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太田述正コラム#3824(2010.2.11)
<映画評論1:ウオッチメン>(2010.3.15公開)

1 始めに

 昨夜、『ウォッチメン(Watchmen)』のDVDを鑑賞しました。
http://www.watchmenmovie.co.uk/intl/jp/
http://www.youtube.com/watch?v=E4blSrZvPhU
 この映画は、2009年に封切られた米国映画ですが、本日、この映画の原作のコミックについてのウィキペディア(英語版)
http://en.wikipedia.org/wiki/Watchmen_
(2月11日アクセス。以下同じ)を読んだところ、途中で、映画の方のウィキペディア(英語版)
http://en.wikipedia.org/wiki/Watchmen_(film)
と間違えたかと一瞬思ったほど、原作のストーリーと映画のストーリーが一致していました。
 ということは、撮影技術やキャスティングに余り関心がない私にとっては、この映画の評論を行うということは、とりもなおさず、原作のコミックの評論を行うことを意味します。
 (なお、この映画に関しては、撮影技術面で取り立てて紹介するようなものはなく、キャスティングについても、有名俳優は一人も出演していません。(Wiki上掲))

 ところで、この映画の米国での評判ですが、原作を忠実になぞっただけである・・そのためもあって、映画館上映版でさえ上映時間が3時間近い・・という酷評が、主要メディアに載った書評に多く見られます。
 タイム誌こそ、この点には触れず、この映画に並の上的な評価を与えていますが、原作を忠実になぞっただけという点をとらえて、ワシントンポスト、(同じ系列の)ニューズウィーク誌、ウォールストリートジャーナルは酷評しており、その他の主要メディアは、そもそも評論を載せていないようです。(Wiki上掲。以下、事実関係はこの典拠による。)

2 本題
 
 一体どうして、この映画が、読者が私に評論をさせたい映画のトップとなったのかを想像するに、恐らく、諸処で実際の歴史とは異なっているところの、米国の戦後史が、このアクションもののストーリーの背景とされているので、そこに私のツッコミが入ることを多くの読者が期待したのでしょう。
 しかし、スーパーヒーローたる主人公達の力で実際の歴史と異なってしまったところの歴史が、どのようなものとして描かれていようと、そんなものをいちいちあげつらっても仕方がないでしょう。

 また、このストーリーでは、スーパーヒーローたる主人公達が、いずれも善悪両面を持った人間臭い存在として描かれているという点がウリであり、米国での映画評でも、この点をとらえて高く評価するものもありますが、私に言わせれば、米国のコミックはもともと善玉と悪玉がはっきりし過ぎているという欠点を持っており、それが、そうではない日本のマンガやアニメ・・だからこそ、大人にも楽しめるものになっている・・の影響を受けて良い方向に変わってきた、というだけのことではないかと思います。

 私にとって面白かったのは、このストーリーを通して、コミック制作者達の深層心理が読み取れたことです。
 単純なものから、始めましょう。
 
 深層心理の第一は、米国の白人一般に共通する有色人種差別意識です。
 登場するスーパーヒーローたる主人公達は6人いるのですが、全員白人ですから、これは歴然としています。

 深層心理の第二は、これは米国の男性一般に共通する女性差別意識です。
 このスーパーヒーローたる主人公達6人のうち、女性は一人だけです。
 しかも、重要な役割は与えられていません。
 この6人中、非アングロサクソン系であることが明らかな名字を持っているのは二人だけで、そのうちの一人がポーランド系である女性(Juspeczyk)であることは、米国人一般のポーランド人に対する潜在意識の現れ・・諸大国に翻弄された歴史を持つかよわい民族・・ではないでしょうか。

 これから先はいささか複雑になります。

 手がかりは、スーパーヒーローたる主人公6人中、重要な2人、片や善>悪の象徴のオスターマン博士(Dr. Jon Osterman)、片や悪>善の象徴のヴァイト(Adrian Veidt)の間の葛藤と後者の目論見通りの結末が招来されるというこのストーリーのテーマにあります。
 一方のオスターマン博士のスーパーヒーローとしての名前(仮名)はマンハッタン博士(Dr.Manhattan)であり、ここから、このコミックの製作者達が、原爆を創り出したマンハッタン計画を善>悪の象徴と見ているらしい、という深層心理の第三が導き出されます。
 この博士が、スーパーヒーロー中のスーパーヒーローとして、米国政府に雇われ、ベトナム戦争の勝利といった重要な政策の実現に協力するところからも、この深層心理が裏付けられそうです。
 他方のヴァイトの両親はナチであり、このことを恥じて育った・・そこまで私の見た版には出てこなかったのでは?・・という触れ込みですが、そんなことを抜きにしても、ポーランド系である上記女性と並んで非アングロサクソン系であることが明らかなドイツ人の姓、しかも念が入ったことには、彼はヴェイトという英語読みではなくヴァイトというドイツ語読みで呼ばれていて、彼がドイツ系であることが否応なしに分かるようになっています。
 ここから、このコミックの制作者達が、米国が、アングロサクソン的要素2(4人)と欧州的要素1(2人)から成り立っていると思っているらしい、という深層心理の第四が導き出されます。

 一番複雑なのは、深層心理の第五です。
 ナチを両親とするドイツ系のヴァイトは、オスターマン博士をだまして開発した秘密兵器を使って世界の主要都市を破壊し、その罪をオスターマン博士にきせることによって、核戦争寸前であった米ソ両国を、急遽団結させることに成功します。
 これは、私に言わせれば、デジャヴの世界です。
 すなわち、悪>善の象徴である、ナチスドイツが自ら米ソ共通の脅威となったことによって、本来相容れないはずの米ソが提携し、第二次世界大戦を同盟国として戦ったという史実の二番煎じを、恐らくは全く意識しないまま、このコミックの制作者達はストーリーとして紡ぎ出したのだ、と私には思えてならないのです。

 この映画をご覧になった方、いかがでしょうか。

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