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太田述正コラム#3892(2010.3.17)
<映画評論3:ミュンヘン(その3)>(2010.4.21公開)

 復讐しようとして相手の弟を殺してしまったレヒは、非合法団体であったわけですが、テロに対してはテロで復讐する、というのも、イスラエルという国家のDNAの一部である、と言ってよい気がしてきたのではありませんか。

 さて、それ自体がテロ機関でもあるイスラエルの諜報機関モサドが、つい先だって決行したのがドバイでの(2人のイスラエル兵を誘拐して殺害したところの)ハマス幹部<、マブー(Mabouh)>への復讐・・暗殺<(コラム#3839、3841、3843)>・・です。
 
 「・・・この作戦の全ては、一つの大きな仮定に立脚していた。
 それは、<この幹部の>死が自然死として記録されるだろうということだ。・・・
 それが落とし穴になった。
 彼等がかくも注意を怠ったのは、<自然死とみなされて>捜査が行われないだろうと思い込んでいたためだ。・・・
 27人の容疑者達によって使用された旅券の少なくとも半分は、イスラエル国籍と他国の二重国籍者のものだった。
 その中には、英国、アイルランド、豪州、仏、独との二重国籍保有者の旅券が含まれていた。・・・
 <これに加えて、>パレスティナ人が2〜3人いたが、世界中の保安の専門家達は、これほどの大人数であったことに疑問を投げかけている。
 専門家達の中には、それには意味があったと言う者もいる。
 つまり、撤収班、監視班、そして処刑班を組織したのだろうというのだ。
 しかし、専門家の多くは、それこそ典型的な官僚的失敗だと見る。
 ・・・一旦、監視班に対監視班、諜報員達に技術者達、と範囲を広げ出して行くと、シフトを組まなければならなくなる。つまり、ローテーションさせるために2組ないし3組の要員が必要になるのだ。そうなると、夥しい人数が必要になる・・・。
 攻撃者達はホテルの部屋に争った形跡なく侵入しているが、これは彼等の中にマブーを知っている者がいたことを示唆している。
 強力な致死的筋肉弛緩剤であるサクシニルコリン(succinylcholine)を投与されれば、その者はやがて心臓発作らしき症状を呈す。
 それでもって、マブーは15分以内に死ぬはずだった。
 しかし、何か予期しないことが起こったらしい・・・。
 というのは、暗殺者達はマブーの顔に枕を1〜2分押し当てて彼を窒息死させたからだ。
 ・・・彼等は、何らかの理由によりパニクッていたのだ・・・。
 襲撃チームは、部屋を片付け、あたかもひどい心臓発作に苦しんで死んだかのようにマブーの身体を横たえた。・・・」
http://www.latimes.com/news/nation-and-world/la-fg-dubai-investigation14-2010mar14,0,2523803,full.story
(3月14日アクセス)

3 終わりに代えて・・この映画に対する米国等での反応

 この映画に対する、在米ユダヤ人団体やイスラエル政府等からの、イスラエルの工作員達が自分達の仕事について躊躇をしたというストーリーは実際の工作員達のインタビューや公式声明では裏付けられていない、という反応は当然として、彼等からのその他の反応には首を傾げざるを得ないものが多いと言わざるをえません。
 この映画は、パレスティナ人テロリスト達とモサド要員達とを道徳的に等値であるとしているとか、同じことですが、「テロリスト」とイスラエル人暗殺者達を同等のものとしているとか、テロリズムよりも対テロリズムの問題の方をもっぱら論じているとかこの双方について同じ議論をしているとか、この映画は、およそいかなる政府といえども報復などしてはならないと言わんとしている、だからけしからん、といった反応はナンセンスもいいところです。
 (以上、事実関係は、
http://en.wikipedia.org/wiki/Munich_(film) 前掲によった。)

 テロリズムもそれへのテロ的復讐も、少なくとも近代以降は国際法違反ですが、かかる国際法違反を犯すか、またどの程度犯すか、は、国家ないし民族の安全保障上の必要性がどれくらいあるかにかかっています。
 つまり、テロリズムあるいはそれへのテロ的復讐は、手段に過ぎないのであって、目的に応じてかかる手段が用いられることもあれば用いられないこともある、というだけのことなのです。
 ですから、テロリズムとそれへのテロ的復讐との間に差などないし、それをパレスティナ人がやろうとユダヤ人(イスラエル人)がやろうと、はたまた英国人がやろうと、差などあるわけがないのです。
 この映画を鑑賞している私の白けきった気持ちを少しはお分かりいただけたでしょうか。

(完)

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