太田述正コラム#4177(2010.8.7)
<皆さんとディスカッション(続x916)>

<蒲鉾>

 無料読者なので、ディスカッション上の話の流れが断片的にしかわかりませんが、これまで(1999年まで)の近現代史の帰納的研究成果をまとめた『日本近現代史研究事典』によりますと、日本の歴史学においても日本における民主主義の淵源が、少なくとも江戸時代にあると言うことは漠然とですが、わかっているそうです。
 もしかしたら、北畠親房から明治までの民主主義思想の発達をひとつながりの歴史として描けるのかも?
 以下は江戸時代の思想(新井白石等の儒学者の思想?)が幕末に公論思想になり、五箇条の御誓文に受け継がれ、明治憲法体制の重要な理念になった、という話。

――「公義」論と幕末政治――

 <1867年10月14日、徳川慶喜>は朝廷に対し、大政奉還の上表を提出した。その文面には、「広ク天下ノ公義ヲ尽シ」との文言が見える。
 この「公義」とは幕末から現れる。「公義輿論」、「公論」、「衆議」等々とほぼ同意の類語、あるいは密接に絡み合う言葉である。
 それが大政奉還という幕府捨て身の行動を取らせたひとつの原動力であった。
 しかし、後の五箇条誓文の第一条にも現れる(万機公論)これらの言葉は、幕末政治という狭い問題に限定されない、およそ日本の近代国家形成に関わる重要な理念を形成するものである。・・・

【「公義」とは何か】

 その意味を明確にするのは容易ではないが、まず「公義輿論」という言葉を取り上げてみよう。
 これは「公義」と「輿論」の複合とみられることもあり、井上勲は前者を国家(日本を指す)意志、後者をその国家を構成する単位の意見の様々とした。
 この前者に関しては三谷博の批判があるが、その三谷は「公義輿論」を日本全体に関わる問題の解決に際し、政権外の政治主体が政権担当者に参照と尊重を要求する集合的意見と解した。
 ・・・「公義」を尊重せしめた背景<は>・・・外圧による国家的危機に際し、“幕藩体制の支配の正統性、または国家体制の本質”が表面化したという類いの解釈がとられている。
 まず、政治思想の観点から、「公義」の発生を“徳川将軍家の支配の正統化に動員された儒教の「天」ないし「天道」観念の活性化と変容”にもとめる井上の見解。
 また、松本三之助も近年初頭の儒教思想における「天」(天下)と「公義」との関連を指摘している。
 他方で、尾藤正英や三谷博は、幕藩制国家の本質を大名連合政権(国家)とみることにより、それと<外圧による対外ショック>を関連させて「公義」尊重の風潮を説明している。
 両者ともさらに踏み込んで、中世以来の合議制の伝統も重視する。
 ・・・<「公義」論>は幕末のみならず、明治初年の制度改革、士族反乱、自由民権運動、帝国議会開設と、そののちまで重要さを失わないとの見解はほぼ定着していると言えよう。・・・

(『日本近現代史研究事典』「公義論と幕末政治」 東京堂出版 1999刊 から抜粋)

 補足:新井白石の思想

 幼年の将軍(=7代家継、徳川家の象徴化か?)を“補佐する立場(=徳川幕府の永続性を考える立場)”にいた新井白石が家継の為に書いたのが「読史余論」である。
 「読史余論」は摂間政治の開始から徳川家康制覇に至る政権の変遷経過を論じ、武家政権の正統性を主張したものである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%AD%E5%8F%B2%E4%BD%99%E8%AB%96
 以下、読史余論の訳文(日本の名著『新井白石』 中央公論社)から抜粋
 <新井白石の頼朝評(正統性に関わる部分のみ焦点をあてて抜粋)>
 『“神皇正統記”はつぎのように語っている。
 「・・・後白河の時代に戦乱が起こって、よこしまな臣たちが国を乱した。このために天下の民はひじょうな苦しみを味わわされた。
 頼朝は力をふるってその乱れを平定したのである。・・・都の戦塵もおさまり、万民は肩の荷をおろした。
 また、すべての人が安心して暮らせるようになり、東からも西からも頼朝の徳をしたって帰服した」また、こうもいっている。
 「だいたい、保元・平治以来の世の乱れたようすに、もし頼朝という人もなく、泰時という者もいなかったとしたら、日本の人民は、いったいどうなっていたことであろうか」
 ・・・当初、頼朝が、すでに破れていた兵士を集め、関東の武士や民衆の心をひきつけて、勢力が日々さかんとなり、天下がついに彼のものとなったのは、祖先の残した勢いだけによるものではない。
 彼自身が英雄の素質をもち、すぐれた人たちが彼を援助したのである。・・・』

<新井白石の足利尊氏評>

 『この人が初めに挙兵して以来二十六年のあいだ、一日とて戦いのないことはなく、天下は最後までおちつかず、君臣父子兄弟たがいに争い合ったことは、古今に例のないことである。
 すべて、自分が正しくなかったために、他人を正すことができなかったからである。
 しかしこの人が、けっきょく武家の棟梁となったことは、公家の政治が、ことのほか武家の治世に劣るということを武士も人民もよくわかったので、だれでもいい、武家の時代を再興してくれる人を君主にまつりあげようと天下の万民が思い慕っていたところ、好都合なことに、この人が朝廷にそむいたから、朝敵というその名は憎んでも実を慕ったわけである。』

