太田述正コラム#3759(2010.1.10)
<皆さんとディスカッション(続x709)>

<近藤>

 --釈迦の悟り、新しい方便--

≫(方便について)のコメント<(コラム#3745)>、ありがとうございます。 凡庸なるぼくの「ふに落ちる」(有り得るとして)には、かなりの時間が必要です。 失礼ながら先ずは心よりお礼申し上げます。≪(コラム#3747。サヨク)

 サヨクさん、「ふに落ちる」ためには一つ一つの言葉に捉われないこと。フッと論理の世界から抜け出て、自分の周りにある世界を大つかみにする、大きな知が必要です。

  「新しい方便」の例として出した、Morrie教授の「波」の話は、例え話、Analogyです。Einsteinの語る宇宙観、宇宙と生命の無限一体感は、そのもの釈迦の悟りと相通じています。(コラム#3745参照) 
 二人ともユダヤ人で、佛教徒ではないにもかかわらず、時代を超えて、同じ宇宙(そして人間の)認識に達している。
 ということは、釈迦の認識が人類共通の普遍性を持ち、さらに、現代的知性とも矛盾しない、優れた宇宙観であるからだと思います。論理も科学も、突きつめていくと、必ず未知・非論理の世界に到達する。
 Einstein の宇宙観は、科学的思考の果てに行きついたはずです。

 釈迦は長い瞑想のあと明けの明星の光が目に入って、その時に悟りを開いた(Wikipedia:金星)と言われている。
 アルキメデスのEureka!ニュートンのリンゴも同じような話だけれど、論理的思考や、瞑想をつくした後に、ふとしたきっかけで、無意識の中で、いままで関連していなかったものが一瞬にして繋がり、新しい知が生まれる。

A eureka effect (Greek: heurēka, "I have found") is any sudden unexpected discovery, or the sudden realization of the solution to a problem, resulting in a eureka moment (the moment of unexpected discovery).The eureka effect is also known as the aha phenomenon. (Wikipedia) 

 「方便」はそこに至らしめる手助けです。 
 道元は「ただ座れ」(只管打座)と言い、臨済禅は答えの出ない公案を与えて問答をする。禅に共通するのは、言葉、論理、「自己」という幻想を捨て去って、そこに、何が見えてくるかを問うことです。
 理屈と利己にまみれた現代社会を、人の住みやすい世界に戻すためには、東洋の知の方法をもっと活用するべきだと思います。

この世界は全て無限連鎖のCONNECTIVITY、NETWORKだと二千数百年も前に喝破した…それが釈迦です。

縁の行為のなかで最も根元的なのは人との出会いでありSEXです。携帯もインターネットも,さまざまな「縁」を作る道具に過ぎない。

 そう思えばすこし、フに落ちるかな。

<Chase>

 コラム#3758「米国・欧州・コーポラティズム(その1)」(未公開) で、コーポラティズムの連載をお始めということで大変期待しております。

 コーポラティズムという言葉は、一般の論壇誌を読んできた私として、看過していた用語で、最近まで知りませんでした。ところが、最近、数名の評論家の本でよく目にするようになり、正直驚いています。
 (そもそも今まで(ここ30年間ほど)日本でどれだけ、一般向けに使われていたか疑問です)。
 言葉を調べてみると、内容的にはよく見聞きするもので、いわゆるイデオロギーの類ほどの上位概念にも思えません。

(引用始め)
 コーポラティズム(corporatism)は、社会集団が領域ごとのヒエラルキーに組織され、政治システムに組み込まれていること。あるいは、そのような政治システムが望ましいとする政治思想のこと。
 政治システムとしてのコーポラティズムには、第二次世界大戦期の全体主義諸国や戦後の権威主義諸国による団体統制と、戦後の民主主義諸国における政府と利益集団のパートナーシップに基づく政策立案・政策運営・利害調整が見られる。特に両者を区別する場合には、前者を国家コーポラティズム(state corporatism)、後者をネオ・コーポラティズム(neo-corporatism)と呼称する。
(引用終わり)
http://politics.blogmura.com/tb_entry93866.htmlより引用

 太田さんの日本型経済体制論の骨格と理論的関係を何かいい得ることができるのか、気になるところです。
 太田さんのおまとめを期待しています。

<友人TKO>

 太田君、明けましておめでとう。
 いまスペインですこし道楽をしています。
 このコラム、大変な時間・労力を費やしているのが分ります。感謝。こちらは知的な情報がすくなく大変助かります。

 体に気をつけて、あまりつまらない議論を吹っかけてくるやからもいるから、気にせずに、いい年を迎えてください。

<太田>

 ご両名、激励、ありがとうございます。

<βθβθ>(「たった一人の反乱」より)

 <コラム#3757での議論に関連し、>原爆をアバターレベルの3Dで表現できれば、内容なんて全くなくても原爆の悲惨さは伝わるだろうな。

キャメロンにはアメリカが原爆投下に心を痛めていたとか、原爆投下は早期戦争終結のために必要だったとか下らない自己弁護的ドラマをつくるんだろうけど、本気で原爆投下を描くなら物語を作らず、アバターを超える映像だけの映画を目指して欲しい。

<ββθθ>(同上)

 キャメロンっていままでそんなアメリカ擁護バリバリの映画作ったことあったっけ?

