れば、アングロサクソン文明以外の文明の諸国は、ことごとく野蛮なのですが、その中で、自分達が野蛮であること・・イギリスに対して劣等感を抱いていること・・を自覚しながらそれを隠し、ことごとに背伸びしてイギリスと張り合おうとし、その過程で蛮行を繰り返してきたところの、欧州大陸諸国ほど唾棄すべき存在はないのです。
 とはいえ、かつてのイギリス人は、欧州諸国に対するそんな嫌悪感は韜晦したものなのですが、帝国を失い、相対的に落ちぶれてしまった現在、彼らは、嫌悪感を剥き出しにするに至った、というのが私の理解です。