太田述正コラム#3900(2010.3.21)
<映画評論4:ロード・オブ・ウォー>(2010.4.22公開)

1 始めに

 私が、映画『ロード・オブ・ウォー(Lord of War)』(2005年。アンドルー・ニッコール(Andrew Niccol)監督。ニコラス・ケージ主演。彼は6人の制作者の1人でもある)を駄作だと思ったのは、「・・・インターポールを<捜査官を抱える、現実の>警察機関として描いているから」等の非現実性によるものではありません。
 安保理決議等を無視して違法な武器取引を行う死の商人は当然非難されるべきとしても、国家が関与した正規の武器の国際取引までも全面的に非難する、この映画は噴飯ものだからです。
 そこで、国際武器取引の最新の実態の一部をご紹介することを通じて、このことを皆さんにご納得いただこうと思い立ちました。
 なお、この映画の最後に、「世界最大の武器輸出国たる米、英、露、仏、中は、同時に国連安保理の5つの常任理事国でもある」というテロップが流れますが、わずか5年で大きな変化が生じた、という話もしたいと思います。
http://en.wikipedia.org/wiki/Lord_of_war
(3月20日アクセス)

2 武器国際取引の最新の実態

 「・・・国際防衛展示会・会議(The International Defence Exhibition and Conference=IDEX)・・・が最初に開かれたのは1993年2月14日だったが、34の国を代表する350の会社が展示を行った。
 そしてIDEXは、それ以来着実に成長を続けた。
 一番最近の展示会は、2009年2月に開かれ、50カ国を超える国の897の展示が行われ、各ホールを5万人を超える訪問客が行き来した。
 次回のIDEXは、2011年2月20日から24日にかけて開催が予定されている。・・・」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2010/03/12/get_yer_anti_ballistic_missile_shield_here?print=yes&hidecomments=yes&page=full
(3月14日アクセス)

→国際武器取引は隆盛を極めているわけです。(太田)

 「インドは、<3月12日>に1隻の空母、ミグ29戦闘機群、防衛・宇宙技術、及び少なくとも12の商用原子炉を含む、計70億ドルの装備及びノウハウに係る5つの契約をロシアと締結した。・・・
 ロシアは、何十年にもわたってインドの軍事ハードウェアの約70%を供給してきた。・・・
 インドは国産の兵器プログラムを開発する試みを累次行ってきたが、技術的諸問題、経費の増大や期限超過に悩まされてきた。・・・
 商用原子力については、ロシアとフランスの企業が優位にある。
 というのは、米国の企業はインドと米国の役人達が商用原子力協定を締結するに至った2008年まで、原子炉と関連技術を供給することが許されていなかったからだ。・・・」
http://www.latimes.com/news/nation-and-world/la-fg-russia-india13-2010mar13,0,7959861.story
(3月13日アクセス)

→別に70%も依存しなくても、特定の武器システムについてさえ、一旦、特定の国の企業からの輸入品に依存してしまうと、それを他国の企業に切り替えることは容易ではないこと、かつまた、商用原子力を売るにしても、それもまた政府が関与した取引である以上、武器をその国に売っている国が優位に立つこと、を頭に入れておいて下さい。(太田)

 「・・・かつては伝説的であったロシアの兵器は面目を失する品質管理問題に悩まされている。
 例えば、アルジェリアは、最近、海上輸送されてきたミグ戦闘機群を、欠陥故に返品した。
 インドが1隻保有している空母の<ロシア製空母による>一新も4年遅れており、何百万ドルも予算超過になっている。
 恐らくは最も胸を刺すようなトラブルの兆候は、ロシア自身の軍部が今やルーブルでもって投票を行っていることだ。
 すなわち、ロシア政府は、4隻のフランス製の揚陸強襲艦を買う話をフランス政府と行っている。
 もしこの取引が成ると、第二次世界大戦以来のロシアによる極めて顕著な外国製兵器の調達ということになるだろう。・・・
 共産主義の下では<ロシアの>国内総生産の20%であった兵器生産は、<今や>4.28%まで縮小している。・・・
 多くの専門家は、この衰亡はソ連の終焉とともに始まったと言う。
 彼等によれば、ロシアが資本主義になった時、軍事産業もそうなったという。
 ロシアの産業の多くと同様、軍事産業もあたふたと民営化された。
 例えば、その工場群とその工場群がつくったものを設計したエンジニアリング諸部門は別々に売られた。
 やがて、これは有害な効果を品質に及ぼすこととなった。
 中共、インド、そして中東への輸出諸契約を継承した大会社群は、古い設計の遺物的部品<を引き続き売ることで>利益をあげたが、その性能改善をほとんどしようとはしなかった。
 大盤振る舞いのソ連軍事予算が終わると、これによってもまた、戦車と航空機工場における生産ラインはきしみ始めた。
 更に最近になると、この部門は「オランダ病」として知られる潜行性の経済問題に悩まされるようになった。
 すなわち、自然資源(ロシアの場合は石油と天然ガス)からの収入増が国の通貨を切り上げ、世界市場における輸出価格を上昇させたのだ。・・・
 他の諸問題もロシアの軍事契約者達を襲った。
 多くの技術者達が移民して行き、引退近くの働き手達を後に残して行った。・・・
 ・・・外国では、2008年の金融危機が到来するとロシアの武器輸出のシェアは急降下した。
 ロシアはこの年、35億ドル相当の兵器を世界で売ったが、<前年の>2007年には108億ドルだったものだ。
 それは、その会社群が378億ドル相当の兵器を売った米国・・この年の世界総武器ビジネスの68%を占めた・・のひどい後塵を拝したのだ。
 発展途上世界では、2004年と2006年には軍事輸出が米国をさえ上回ったロシアの市場シェアは崩壊した。
 全体として、2008年の先進世界の武器輸出総額は前年並みだったが、ロシアのシェアは全取引の25.2%であった2007年から2008年には7.8%に減った。・・・」
http://www.nytimes.com/2010/03/13/business/global/13ruble.html?pagewanted=print
(同上)