<太田>

 確かに、新井白石(1657〜1725年)は、あなたが示唆しているように、北畠親房の象徴天皇論を征夷大将軍に「応用」した、と理解してもいいのかもしれませんね。

 また、徳川慶喜は、松平定信とは以下のような浅からぬ因縁があり、当然慶喜は定信の思想を定信の残した著作等を通じて熟知していたはずであり、慶喜の「公儀」論は、定信の「天下の公理」論(コラム#4170(未公開)、4175)の直伝だったのかもしれませんね。↓

 松平定信(1759〜1829年)は、「御三卿<筆頭>田安徳川家初代当主・田安宗武の七男として生まれる。・・・幼少期から聡明で知られており、・・・一時期は田安家の後継者、そしていずれは第10代将軍・徳川家治の後継を目されていたとされる。しかし、田沼意次・・・を恐れた<やはり御三卿の>一橋家当主<たる従兄弟の>一橋治済によって、・・・陸奥国白河藩第2代藩主・松平定邦の養子とされてしまった。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E5%B9%B3%E5%AE%9A%E4%BF%A1
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%B3%E5%B7%9D%E5%AE%97%E5%B0%B9

 他方、徳川慶喜(1837〜1913年)は、「江戸・小石川の水戸藩邸にて第9代藩主・徳川斉昭の七男として生まれる。・・・幕府より水戸藩に<対し、彼>を・・・一橋家の世嗣とする旨の台命が下る。これを受けて<彼>は・・・一橋家を相続し、・・・<上出徳川治済の長男である第11代将軍・徳川家斉の次男である>第12代将軍・徳川家慶から偏諱を賜わり慶喜・・・と名乗る。家慶は度々一橋邸を訪問するなど、慶喜を将軍継嗣の有力な候補として考えていたが、老中・阿部正弘の諫言を受けて断念している。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%B3%E5%B7%9D%E6%85%B6%E5%96%9C
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%B3%E5%B7%9D%E5%AE%B6%E6%96%89
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%B3%E5%B7%9D%E5%AE%B6%E6%85%B6

<べじたん>(ツイッターより)

 ざこば氏のコメント引用は、ギャグとして受け止めてください(笑)。
 スルーして頂いてもいいと思ったので、twitterで書いてみました。
 クリスチャン視点で観れば違うのかもしれませんね、ということです。
 私も古い西洋絵画には、「へぇ〜、ほぉ〜、お上手ですね」くらいの感慨しか持てませんが、ふるーい仏像には吸い込まれますから。

<太田>

 本日、一人題名のない音楽会(下掲)でとりあげたシューベルト(1797〜1828年)の「アヴェ・マリア(原題は異なる)」(1825年)は、スコットランドのウォルター・スコット(1771〜1832年)の叙事詩『湖上の美人(The Lady of the Lake)』 のドイツ語訳の抜粋に曲をつけた聖母マリア讃歌です。
http://www.carols.org.uk/ave-maria.htm

 でも、これくらいの名曲になると、キリスト教的含意など関係なくなりますよね。

 なお、このスコットとシューベルトとの片面的コラボ、スコットランドが欧州文明に属するという私のかねてよりの主張を裏付けるような話だと思いません?

<minorucchu>(ツイッターより)

社会新報の田中です。
 先日、太田述正様とは防衛庁同期入庁の守屋さんをインタビューしました。
 『普天間交渉秘録』もかなり売れているようで、元気を取り戻した感じでした。

<太田>(同上)

 田中さん、そうおっしゃるけど、彼、ずっと元気だったのでは? 
 それに今度の本、国会証言喚問の時と違って偽証はないんでしょうねえ。

<bonkers_blunder>(同上)

日韓の歴史をめぐり、韓国の人たちに日本の再武装を是認してもらうためにはどうしたらいいでしょうか? 
 まず日本の政治的意思が吉田ドクトリン狂いですがorz。
http://www.atimes.com/atimes/Japan/LH04Dh01.html

<太田>

 あなたが引用した記事によれば、

 ・・・80% of both Japanese and South Korean respondents were enthusiastic when it came to the other country's food and arts. ・・・

だって言うんだから、

 ・・・Three thousand people were polled in Japan and 1,000 in South Korea. In response to the question on whether the two countries had solved their past differences, an overwhelming 97% of the South Koreans said "no" while only 30% of the Japanese respondents said "yes". ・・・

なんてこと、それほど心配することはないでしょう。
 日本が集団的自衛権行使を禁じる政府解釈を変更し、米国から「独立」することを、韓国の人々は歓迎こそすれ、決して反対などしないと思いますよ。 

