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太田述正コラム#3985(2010.5.3)
<皆さんとディスカッション(続x822)>

<midshipman>

≫私は、かねてより、集団的自衛権行使を是とするか否かは、政治家と政治屋を見分けるメルクマールだと指摘しているところです。≪(コラム#3983。太田)

ご指摘の件については、了解しました。
では、太田さんの政治家の善し悪しのメルクマールは何ですか?
また、世界基準でみた「良質な」政治家を生む土壌を日本で形成するにはどうしたらよいとお考えですか?
 (現在の「独立」していない状況の我が国では、所詮無理な話ですかね…。)

<太田>

 ご示唆されておられるように、環境を整えることが大事です。
 政権交代によって、官僚におんぶにだっこでなく、政治家のイニシアティブで政策を推進していく気運が出てきたことは第一歩ですが、第二歩は、地方分権を推進することでしょう。
 以前から何度も申し上げていることですが、そうなれば、政治家が推進すべき政策がなくなってしまうので、否応なしに外交や安全保障を手がけざるを得なくなり、「独立」気運も出てこようというものです。

<ΒΥΥΒ>(「たった一人の反乱」より)

 憲法には規範性がない・・・わけねえだろw。
 50%もの人が改正を望んでんだぞw。
http://mainichi.jp/select/today/news/20100503k0000m010068000c.html?link_id=RTH02

<太田>

 以下からも分かるように、肝腎の憲法第9条について、その改正に民意が極めて消極的である以上は、民意が憲法改正について積極的であろうとなかろうと・・このところ、消極的方向にふれつつある・・民意は憲法改正に消極的だ、ということだと私は考えています。↓

 「・・・現憲法を「改正すべきだ」との回答が47%で「現在のままでよい」の40%を上回った。1年前の調査と比べて改憲支持は変わらなかったが、護憲支持が2ポイント増え、その差は縮まった。・・・」
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819481E2E0E2E2E48DE2E0E2E7E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2
 「・・・9条をめぐっては、憲法改正を目標に掲げた安倍内閣当時の2007年4月調査で、「変えない方がよい」49%、「変える方がよい」33%だった・・・
 <しかし、今回の世論調査で>は、改正の「必要がある」は47%、「必要はない」39%で、改正派が上回っている<が、>「必要がある」は07年は58%だった<ところ>、毎年少しずつ減り、50%を切った。・・・
 ・・・戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条を「変えない方がよい」は67%で、「変える方がよい」の24%を大きく上回った。「これからの日本の平和や東アジアの安定」に9条が「役立つ」と考える人は70%にのぼり、そうした評価が9条維持の世論につながっている。 」
http://www.asahi.com/national/update/0502/TKY201005020275.html

 いずれにせよ、私が申し上げているのは、帝国憲法も現行憲法も一度も改正されていないこと、前者においては君主主権から事実上の国民主権へ、後者においては軍備禁止から是認へ、といった解釈の許容範囲を超える解釈「変更」が行われたこと等から、日本においては(成文)憲法に規範性がない、ということです。

<モッキー>

 けちをつけるわけじゃないので、先に謝っておきますが、目の衰えを感じてきているうえに、知的レベルの高くない私には、このブログの基本的なフォーマットが煩雑に感じられて、非常に読みにくいです。
 太田さんの文明論や歴史観、国家観には興味があるのですが、文章も号ごとにまたがって、飛んでいたりするので、過去に遡って読むにも結構大変で根気が必要。
 英文による原書からの引用にあたってはお手上げ(たまには辞書くらい引け、笑)。
 やはり、いつか数巻の書籍として、内容を時系列でまとめて欲しいですね。
 もちろん、その時はお金を払って書店で買い、コーヒーでも飲みながら、じっくり耽読させてもらいます。

<太田>

 激励、ありがとうございます。

 本日ご紹介した牛の密輸の記事、大変平易な英文で書かれていますので、読んでご覧になられることをお奨めします。

<私有自楽>

 太田さんはあまりTVはご覧にならないと思いますが、<毎日曜>(6:00PM) からNHK教育でやる"Justice" with Michael J. Sandel、なかなか面白い番組ですよ。
 ・・・一度ご覧になることをお勧めします。

<太田>

 日曜の1800〜1845はNHK-Hで大河ドラマを見ることにしています。
 NHKも徹底して吉田ドクトリン的史観なのが面白い。
 戦国時代でも幕末でも登場人物達にやたら平和平和と叫ばせています。
 今回の『龍馬伝』でも、神戸海軍操練習所で各藩から集められた学生達が、砲弾を敵に命中させようと弾道計算に熱中しているのを見た龍馬が、それに危惧の念を抱き、勝海舟にご注進するという場面が出てきて呆れちゃいました。
 攘夷のためにはもちろんですが、「平和」のために敵を抑止するにしたって、敵に砲弾を叩き込む能力がなければ始まらないはずだからです。
 こういう場面を見るのも興味があって、NHKの毎年の大河ドラマをずっと鑑賞してきています。
 大河ドラマに限りませんが、NHKは国民に吉田ドクトリンを刷り込み続けている、という印象です。まあ、国民の側もそれを求めているのでしょうがね。

