太田述正コラム#4132(2010.7.15)
<映画評論5:サルバドル/遥かなる日々(その5)>(2010.8.15公開)

7 失敗国家群からなる異界から脱却しつつある中南米?

 以上のような中南米が、一見大きく変貌しつつあるように見えます。

 「米国と欧州が赤字と脆弱な経済回復にやきもきしている一方で、<ラテンアメリカ>は驚き桃の木山椒の木だ。
 ラテンアメリカは、過去においては債務不履行、平価切り下げ、そして金持ちの諸国からの財政援助がつきものだったが、堅調なる経済成長を続けていて北方のアメリカの諸国の羨望を招いている。・・・
 ・・・<ただし、>とぢらも石油<産出>依存国であるところの、ベネズエラ、そしてある程度はエクアドルも、・・・経済成長においてその隣国達の後塵を拝しているが、これは、全体的な趨勢の例外のように見える。・・・
 ラテンアメリカの経済成長は、中共その他の諸国が速い経済成長をしているところのアジアとの深まる<経済的>関係をおおむね反映している。・・・」
http://www.nytimes.com/2010/07/01/world/americas/01peru.html?ref=world&pagewanted=print
(7月1日アクセス)(コラム#4103)

 「・・・ラテンアメリカでは唯一、ベネズエラ経済は引き続き激しく下降を続けていて、インフレは<年>30%に達し、暴力犯罪がどんどん増えている。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/07/11/AR2010071103036_pf.html
(7月13日アクセス)

 果たして、社会主義志向の著しい少数の国を除き、中南米は失敗国家群からなる異界から脱却しつつあると言ってよいのでしょうか。

 ワシントンの経済及び政治研究センター(Centre for Economic and Policy Research)の共同所長のマーク・ウエイスブロット(Mark Weisbrot)は、次のように記しています。

 「・・・この10年間にラテンアメリカ、とりわけ南米を席巻した歴史的変化を、<米国政府は、>それがいかに同地域における米国の力に影響を及ぼすかを冷戦の狭いレンズを通して見て得点化する、という観点から眺めている。
 ジョルジュ・カスタネダ(Jorge Castaneda)は、元メキシコの外相であって現在ニューヨーク大学で教鞭をとっている人物だが、ワシントンの外交政策に係る体制派(establishment)のメディアの主要なスポークスマンになりつつある。
 最近の論考の中で、彼はラテンアメリカを、「米国とベネズエラのヒューゴ・チャベス大統領(及びキューバ)との対峙に中立の立場をとるか、いわゆる「ボリビア的」政府であるボリビア・キューバ・ウクアドル・ニカラグア・ベネズエラ各政府に対して明確に反対しているところの「アメリカ1」と、「アメリカ2」すなわち「急進左派」、とに区分けする。
 カスタネダに言わせると、米国務長官のヒラリー・クリントンにとって、「つい最近の6月7日にも、ホンジュラスで昨年11月にほぼ自由で公正な諸選挙が行われたにもかかわらず、ボリビア的諸国(Bolivarian countries)が同国のOAS(注1)への再加盟を阻止することができた」ことがとりわけ悩みの種となっている。

 (注1)1948年に発足した、アメリカ大陸諸国を網羅する国際機構。1962年から2009年までキューバの資格を停止。2009年に(クーデターで政権を転覆した)ホンジュラスの資格を停止。
http://en.wikipedia.org/wiki/Organization_of_American_States (太田)

 しかし、独裁制の下での諸選挙を「自由で公正」なものとして受け容れることができないのは、単に「ボリビア的諸国」だけではない。
 ブラジル、アルゼンチン、に加えて西半球の大部分を代表する諸政府が同じ陣営に属しているのだ。
 実際、リオ・グループ(Rio Group)(注2)が2009年11月に、メル・ゼラヤ(Mel Zelaya)を即時<大統領に>職務復帰させることが諸選挙の必要条件とされなければならないという声明を発すると、オバマ政権の右派同盟諸国たるコロンビア、ペルー、そしてパナマでさえも、この声明に調印せざるをえなかった。

 (注2)1986年12月に発足したところの、ほぼ、OASから米国とカナダを除外した国際機構。ただし、OASと違って事務局を持たない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Rio_Group (太田)

 民主主義的に選出されたメル・ゼラヤ大統領に対して、米国の同盟者達と米国によって訓練を受けた将校達によって<昨年6月に>敢行されたところのホンジュラスのクーデターは、米国政府とラテンアメリカとの関係における分水嶺的出来事だった。・・・
 クリントン夫妻の緊密な腹心であり顧問であるラニー・デーヴィス(Lanny Davis)がクーデターを敢行した<現>体制側のためにロビーイング活動を続けるとともに、オバマ政権は、この独裁制が生き続け自身を正統化することを助けるためにできることは何でもしてきた。
 OASと国連が、ゼラヤ大統領の「即時無条件職務復帰」を呼びかけているにもかかわらずだ。
 この<「即時」と「無条件」という>二つの文句はオバマ政権が決して口にはしないものだ。
 そもそも、同政権は、ホンジュラスにおける昨年11月の諸選挙をひどいジョークにしてしまったところの、5ヶ月以上にわたる<ホンジュラスにおける>殺人、独立したメディアの閉鎖、その他の大量の人権蹂躙を無視してきた。
 EUと米州機構(OAS)は、この選挙に監視団を派遣しようともしなかったくらいだというのに・・。
 「選挙された」政府が権力を掌握して以来、何十人もの政治活動家達と9人のジャーナリスト達が殺されたというのに、ホンジュラス政府の正統化に向けての闘争を依然続けている米国政府が、この努力をこの地域の大部分との戦いではなく「敵性」諸政府との闘争と描こうとしているのはいつものことだ。
 これらの<米国の>人々が認められない、いや恐らくは理解することさえできないのは、これには民主主義だけではなく、独立と自己決定権(self-determination)がかかっているという点だ。
 <「アメリカ1」に区分けされるところの>チリのミシェル・バチェレット(Michele Bachelet)<大統領>とブラジルのルラ・ダ・シルヴァ(Lula da Silva)<大統領>が、「アメリカ2」<に区分けされるところの>諸政府と同様に狼狽(upset)しているのは、オバマ政権が<麻薬対策のために>昨年8月にコロンビアにおける7つの軍事基地におけるプレゼンスを強化すると決定したことについてだ。
 また、2月にカンクンでの国際会議を主催し、最終的にはOASにとって代わりかねないところの、米国とカナダを除外したアメリカ大陸諸国による新しい機構を創設することを決定した(注3)のは、メキシコの右派の大統領たるフェリペ・カルデロン(Felipe Calderon)だ。

 (注3)リオ・グループに事務局を設ける、という趣旨か。(太田)

 OASがホンジュラスの独裁制に対するより強い諸措置をとることを阻止してきた米国とカナダの役割こそ、この動きを動機付けたに違いない。・・・」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/cifamerica/2010/jun/26/us-latin-america
(6月26日アクセス)

(続く)