太田述正コラム#4164(2010.7.31)
<狩猟採集時代の性(その3)>(2010.12.10公開)

 (4)農業時代以降の性

 「・・・農業の到来は人間社会のあらゆるもの・・性的なこと、政治、経済、健康、食餌、運動の形態から仕事と休息のパターンに至るまで・・を変えた。
 それは、性的なことへ財産の観念を持ち込んだ。
 食物、子供の面倒、雨風をしのぐこと、そして防衛といったほとんどのものが分かち合われた小さな狩猟採集集団の中で人々が生活していた時には、財産などさして重要な考慮の対象ではなかった。
 <だから、>性的なことについても分かち合われていたとしても全く不思議ではない。父性が論点ではなかった時ならそうであって当然ではないか。
 しかし、農業時代になると、男性は、特定の子供が生物学的に自分のかどうかを心配し始めた。
 というのは、彼は自分の蓄積された財産を自分自身の子供に残したいと欲したからだ。
 この時点で、人々は、性的ふるまいと誕生との間の明確な関連を意識するようになったのだ。
 多くの人々は、セックスと誕生の原因と結果について非常に明確な形で理解していたというわけではない。
 しかし、動物を家畜化して人々の傍らで生活させていたのだから、彼等は特定の雄が特定の雌と番ったら特徴が子孫に立ち現れることに気付き始めた。・・・」(C)

 「・・・現代の諸社会を特徴付ける性的抑圧の大部分は人々が財産について心配し始めた時に人間の生活の中に入り込んできた。
 遊牧的狩猟採集者達の中で、少ししか個人財産がなかった者や全く個人財産がなかった者にとっては、父性などほとんど何の意味もなかった。
 しかし、一たび、家、土地、動物その他の「家族が保持するための」富の形態を保有するに至ると、父性は、突然枢要なる関心の対象となった。
 当然ながら、父性を確かなものにする唯一の方法は、女性の性的ふるまいをコントロールすることだった。
 恥は人々を操作する最も強力な方法の一つであり、だからこそ、女性が性的ルールを守らないことを意味する言葉・・売女(whore)、身持ち悪女(slut)、売春婦(harlot)、尻軽女(bitch)、浮気娘(hussy)等々・・は男性に比べてかくもたくさんあるわけだ。
 一夫一婦制は、夜勤で働くのが困難であるのと同じ意味において<維持することは>困難なのだ。・・・」(B)

 (5)避雷針

 「・・・この本の中では、我々は、性的一夫一婦制を感情的一夫一婦制から区別することに注意を払った。
 我々の<狩猟採集時代の>祖先の多くが、その成人としての人生の全期間、極めて特別な、ユニークに緊密な関係を維持した可能性は大いにあるが、性的排他性がこの緊密さの不可欠な部分であると考えた者がそんなに多かったとは思われないのだ。・・・」(B)

 「・・・著者達は、愛と色欲とを鋭く区分する。
 彼等の見解では、結婚外でのセックスという行為は、その者が配偶者に対して抱く愛を必ずしも減じるわけではないのだ。
 「それが単なるセックスである場合は、それだけのことだ」と彼等は記す。・・・」(D)

3 終わりに

 今まで私がこの種の話題について累次の機会に記してきた様々なことを、この本の著者たる夫妻は、非常に分かりやすく統一的に説明しようとしており、かなり説得力があります。
 ただ、つれあいが浮気をした時に感じる嫉妬心が、果たして単に、農業時代以降、我々に注入され続けて来た性的ルールの産物に過ぎないのかどうかについては、一抹の疑問が残ります。
 この疑問は、定住的ではあっても狩猟採集社会に生きた縄文人に聞けば氷解するかもしれません。
 もちろん、縄文人に直接聞くわけにはいかないけれど、(私見に言うところの)縄文モードの平安時代や江戸時代の人々が残した文書を研究すれば、それを通じて縄文人の性的方面についてもある程度想像がつくのではないでしょうか。

 いずれにせよ、著者達の指摘が正しいとすれば、今後、子育てに社会が関与する度合いが増大して行き、かつ女性が収入面で男性に依存しないようになればなるほど、つれあいの浮気、というか自由恋愛、がより許容される社会になりそうです。
 特に典拠はあげませんが、フランスなんかは既にそんな感じですね。

 ただ、そうなってくると、精子の数と卵子の数の違いから、(セックスと妊娠とが切り離された時代においても、)どうしても女性の方がつれあい的な相手にせよ、自由恋愛的な相手にせよ、男性に比べてえり好みしがちなだけに、モテ男には女性が群がるけれどモテナイ男には女性が全く寄りつかないというシビアなことになりそうです。

 このこととまんざら無縁ではない話をライアンがしているので、それをオマケ的にご紹介して本シリーズを終えることにしましょう。

 「・・・<タイガー・ウッズらのことだが、私は彼等がセックス中毒であった可能性を否定するものではないが、>大部分の男性にとって、魅力的な女性で、(理論上)全然ヒモ付きでない者が無限に供給されるということがどういうことか、想像することは困難だ。
 魅力的な女性にとって、その気になったセックス・パートナー<たる男性>を見つけるのは造作ないことであり、適切な類の飲み屋に行けば数分で見つけることができる。
 しかし、このような状況を経験することができる男性は極めて少ないし、<たとえできたとしても、>その大部分は成人になってからであり、しかも、何か偉大なる成功を収めるか著名人になるかしなければならない・・・。
 だから、<一般の>男性は、エロティックな機会に過剰に遭遇した時にどうしたらいいか分からない。・・・
 <ところが、>タイガー・ウッズに至っては、1000人の異なった女性とセックスをしたかもしれないが、彼はその10倍のさかりがついた(hot)女性から迫られて拒んでいた可能性すらあるのだ。・・・」(B)

 コメントは差し控えさせていただきます。

(完)