 <ところで、サンデルって>コラム#3622以下でとりあげた人物ですね。
 別の読者からも(コラム#3933で)この番組への注意喚起がありました。

<私有自楽>

 本気で平和を望むなら、独立と平和を維持出来る交渉力とそれを担保するだけの軍事力、そしてそれをまた担保出来る経済力を保有していて欲しいものです。

 でも、それ等を根本で担保するのは国民の独立の気概でしょうね。

 NHKが吉田ドクトリン的史観だから国民がそうなのだとも言えますね。
 NHKがごときマスコミに振り回される国民が情けない。

 ところで、<今回の>"Justice"ですが、とても分り易すそうな言葉使いの解説による講演で平明な言葉が流れて行きましたが、恥ずかしながら僕には全くついていけませんでした。

 本気で理解しようとして集中して言葉(もちろん僕の場合は翻訳の日本語)を追うのですが理解が追いつかないのです。
 番組の後、太田さんのコラム#3622以下を参照しましたが、それでも理解には程遠いと言わざるをえません。(でも随分助けにはなりましたが)

 突然名指しされ回答して行く学生たちに敬服します。
 僕の知る限りの日本の18〜20歳前後の学生ではもう彼等に勝てる訳はありませんね。 何とかしなければ。・・・

PS.サンデルの公開授業は毎土曜の夜2500から再放送があるようです。

<太田>

 それでは、記事の紹介です。
 
 インドとバングラデシュ間の牛の大量密輸という、小ちゃな国際問題です。
 インド亜大陸が分割独立さえしなかったら、こんな問題起こりえなかったんですがね。
 これも、チャーチルが日本を先の大戦に引きずり込み、大英帝国を過早に崩壊させてしまったためです。
 それにしても、バングラデシュは言うに及ばず、現在のインドでも依然、賄賂が横行しているようですね。↓

 ・・・A dirty little secret that most Indian politicians don't discuss is the thriving cow smuggling trade from their Hindu-majority nation, home of the sacred cow, to Muslim-majority Bangladesh, where many people enjoy a good steak. ・・・
 India has outlawed cattle exports, but that hasn't prevented well-organized traffickers from herding millions of the unlucky beasts each year onto trains and trucks, injecting them with drugs on arrival so they walk faster, then forcing them to ford rivers and lumber into slaughterhouses immediately across the border.・・・
 The border guards are in on it, both in India and Bangladesh, and take bribes to look the other way,・・・Smuggling is rampant these days with all the money and growing population.・・・

 Estimates suggest 1.5 million cows, valued at up to $500 million, are smuggled annually, providing more than half the beef consumed in Bangladesh.・・・
 Animals that arrive exhausted are injected with Diclofenac sodium, a banned anti-inflammatory drug, to energize them. Most of the traders are Muslims. Many of the drivers and handlers are Hindus. ・・・
 India has mostly turned a blind eye to the smuggling problem. In part, it's worried that any mention could inflame religious tensions between Hindus and Muslims・・・. Hindus consider cows sacred because of references in ancient religious texts.
 ・・・It's too political,・・・And every pocket is being lined, with a trade of this magnitude.・・・
 Bangladesh has little incentive to raise the issue publicly either・・・, given that it taxes the smugglers and is quite happy not to pay India the duties that a legal trade would entail.
 ・・・the cross-border business should be legalized to reduce the number of deaths in clashes; about 100 cattle traders and border guards are killed each.・・・
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-india-cows-20100503,0,7142346.story
 
 コラム#3972、3974、3976でご紹介した 'THE WAR LOVERS' の書評が、一度出たワシントンポストからまた出ました。
 いかに、この本が話題になっているかを物語っています。↓
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/04/30/AR2010043001091_pf.html

 免疫学者で能の新作を何本か書いたことでも知られる多田富雄氏の追悼文が出ていました。↓
http://www.nytimes.com/2010/05/03/health/research/03tada.html?hpw

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 本日、NHKがハイビジョンTV放送とFM放送でショパンの大特集を組んでいますが、こちらも負けずに、一人題名のない音楽会(連休版)の2回目をお送りしましょう。

