太田述正コラム#4152(2010.7.25)
<映画評論5:サルバドル/遥かなる日々(その6)>(2010.8.25公開)

 つまり、中南米は、冷戦が終わったために米ソの代理戦争の場でなくなり、正負両面で米国の軍事的存在感が低下したこと、かつ、米国との経済的結びつきの中共のそれに比しての相対的希薄化と世界金融危機により米国の経済的存在感が低下した今日、むしろ異界化が募りつつあり、アメリカ大陸は、米国とカナダからなる北米と中南米(ラテンアメリカ)へと引き裂かれつつあると言えなくもない、ということです。

 このことを象徴しているように感じるのが、BBCの電子版が、これまでAmericasという見出しでアメリカ大陸全体のニュースを扱っていたのが、今月に入ってから、Latin AmericaとUS and Canadaとに分けて扱うようになったことです。
http://www.bbc.co.uk/news/world/us_and_canada/
 ちなみに、ファイナンシャルタイムスとニューヨークタイムスは、今でもAmericas一本です。
http://www.ft.com/intl/world
http://www.nytimes.com/pages/world/index.html
 ワシントンポストは、North AmericaとCentral America and Caribbean NewsとSouth Americaに分けていますが、メキシコは、一番目に登場したり二番目に登場したりしており、どうもこの分類、うまく機能していないようです。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/world/

 以下のようなニュースを見るにつけ、中南米の一体性、というか、少なくとも中央アメリカ/カリブ海地域の一体性、換言すれば、米国/カナダにとってのメキシコ以南の異界性は明らかではないでしょうか。

 「・・・「・・・グアテマラの全域が今やほぼ」麻薬密輸諸組織、とりわけメキシコを本拠とするゼタス(Zetas)の「コントロール下にある。」・・・」
http://www.nytimes.com/2010/07/18/world/americas/18guatemala.html?ref=world&pagewanted=print
(7月18日アクセス)

 「・・・中央アメリカのジャングルに、共産主義革命家達と戦うために一世代前に送られた米国の手榴弾がほこりまみれの古びた兵器庫から横流しされ犯罪的諸マフィアに売られ、連中はそれをメキシコ政府を不安定化し市民達を恐怖に陥れるために用いている。・・・
 米国製の手榴弾のメキシコの麻薬貴族達への再配備と、<メキシコ>大統領のフェリペ・カルデロンが彼の兵士達を、米国で購入された真っ新の軍隊式攻撃ライフルと冷戦時代からの弾薬で武装したギャング達と対決するために送り出していることとは、・・・この紛争の次第に募りつつある相互にからみあった性格を裏付けるものだ。
 手榴弾の過半の出所はエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、そしてニカラグアだ。・・・
 ・・・メキシコで没収された手榴弾の90%近くは<製造後>20年を超えた年月が経っているものだ。
 ロナルド・レーガンとH.W.ブッシュ両政権は、1980年代及び1990年代初期の諸内戦の間、左翼の叛乱者達と戦うために中央アメリカの友好諸政府等(regimes)に30万丁の手榴弾を送った。・・・
 <もっとも、>メキシコで見つかったすべての手榴弾が米国製だというわけではない。
 ・・・多くはアジアかソ連や東欧諸国で製造されており、恐らくはキューバとニカラグアのサンディニスタによって左翼叛乱者達に与えられたものだ。・・・
 1980年から1993年のそこでの内戦の間にエルサルバドルへだけで約266,000個のM67手榴弾が<米国から>渡った。
 現在では1個100から500ドルで売られている手榴弾は、近年、メキシコのほとんどあらゆる地域で爆発してきた。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/07/16/AR2010071606252_pf.html
(7月18日アクセス)

 要するに、欧州の外延たる中南米諸国が米国(及びカナダ。以下同じ)に対して抱いている劣等感と怨念は、欧州諸国がイギリスに対して抱き続けて来た劣等感や怨念と同質のものであり、米墨戦争という米国によるメキシコ侵略戦争を除けば、欧州のように、ほぼ一丸となってイギリスと繰り返し戦い、ことごとく敗れ去るという経験すらできていないだけに、中南米諸国の米国に対する怨念はたまる一方で現在に至っている、と私は思うのです。
 そして、このような怨念があるからこそ、キューバは、(北朝鮮という、もはやスターリン主義とはさえ言い難いパーリア国家はさておき、)世界で唯一のスターリン主義国たる旗を降ろそうとしないまま、いまだに中南米への介入を続け、ブラジルやベネズエラは米国を旗頭とする自由民主主義陣営にとっての現時点での最大の仇敵国家たるイランにあえて塩を送り、特にベネズエラは時代錯誤的なスターリン主義への傾斜を示し、中南米の多くの国々は麻薬製造・密売組織と癒着関係を続け、また、中南米のほとんどすべての国が中共との経済関係強化に無警戒的にのめり込んでいる、というのが私の見解なのです。

8 終わりに代えて・・改めて『サルバドル』について

 冷戦末期の1986年の『サルバドル』においてオリバー・ストーンは、それから14年後のポスト冷戦期にガーディアンに中南米に関する前掲コラムを書いた米国人同様、中南米の抱える問題やその反米志向をもっぱら米国に原因があるものと描いたわけですが、いかに米国に厳しい私としても、それでは余りにも米国がかわいそうだと言いたくなります。
 なぜなら、以上をお読みになれば恐らくお分かりいただけたであろうように、基本的には中南米諸国側にその原因があるからです。
 オリバー・ストーン(ら)が『サルバドル』の脚本を書いたのはカーター政権の時(1977〜81年)であり、また、上記コラムが書かれたのはオバマ政権の時(2009年〜)であって、いずれも、戦後民主党政権の中でも極めつきにリベラルで宥和的対外政策を追求した政権であったことは皮肉と言えば皮肉であり、これは、米国には基本的に原因がないとの私の指摘を裏付けるものであると言えるでしょう。

(完)