→こんな惨憺たる状況のロシア武器産業の製品をインドが買わなければならないところに、武器取引での相手の切り替えのむつかしさが改めてうかがえます。(太田)

 「・・・武器輸出については、米国発の兵器が世界の支出の30%を占めているところの、米国が列国のトップにあることに驚く者はほとんどいないだろう。
 2位も誰も驚かないだろう。ロシア発のものが世界の兵器の23%を占めている。
 3位についてはかなりの人をびっくりさせている。
 ・・・ドイツの兵器輸出は過去5年間に2倍以上になり、世界全体の11%を占めるに至った。
 ドイツの潜水艦と戦車・・・は、それらに忠誠を誓う顧客をかなりの数獲得した。・・・
 ドイツの武器輸出の大部分はNATO加盟国向けであり、トルコとギリシャが<NATO加盟国ではない>南アフリカとともに、最大の顧客だ。・・・
 ・・・世界的なロケット、戦闘機、兵器、そして弾薬の取引は過去5年間に22%増加した。
 高価な戦闘機は特に人気があり、売られた全ての武器の27%を占めている。・・・
 中共とインドは主要な武器輸入国だが、シンガポールとアルジェリアも初めて10位以内に入った。
 実際、シンガポールの武器輸入は2000年から2004年の間と2005年から2009年の間とを比べると146%増加した。
 マレーシアの武器購入は同じ期間に722%も増加した。・・・
 ・・・戦闘艦艇はドイツの武器輸出の44%を占め、戦車が更に27%を占めている。・・・」
http://www.spiegel.de/international/germany/0,1518,683598,00.html
(3月17日アクセス)

→先の大戦の敗戦国として、日本同様軍事禁忌だらけであったドイツが、いつの間にか、世界第三位の武器輸出国になっていたわけです。
 その武器は大部分が同盟国か友好関係にある国に輸出され、同盟関係や友好関係の強化に貢献しているとともに、ドイツ自身の安全保障にも寄与し、更に当然のことながら、ドイツ経済も潤すという状況をもたらしています。
 それに対し、日本はいつまでニート的・退嬰的な武器輸出禁止政策を続けていくつもりなのでしょうか。
 1999年に審議官としてマレーシアを訪問した時(コラム#293以下)、日本から武器を買いたいという強い要請を受けたことを、今でも思いだします。(太田)

 「・・・米シンクタンク、ヘリテージ財団のイーグレン研究員は、「F22の開発をやめた今、頼みの綱はF35しかない。第5世代戦闘機の開発には長期間かかるため、F35の開発を中止したら米国の安全が著しく脅かされる」と指摘。「日本が共同開発に参加できれば価格低下にもつながるし、何よりも日本の安保上、大きな利点がある」としている。」
http://sankei.jp.msn.com/world/america/100320/amr1003202106007-n1.htm

→とにかく、米国を軸とした多国間武器共同開発への参加から始め、日本の武器輸出を徐々に解禁して行くべきです。
 そんなことは、「独立」以前に着手できます。(太田)

3 終わりに

 こういうわけで、『ロード・オブ・ウォー』を鑑賞している間中、これは喜劇なのだ・・実際喜劇的演出が施されている・・と自分に何度も言い聞かせながら、ようやくジ・エンドまで見終わった次第です。