 前回ご紹介した曲は、いずれもロシア・ロマンスと呼ばれるジャンルのものでした。↓

 ・・・During the 18th and 19th centuries Russian composers developed the French variety of the romance as a sentimental category of Russian art song. "Ochi Chyornie" (Black Eyes) <(後出)>is a well-known example.・・・
 Among Russian romances notable examples are
・Those Were the Days (song) <(コラム#3841)>
・Dark Eyes (song) <(コラム#3841)>
・Sergei Yesenin romances (especially "I do not regret<(コラム#3981)>, and I do not shed tears")
http://en.wikipedia.org/wiki/Romance_(music)

 引き続き、今回は、ロシア・タンゴ・・タンゴって当たり前ですが、アルゼンチン・タンゴのことですよ・・をお聴きください。

 その最も有名な歌手がピョートル・レシュチェンコ(Pjotr Leshchenko。1898〜1954年)↓です。

 ・・・a Russian singer, is universally considered "the King of Russian Tango" and specifically known for his rendition(歌唱) of "Serdtse(心)"-the most famous tango song not in the Spanish language. He was born a citizen of the Russian Empire in・・・part of Ukraine) into a poor and illiterate peasant family. During the First World War, his mother and stepfather moved to Kishinev, which was later annexed by Romania (and is now part of Moldavia(モルドヴァ)). As a result Leshchenko has been claimed as a national by Russia, Ukraine, Moldova and Romania. He sang almost exclusively in the Russian language.・・・
 In the Soviet Union his work was banned both because he was believed to be a White emigre(エミグレ) (which he was not legally) and because the style (tango and foxtrot) was deemed counter-revolutionary. Nevertheless, secretly he was very popular・・・. When during the Second World War and the subsequent occupation of Odessa by the Romanian army, Leshchenko was finally able to perform in the country he still considered his own, people would queue for hours on end to buy a ticket to one of his Odessa concerts.・・・
 After Romania switched sides during World War II and the Soviet army came to Romania, Leshchenko was not arrested and became the protege of general Vladimir Ivanovich Burenin, military commander of the Red Army garrison in Bucharest. Some sources believe this was due to Marshall Georgy Zhukov being a secret admirer of his music・・・
http://en.wikipedia.org/wiki/Pyotr_Leshchenko

 20世紀前半の激動の時代の時代に翻弄された名歌手の物語ってところですね。
 まずは、彼の十八番とも言うべき曲、Serdtse (Heart) (Isaak Dunayevsky作曲)↓からどうぞ。

 ・・・one of the most frequently performed Argentine Tango songs not sung in the Spanish language・・・
http://en.wikipedia.org/wiki/Serdtse
http://www.youtube.com/watch?v=VuFQVEhlKbs&feature=PlayList&p=C722CE2951108C76&playnext_from=PL&playnext=1&index=57

 次はTchernye glaza(Black Eyes)(Oskar Strok作曲)です。民謡の黒い瞳(black eyes)(コラム#3841)が挿入されています。
http://www.youtube.com/watch?v=i5Tk9A1qy6o&feature=related
 同じ曲のJurij Morfessiによる歌唱もどうぞ。挿入部分はありません。
http://www.youtube.com/watch?v=Zi5tvmeI7-A&feature=related

Tell Me Why, Madame? (Oskar Strok作曲)
http://www.youtube.com/watch?v=M9vaL123224
Wine of Love
http://www.youtube.com/watch?v=WMXhiTgSzIE&feature=related
Blue Rhapsody(Lunar Rhapsody)(Oskar Strok作曲)
http://www.youtube.com/watch?v=CD1Ylvehb5o&feature=related

 以下、レシュチェンコを離れます。

Alexandre Vertinsky歌唱 Tango Magnolia
http://www.youtube.com/watch?v=5q8sDA-OUYY&feature=related

器楽演奏。Volga, Volga (ロシア人エミグレのKolczanowskiが民謡ボルガの舟歌(コラム#3855)を編曲したもの)。
http://www.youtube.com/watch?v=aN-tNwcJosg&feature=related

 ロシア語によるポーランド・タンゴ(Polish tango)もどうぞ。
Utomlennoe solntse(Jerzy Petersburski(ポーランド人)作曲)
http://www.youtube.com/watch?v=qOnU-TRRmSE&feature=related
Serce matki(Zygmunt Karasinski(ポーランド人)作曲)
http://www.youtube.com/watch?v=4iMz6VtkpJA&feature=related

 ユダヤ人のロシア語によるタンゴです。
Mein Idishe Momme
http://www.youtube.com/watch?v=vftYsKOG4vo&feature=related

 ユーチューブに付された解説を読むと、これらの音楽に、戦前の日本や支那の人々も耳を傾けていたようです。
 準クラシックの様々なジャンルが世界で同期的にヒットしていたんですね。
 そんな時代に大戦争が2回も起こり、革命や反革命が荒れ狂ったとは。
 人間って本当におかしな生き物ですねえ。

(完)
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太田述正コラム#3986(2010.5.3)
<選択の自由という重荷(その3)>

→非公開

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