太田述正コラム#5086(2011.10.31)
<映画評論28:ザ・パシフィック(その1)>(2012.2.16公開)

1 始めに

 表記は米国のTVシリーズ(2010年放送)なのに、類い稀なことに、表記に関するウィキペディアについては、英語のものより日本語のものの方ができがよい(注1)こともあり、それからの大幅なコピペから、本シリーズを始めることにしました。

 (注1)一点、問題があるのは、日本語ウィキでは、このTVシリーズの放送国が米国と日本の2カ国だけのように読めることだ。英語ウィキによれば、実際には、40カ国で既に放送されている。

 というわけで、このTVシリーズのイメージを掴んでいただきたいと思います。

 「『ザ・パシフィック』(The Pacific)は実話を基に太平洋戦争における米海兵隊員達と日本軍の死闘を描くテレビドラマシリーズ<だ。>。・・・
 製作総指揮<は、>スティーヴン・スピルバーグ、トム・ハンクス<(以上、『バンド・オブ・ブラザーズ』(コラム#4180、4184、4188)と同じ)>、ゲーリー・ゴーツマン<が執った。>・・・
 [『バンド・オブ・ブラザーズ』(Band of Brothers)は、<米陸軍>第506空挺歩兵連隊の一つの中隊の欧州戦域での行動を<、その指揮官であった中佐(最終階級)等の将校達を主人公として>追ったものであったのに対し、]<この作品は、米>第1海兵師団の海兵隊員達<の下士官・兵士達>を主人公に太平洋戦争の戦いを描く、実話を基にしたテレビドラマシリーズである。脚本は元海兵隊員ユージーン・スレッジのノンフィクション作品『ペリリュー・沖縄戦記(<原著は>英語)』と、同じく元海兵隊員ロバート・レッキーの回想記『Helmet for My Pillow』(日本未訳)に加え、議会名誉勲章受章者である海兵隊員ジョン・バジロン一等軍曹のエピソードを基にしており、物語はこの3人を中心にして描かれている。・・・
 総製作費には1億5000万ドル[とTVシリーズとしては『バンド・オブ・ブラザーズ』等を超える史上世界最高額]が費やされ、エキストラを含めた総出演者数は26000人以上に上りセリフのある登場人物だけでも138人に及ぶ。各話ごとに監督を代える、オープニングに第1海兵師団に所属していた実在の人物らによる当時を振り返えるインタビューが入っている等多くの面でバンド・オブ・ブラザーズの様式を踏襲している。・・・
 [<総放送時間は>540分<(9時間)に及び、>・・・]その構成は、>第1章〜ガダルカナル 前編〜、第2章〜ガダルカナル 後編〜、第3章〜メルボルン〜、第4章〜グロスター岬/パヴヴ〜、第5章〜ペリリュー 前編〜、第6章〜ペリリュー 中編〜、第7章〜ペリリュー 後編〜、第8章〜硫黄島〜、第9章〜沖縄〜、第10章〜帰還〜<となっている。>」
A:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%B7%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF
 (ただし<>内は私自身の視聴、等に依っており、また、[]内は下掲に依る。
B:http://en.wikipedia.org/wiki/The_Pacific_(TV_miniseries) )

 なお、『ザ・パシフィック』は読者のBERNIEさんから貸与されたものであり、以前、『バンド・オブ・ブラザーズ』を貸与された読者の鯨馬さんともども、BERNIEさんに厚く御礼申し上げたいと思います。

 ところで、『バンド・オブ・ブラザーズ』で、「私は、映画評論にあたって、評論対象たる映画の制作者が訴えたいことが何であってそれが事実や科学に照らして妥当であるかどうかを検証し、妥当でないと見たらその旨理由をあげて記して評論とし、妥当であると見たら、やはりその理由をあげた上で、更に訴えたいことをその制作者が適切に映像化しているかどうかを記して評論とする、というやり方をとってきた・・・ところですが、このシリーズに登場する米軍兵士達、何か訴えたいことがあって戦闘等を行ったわけではないことから、このような評論手法は通用しません。そこで、今回は、印象論的な話を申し上げるにとどめたいと思います」(コラム#4180)と記したところですが、バカなことを記したものだと反省しています。
 『バンド・オブ・ブラザーズ』の方は原作が一つであったのに対し、今回のは二つの原作と一人の「英雄」に関する史実に拠っているわけですが、原作が一つの場合でも、そもそも、その原作者は現実から一部を切り取って本にしているわけであり、当然、訴えたいことがなければ本にはしないし、現実から切り取る際にも、また、切り取ったものの描写の仕方においても、訴えたいことが影響を及ぼすはずです。
 そして更に、この原作に拠って映画をつくるにあたっては、どうしてその原作を選んだのか、その原作のどの部分をどう脚色して映画に仕立て上げたのか、等において、今度は映画制作者の訴えたいこと・・それは必ずしも原作者が訴えたかったことと同じとは限らない・・が影響を及ぼすはずです。
 いわんや、今回のように、典拠までもが複数存在する場合においてをや、ということです。

2 『ザ・パシフィック』が訴えたいこと

 (1)米軍も非道なことをやった

 『バンド・オブ・ブラザーズ』の評論において、「先の大戦の際の米英連合軍とドイツ軍との戦闘においては、悪いことは、むしろ米英連合軍の方が多くやらかした、ということをアッピールするという制作者の意図を感じ」た(コラム#4184)と記した私でしたが、『ザ・パシフィック』においても、同じことを感じました。

 「米国製ドラマでありながら、米兵が丸腰の日本兵を遊び撃ちで嬲り殺す、日本兵の死体や瀕死の日本兵から金歯を漁る、(米兵の遺体損壊)、非武装の少年民間人(原作では老婆)を射殺するなどの描写が行われ、米国で物議をかもした。当時一般的だった「ジャップ」、「イエローモンキー」などの差別用語も頻出する。」(A)

 ところが、今回は、どうやら事実を歪曲してまで、ドイツ軍ならぬ日本軍「も」悪いことを一杯やったと言い訳をしているようである点が一味違います。

 「一方で、第1章における日本兵の仕業と思われる、眼球を刳り貫かれ、男根を口中に詰め込まれ斬首された米兵の陵辱遺体(史実では本作と逆に1942年8月のマキン奇襲戦において米兵が日本兵の遺体に陵辱を加えた事実が日米双方の資料から確認されている。)や、日本兵が救助に来た米兵を道連れに手榴弾で自爆する様など等の描写がある。
 ただし、第9章における日本兵の民間人を盾にしながらの突撃攻撃、乳飲み子を抱えた女性に自爆攻撃をさせるなど、原作に無い過剰な演出も散見され、虚実織り混ぜた構成である点視聴には注意を要する。」(注2)(A)

 (注2)私は、「米兵の陵辱遺体」については、「男根」までは気がつかなかった・・日本版の自主検閲でぼかしがかかっていたのかもしれない・・が、日本語ウィキペディアの筆者は良く見ている。
 また、私は、「日本兵の民間人を盾にしながらの突撃攻撃<する、また、>、乳飲み子を抱えた女性に自爆攻撃をさせる」光景には甚だ違和感を覚えつつも、ひょっとしてそういうこともあったのか、と思っていたが、少なくとも二つの原作には出てこない、という点について、調べ上げた筆者、そして、「男根」の一件については主客スリ替えであったことを発見した筆者、に敬意を表したい。 

(続く)