太田述正コラム#4840(2011.6.30)
<先の大戦における蛮行(その8)>(2011.9.20公開)

 「英米における「良い戦争」という神話をバーレイは維持することに極めて関心が高い。・・・
 この著者が、もっともらしく言い紛らわせる一つのことは、どうして英国と米国が、そのおぞましさにおいてナチのそれとほとんど変わらないところの、ジョセフ・スターリンのロシアの体制と手を携えかについてだ。・・・
 バーレイはまた、彼の日本に対する非難と、米国の日本に対する戦争・・この戦争は双方の側での激しい人種主義によって油を注がれた・・におけるふるまいに関する彼の誠実なる分析との間でバランスをとることにも失敗している。

→ここでは、この書評子はおおむね妥当なバーレイ批判を展開していますが、前述したように、日本は米国に対してもともと人種主義的な意識を抱いていたわけではありません。(太田)

 ドイツ人達やイタリア人達はいじめられなかったというのに、米国(とカナダ)の日系市民達は収容所に閉じ込められた。
 当時の米国のプロパガンダ用ポスターでは、共通して日本人達はゴキブリとして描かれた。
 そして、日本と米国の部隊の間での戦いは残忍で野蛮なものとなり、両者とも相手を人間未満の存在と見るよう条件づけられた。

→ここも、妥当です。
 補足しておきますが、米国側は、戦争以前から日本人を人間未満の存在と見ており、その見方をそのまま戦争中も維持したのに対し、日本側は、戦争以前に米国人を同じ人間として見ていたことから、戦争において、日本政府が、国民や兵士にそんな米国人に敵愾心を抱かせるために、あえて米国人を貶める必要に迫られたというだけのことです。
 両者を同一次元に置いてはいけないのです。(太田)

 この、心安らかならなざる、太平洋における戦争の様相は歴史家のジョン・ダワー(John Dower)の『(War Without Mercy: Race and Power in the Pacific War)』<(コラム#4264)>の中で詳細に紹介されている。
 バーレイは、参照文献中にダワーのこの本を引用しているが、かかる歴史的記録を、より詳細に展開することを拒否している。
 この点について、もっともらしく言い紛らわせることによって、バーレイは、第二次世界大戦が悪に対する善の勝利であるとする欧米で抱懐されている神話を生き続けさせることを望んでいるわけだ。
 ただし、彼は、いくつかの議論の分かれる事柄・・例えば、ドイツと日本の諸都市を壊滅させ、それぞれの自宅において少なくとも100万人の一般住民を殺害したところの、英米(欧州戦域では英米加、太平洋戦域では米国)による爆撃作戦・・には真っ向から取り組んではいる。・・・
 <しかし、バーレイが記していないことだが、先の大戦が終わってからは、>次に3年間にわたって、米国は、極貧の北朝鮮に、日本に対して第二次世界大戦で落としたのよりも大きなトン数の爆弾を落とした。
 これによって、北朝鮮は事実上破壊され、100万人以上の一般住民が殺された。
 一体、文明に対するいかなる実存的脅威がこのような精神病的な水準の暴力を正当化したというのか。
 同じ疑問が、1960年代と70年代において、東南アジア諸国に米国によって空中から加えられた恐怖が提起されなければなるまい。」(A)

 朝鮮戦争とベトナム戦争への言及は、この書評子、ジム・アッシュ(Jim Ash)・・カナダ人ということしか分からない・・が、香港を拠点とするアジアタイムスに寄稿するくらいですから、支那人の視点を取り入れている可能性が高いのであって、その結果、彼が、私の戦前(及び戦後)史観に近似するところまで到達していることを指し示しています。
 復習を兼ねて簡単に申し上げておきますが、私の見方(コラム#省略)は、米国は、全く無意味に、日本の一般住民(及び兵士)を何百万人も殺戮しつつ、日本帝国を瓦解させ、その結果、支那内戦を経てスターリン主義が東アジアを席巻することとなり、更にその結果として、本来全くそんなことが起きるはずがなかったところの、朝鮮戦争やベトナム戦争が起き、戦後においても、何百万人もの(日本人を除く)東アジアの一般住民や兵士が米国によって殺戮されることになった、というものです。

 「例えば、バーレイの宥和政策についての説明ぶりは単視眼的だ。
 ノーマン・ストーン(Norman Stone)は、チェコ人達は英米によって裏切られたけれどプラハはそのままの形で生き残ったとかつて記した。
 また、ポーランド人達は英米によって助けられたけれど、600万人の市民を失い、ワルシャワは破壊された。
 一体<英米による>どちらの裏切りの方がよりひどかったのかね、と。」(E)

 この書評子、バーレイを批判しているとは必ずしも言えませんね。
 そもそも、この書評子、英米によって、戦後、チェコともども、ポーランドはソ連に売られた、ということまで記さなければなりませんでした。 
 英国は、先の大戦において、日本を対英米開戦に追い込むことによって、大英帝国を瓦解させたという意味において、大戦に敗北したと言っても過言ではないわけですが、その開戦原因となったのは、ドイツのポーランド侵攻であったことに鑑みれば、その1939年の開戦の直接的目的・・ポーランドの主権の維持・・に照らしても、英国は先の大戦に敗れた、ということにあいなるわけです。

 「どうして、英国と米国が、それぞれの爆撃機の航続距離の限界に位置していたところの、アウシュヴィッツ<強制収容所>を爆撃することができなかったことがそれほど咎められるべきことだとすれば、その戦闘爆撃機で容易にそこに到達できたロシアに同様の誹りが向けられないのだろうか。・・・
 バーレイは、(若干の人々から)現在尊敬されているところのエリック・ホブスボーム(Eric Hobsbawm)<(注11)(コラム#4438)>が1939年に従順にもスターリンの<言っている>ラインに沿って、戦争<をやるなどということ>は悪い発想で会って、国際資本主義に対する戦いの方がはるかに重要だとほざいた英国人のほとんど犯罪的な愚鈍さを我々に思い起こさせる。」(B)

 (注11)1917年〜。ユダヤ人の両親の下にエジプトのアレクサンドリアで生まれ、ウィーンとベルリンで育つ。14歳の時に孤児となり、親戚夫婦の養子としてイギリスに移住。英国のマルクス主義歴史家・公的インテリ・著述家。
http://en.wikipedia.org/wiki/Eric_Hobsbawm

 おっと失礼。
 これは、また別の書評子によるところの、バーレイ批判どころか、文字通りの礼賛でしたね。
 上出のカナダ人は英国人とはさすがに言えないでしょうから、英国人書評子は、全員、基本的にバーレイ礼賛に終始しているということです。
 遺憾ながら、英国の相対的没落に伴い、1939年のホブスボームのスターリン主義観を嗤えないほど、現在の英国本土の英国人達の戦前日本観は偏頗なものに堕してしまっている、ということになりそうです。

(完)