<十津川昭和>

(平成22年8月6日 活動動画)
Dailymotion版
(1/4)【デモ行進】米国は原爆投下を謝罪せよ!
http://www.dailymotion.com/video/xebaet_100806yyyy1_news
(2/4)【デモ行進】米国は原爆投下を謝罪せよ!
http://www.dailymotion.com/video/xebat3_100806yyyy2_news
(3/4)【デモ行進】米国は原爆投下を謝罪せよ!
http://www.dailymotion.com/video/xebbaj_100806yyyy3_news
(4/4)No more Hiroshima, No more Nagasaki. Pearl Harbor once again!
http://www.dailymotion.com/video/xebc22_100806yyyy4_news
プレイリスト
http://www.dailymotion.com/playlist/x1dr57_shukenkaifuku_22-08-06yyyyyyyyyyyyy#videoId=xebaet
 ・・・
http://www.shukenkaifuku.com/info/main.cgi?mode=thr&no=95
 ・・・

<太田>

 日本の「右」↑にも少しはまともになる端緒が見え始めたようですが、まだまだ、って感じですなあ。
 第一、あなた方自身、こういう運動を、どうして今年になってから・・つまり、米国大使が広島式典に出席する運びになってから・・始めたの?

 それでは、記事の紹介です。

 一応、ワシントンポストも広島の記念式典の記事を載せたよ。↓

 ・・・Britain and France participated for the first time, as did U.N. Secretary General Ban Ki-moon. ・・・
 While no sitting American president has been to either city, Jimmy Carter visited Hiroshima in 1984 after he had left office. No sitting Japanese prime minister has visited Pearl Harbor, which was attacked by Japanese forces on Dec. 7, 1941.
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/05/AR2010080501957_pf.html

 独シュピーゲル誌が、気合いの入った長文の、広島の、インタラクティブな参考グラフィックス付の記事を載せました。↓
http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,710498,00.html
http://www.spiegel.de/flash/flash-11678.html

 アラブ「世論」はどうしょうもないね。↓

 ・・・a majority of the public across the <Middle East>region・・・believes a nuclear-armed Iran would be a positive development in the Middle East.・・・
 Arab governments are more worried about the prospects of a nuclear Iran than the publics are,・・・
http://www.csmonitor.com/USA/Foreign-Policy/2010/0806/New-poll-angry-at-US-Arabs-support-an-Iran-nuclear-bomb

 米有力紙の一つが、イスラエルのイラン核施設攻撃を米中間選挙直前、と予想しました。↓

 ・・・Perhaps the US knows something about Israel’s intentions toward striking Iran・・・. A prime opportunity for Israel to strike Iran would be this fall, just before the US elections when politicians are most prone to support Israel despite its actions.・・・
http://www.csmonitor.com/Commentary/Editorial-Board-Blog/2010/0806/China-is-a-barometer-on-whether-Israel-will-attack-nuclear-plants-in-Iran
 
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 一人題名のない音楽会です。
 今回は、シューベルト小特集の1回目です。

 ※小学生時代に随分弾き込んだ曲
 ★かつてよく自分でピアノで弾き語りをした曲
 ◎その他思い出に残っている曲

セレナード◎ Mischa Elmanバイオリン+ピアノ伴奏(本来は歌曲) 
 このような組み合わせの演奏を紹介したのは、一昨年に私自身が同じ組み合わせ(ただし編曲は異なる)で某読者と合奏した時のことを、その折の出来映えに不満を覚えつつ反芻しているためだ。口直しにどなたか私と合奏しません?
http://www.youtube.com/watch?v=WQw1s6YAdVU&feature=related
菩提樹(リスト編曲) 尾崎有飛(コラム#3402)(本来は歌曲★) 
http://www.youtube.com/watch?v=OO6mRuHOy14
アヴェマリア Helene Fischer(ドイツ語) ここにも美人あり。
http://www.youtube.com/watch?v=Djmvux5Toao&feature=related
ます Ian Bostridge
http://www.youtube.com/watch?v=bk-TXzUlJhs&feature=related
「冬の旅」よりおやすみ★ Fischer-Dieskau 
http://www.youtube.com/watch?v=Tc_GCguYgHw&feature=related
「冬の旅」よりライエルマン★ Paul Schwartz 現代風編曲。
http://www.youtube.com/watch?v=FFlDPe5kjEM&feature=related
魔王(注) Anne Sofie von Otter 鬼気迫る歌唱と伴奏。
http://www.youtube.com/watch?v=VdhRYMY6IEc

(注)ゲーテの詩に曲をつけたもの。上記はベルリオーズによるオケ編曲。
http://en.wikipedia.org/wiki/Der_Erlk%C3%B6nig

軍隊行進曲 ホロヴィッツ
http://www.youtube.com/watch?v=zI6DQwT9qb8&feature=related
楽興の時(Moment Musical)第3番※  ホロヴィッツ
http://www.youtube.com/watch?v=o9Ak7Tk9B3s&feature=related
即興曲第1※ ジメルマン
http://www.youtube.com/watch?v=sChVRfNIdOA&feature=related
即興曲第2※ ジメルマン
http://www.youtube.com/watch?v=-3WWZQyPs30&feature=related
即興曲第4※ ジメルマン
http://www.youtube.com/watch?v=lZm3JbzFzrQ&feature=related

(続く)