太田述正コラム#3788(2010.1.24)
<新編著英国史(その1)>(2010.5.29公開)

1 始めに

 コラム#3763でご紹介した本、ジョナサン・クラーク(Jonathan Clark。1951年〜)の 'A World by Itself: A History of the British Isles' の書評等が増えてきたので、改めてご紹介することにしました。

A:http://www.ft.com/cms/s/2/c7b45e40-fbe0-11de-9c29-00144feab49a.html
(1月12日アクセス)(書評)
B:http://www.guardian.co.uk/books/2010/jan/17/history-british-isles-jonathan-clark
(1月21日アクセス)(同上)
C:http://www.historytoday.com/MainArticle.aspx?m=33795&amid=30298302
(1月23日アクセス。以下同じ)(編著者による解説)
D:http://www.telegraph.co.uk/culture/books/bookreviews/6872431/A-World-by-Itself-a-History-of-the-British-Isles-review.html
(書評)
E:http://www.heraldscotland.com/arts-ents/non-fiction-reviews/1066-and-all-that-how-britain-shaped-the-world-1.997809
(同上)

 なお、クラークは、ケンブリッジ、オックスフォードを経て、現在、米カンサス大学の英国史教授をしている英国人です。
http://en.wikipedia.org/wiki/J._C._D._Clark

2 内容

 (1)総論

 「歴史家達は、しばしば、自分達の本がどれくらい物語で占められるかについて議論をする。
 この本はこの問題をほとんど物語を語らない形で解決している。・・・
 ロバート・スキデルスキー<(コラム#3535、3537、3539、3541、3602)>が担当した20世紀の部分だけでは、伝統的な出来事の連鎖を叙述する試みが行われているが、それ以外では、日付と人物はほとんど登場しない。・・・
 私は人物の閃光、おいしい挿話、たまの一筋のユーモア、歴史がそれに依存するところの彩りと人物の感覚に焦がれた。・・・」(D)
 「・・・この本は、ノルマン人の征服、ボズワースの戦い、王政復古、選挙改革法、そして第一次世界大戦を時代を劃すものとして用いている。・・・」(A)<(コラム#3763参照)>

 (2)英国

 「・・・「素晴らしく穀物に富み、<ローマの豊饒神>ケレス(Ceres)の穀物倉と呼ばれるべきだ。・・・途方もなく黄金に富んだ紛れもないアラビアの宝庫だ」というのが、ウィリアム征服王の従軍牧師が1066年にイギリスを調査した時に記したことだ。
 ローマ人達も同様、穀物が定期的にブリテン<島>からライン<河流域>駐留諸ローマ軍に輸送されていたところの、ブリテン<島>の諸資源に夢中になった。・・・

→コラム#54で私が展開した豊かな国イギリス論を補強する典拠となりますね。(太田)

 欧州と比較すると、民事紛争は限定的でありドゥームズデー・ブック(Domesday Book)(注1)は、初期中世のイギリスは実に良く統治されていたことを明らかにした。

 (注1)「イングランドを征服したウィリアム1世が行った検地の結果を記録した世界初の土地台帳の通称である。1085年に最初の台帳が作られた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A5%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%BA%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF (太田)

 著者達は、その700年後の産業革命についても同じような指摘をしている。
 技術などではなく、産業化を開始させたところのものは、安定した状態(a steady state)、侵略されることの欠如、そして法の支配だったと。

→ここは、コラム#90で私が展開したコモンロー論を補強してくれます。(太田)

 イギリスの英国教の下での君主制的かつ帝国国家(nation)であったことが、イギリスを、血と土のアイデンティティーに立脚した大陸の諸国家に比べてより開かれた多元主義的社会にした。・・・」(B)

→イギリスが民主主義独裁の最初の類型たるナショナリズムに汚染されることがなかった理由の一つとして、私が累次申し上げてきているところの、イギリス人の文明的自己認識に通ずる話です。
 なお、帝国(多民族からなる)においては君主制でないと民主主義は容易に機能しない、とも申し上げてきたところです。(太田)

 「・・・この本は、ローマ帝国の端っこの雨に濡れそぼる小群島が、どのように文明化された世界を形作るに至ったか、すなわち、議会制民主主義、産業化、自由貿易とグローバリゼーションとを効果的に発明し、はたまたこの世における文学の最も偉大な一群を後世に遺贈するに至ったか、を教えてくれる。・・・」(D)

→コラム#27で私が言及した点ですね。(太田)

 「これらの小さい島々は、理解できることだが、かつては自分達自身を中央であると考えていた者達によって辺境とみなされたが、その<領域的>大きさを超え、世界の諸事においてその役割を果たしてきた。・・・

→同上。(太田)

 クラークは、この島国の人々が、米国の将来の発展とそれが世界史をどう作り上げるかを決めるにあたって主要な役割を演じたとも指摘する。・・・」(E)

→あたりまえですが、忘れてはいけないポイントですね。
 私に言わせれば、その米国ができそこないであったことが、世界にとんだ災厄をもたらすわけですが・・。(太田)

(続く)