太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/

太田述正コラム#4180(2010.8.8)
<映画評論6:バンド・オブ・ブラザース(その1)>(2010.9.8公開)

1 始めに

 表記は、第二次世界大戦の欧州戦線における米軍のある部隊の戦闘を中心とする実話を描いた同名の本・・歴史家で伝記作家のスティーブン・アンブローズ(Stephen Ambrose)作・・をドラマ化したTVシリーズなので、果たして「映画」評論の対象になるのか疑問なしとしませんが、せっかく長時間かけて鑑賞したので、とりあげることにしました。
 このシリーズは、1話約1時間10分ほどで全10話で成り立っており、2001年に米TV局のHBOで放映されたものです。
 そして、第54回エミー賞に19分野でノミネートされ、作品賞、監督賞ほか6分野で受賞するとともに、2001年度ゴールデングローブ賞最優秀作品賞(TVドラマ&ミニシリーズ部門)受賞、という輝かしい受賞歴があります。
A:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%82%B9
B:http://en.wikipedia.org/wiki/Band_of_Brothers_(TV_miniseries)

 「私は、映画評論にあたって、評論対象たる映画の制作者が訴えたいことが何であってそれが事実や科学に照らして妥当であるかどうかを検証し、妥当でないと見たらその旨理由をあげて記して評論とし、妥当であると見たら、やはりその理由をあげた上で、更に訴えたいことをその制作者が適切に映像化しているかどうかを記して評論とする、というやり方をとってきた」(コラム#4159)ところですが、このシリーズに登場する米軍兵士達、何か訴えたいことがあって戦闘等を行ったわけではないことから、このような評論手法は通用しません。
 そこで、今回は、印象論的な話を申し上げるにとどめたいと思います。

2 シリーズを見た印象

 (1)登場人物が白人のみ

 事実そうであったろうと理性では納得しつつも、私が著しく違和感を覚えたのは、この長時間番組の中で、部隊となった米国、英国、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツで登場した、一般住民、ドイツ兵、米兵の中に全く非白人がいなかったことです。(強制収容所のユダヤ人も白人にカウントしていいでしょう。)
 昔見た『ベイブ(Babe)』という豚を主人公にした映画の中に(動物は別として)白人以外が全く登場しなかった時の違和感を思い出しました。
 『ベイブ』が封切られたのは1995年であったところ、撮影がすべて豪州のニューサウスウェールズ州で行われた英/豪映画であるにもかかわらず、制作者達は、米国への売り込みの観点から、セリフの多くに米国的アクセントで吹き替えを施した
http://en.wikipedia.org/wiki/Babe_(film) 
くらいだというのに、当時の米国の人種実態に合わせて若干でも非白人を登場させることまでは考えなかったようです。
 他方、『バンド・オブ・ブラザーズ』は、2001年の放映であった(B)わけですが、先の大戦当時は、米軍においては、白人部隊と非白人の黒人や日系人の部隊とが「隔離」されていたし、欧州においても非白人は少なかったであろうことから、非白人を登場させることは不自然であったことは分かるものの、もう少し何とかならなかったのか、と(隴を得て蜀を望むような話だと言われるかもしれませんが、)思った次第です。
 この作品は輝かしい受賞歴を誇ることとなったわけですが、果たしてTVを鑑賞した米国の大衆、とりわけ非白人の大衆が、自分達をこの作品に登場する兵士達と自己同一化できたのだろうか、私には疑問が残ります。

 (2)鼻白むタイトル

 原作のタイトルでもあるこのシリーズのタイトルは、イギリスのヘンリー5世が、1415年の聖クリスピンの日に行った演説からとったものです。(英語ウィキペディア上掲)
 これは、シェークスピアの創作であり、具体的には、『ヘンリー5世』(1599年)の第4幕第3場の、

 ・・・But we in it shall be remembered-
We few, we happy few, we band of brothers;
For he to-day that sheds his blood with me
Shall be my brother・・・
http://www.chronique.com/Library/Knights/crispen.htm

 ・・・我々は記憶されることになろう。
 少数の、幸せな少数の我々、兄弟の一団、
 本日、私とともに血を流す者は、
 私の兄弟になるだろう。・・・

というくだりがそれです。
 英仏百年戦争中のこの日(10月25日)に行われたアジンクール(Agincourt)の戦いにおいて、6000人の英軍は、6倍の36,000人のフランス軍に決定的勝利を収めます。
 (英軍の死者112人に対するに、フランス軍の死者7000〜10,000人、フランス貴族の捕虜1,500人。)
http://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_Agincourt 

 このように百年戦争前半の英軍は、滅法強かったのであり、この英軍より強かったのは、古今東西、(時代が全く違うとはいえ、)第二次世界大戦初期のドイツ軍くらいなものです。(コラム#2276)

 で、私の感想ですが、米国人たる制作者達が、先の大戦時の米軍を百年戦争前半の英軍になぞらえる、というのは思い上がりも甚だしく、ドイツ人に対する配慮にも著しく欠けている、と思いました。
 先の大戦初期とは違って、米軍が1944年6月のノルマンディー上陸作戦以降対峙したドイツ軍は、ソ連軍との戦闘等によって疲弊しており、制空権も失いつつあったのに対し、当時の米軍は戦力が最も充実するに至っていたわけであり、にもかかわらず、1944年9月に至ってもオランダ(とドイツの一部)で17〜25日に行われたマーケットガーデン作戦(Operation Market Garden)で(英軍とともに。以下同じ)戦略的敗北を喫しただけでなく、
http://en.wikipedia.org/wiki/Operation_Market_Garden
同年12月16日から1945年1月25日まで行われたベルギーでのバルジ大作戦(Battle of the Bulge)においてすら、ドイツ軍に互角に近い勝負に持ち込まれた
http://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_the_Bulge
のですから、何をか言わんやです。

 このような、米国の指導層の、少数民族や外国の人々に対する配慮のなさ、傲慢さが9.11同時多発テロをもたらした要因の1つであるところ、このテロが決行されたのが、このシリーズの第1話の放映(2001.9.9)直後であったこと(B)に、私は、因縁めいたものを感じます。

(続く)

太田述正ブログは移転しました 。
www.ohtan.net
www.ohtan.net/blog/