<βθθβ>(同上)

 アメリカでヒットさせるのに、アメリカの原爆は悪だって描けないだろ。
http://www.unkar.org/read/tsushima.2ch.net/news/1249483974

 世論の六割を敵に回して商業が成り立たない。最近のハリウッドはマーケティングと、テスト上映時の観客の反応で作品の内容を監督の意図を無視してでも変更させるからな。

<ΙΙΒΒ>(同上)

 微妙じゃね?↓

 「年齢別に見ると「正しかった」は55歳以上が73%だったが、35〜54歳が60%、18〜34歳が50%と、年齢が下がるほど原爆投下への支持は低下。」(上掲)

<太田>

 スレートなんていうワシントンポスト系の米リベラル媒体に載る映画評者は「大罪」たる原爆投下をキャメロンがそういうものとして描いてくれることを期待してるみたい↓だけど、『アバター』同様、「白人酋長もの」(コラム#3748)ないし「白人救世主(White Messiah)もの」 (コラム#3757)の二番煎じになることが、恐らく避けがたいだろうね。(私の『アバター」評(コラム#3748(未公開))も参照のこと。)

 Can't Wait Until James Cameron Nukes Japan・・・
 Let's all get together again someday? Perhaps to chat about James Cameron's apparently upcoming 3-D extravaganza on the nuking of Japan. Talk about history's great moral enormities(大罪)! I'll just be over here, ducking and covering under my desk.
http://www.slate.com/id/2240458/entry/2240938/

<ΙΒΙΒ>(同上)

≫世界中でイギリス人以外には書けないでしょう≪(コラム#3757。太田)

 これ書いてる人、オランダ人じゃん。
 後、禅とかポール・シュレイダーの小津の見方とかは、日本では「監督 小津安二郎」という本を筆頭に80年代に批判されてすでに乗り換えられてる。
 他も小津ファンには今頃何言ってんだ?ぐらいのコラム気がするんだけど・・・。

<太田>

 イアン・ブルマ(Ian Buruma)は、ガーディアンへの定期寄稿者だし、私はてっきりイギリス人だと思ってたな。
 もっとも、国籍こそ確かにオランダだけど、彼は、母親がイギリス人だし、著作をすべて英語で書いているし、現在ニューヨークの大学の教授をしてる
http://en.wikipedia.org/wiki/Ian_Buruma
んだから、イギリス人、つまりアングロサクソンだと言ってもあながち間違いじゃないじゃないかな。
 私は、何度もアングロサクソンというのは人種概念ではなく、文明概念だと指摘してきたところだ。
 付言しておくが、欧州文明に属する国々(諸地域)の中で、イギリス(アングロサクソン)に最も親近感を抱き、イギリスの最大の理解者であるのがスコットランド人とオランダ人だ。
 ロイヤル・ダッチ・シェルという石油メジャーの存在が、イギリスとオランダの緊密な関係の象徴だ。
 ブルマがオランダ人だと知って、ヒュースケン(コラム#3)のことを思い出したよ。

<太田>

 それでは、その他の記事の紹介です。

 「自衛隊では、海外活動が定着し始めた一九九〇年代後半から自殺者が急増。九五年度は四十四人だった自衛官の自殺者は、二〇〇四年度には九十四人へ倍増。〇八年度も七十六人と、一般の国家公務員に比べて自殺率は倍以上となっている。・・・
 海外活動など重い任務が増え、負担の増している自衛官の悩み・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2010011002000072.html?ref=rank
 この「分析」ひどいね。
 話はその真逆だろが。
 肉体的にはともかく、精神的にはヒマでヒマで弛緩しきっているからこそ、自衛官の自殺が多いのさ。

 フランスの例だけど、こんなデータがあるよ。
 戦争の時は、国民一般、就中女性の自殺率が低下するんよ。↓

 An analysis of suicide rates in France from 1826 to 1913 indicated that suicide rates were lower during years of war than during years of peace. This effect was stronger for female suicide rates than for male suicide rates and seemed to hold both for major and minor wars.・・・
http://www.springerlink.com/content/p3077236r37302m7/

 日本の植民地近代化政策が見事に成功し、朝鮮半島の人々も日本帝国臣民意識を日本本土の人々と共有し始めていたことが改めて分かるね。↓

 「1999年に発行された『ソウルにダンスホールを』(金振松〈キム・ジンソン〉著)は、植民地時代のソウルの都市文化に焦点を当てることで、収奪と抵抗の固定観念にとらわれていた歴史学界に挑戦状をたたき付けた。続いて『モダンボーイ京城を闊歩(かっぽ)す』(申明直〈シン・ミョンジク〉著)や『京城自殺クラブ』(チョン・ボングァン著)など、国文学界を中心に続出した近代の研究は、おしゃれな洋服姿でデパートやカフェに現れた「モダンボーイ」や「モダンガール」を、20年代に始まった都市文化の消費者として理解した。・・・
 淑明女子大日本学科シン・ハギョン教授・・・は「20年代のソウルは、日本の留学生らとの交流や新聞・雑誌といったメディアの影響で、日本とほとんど同じ流行をたどっていた」と話す。・・・」
http://www.chosunonline.com/news/20100110000004

 この話、何かおかしいと思うな。
 金属加工業界に詳しい読者のコメントを求む。↓
http://j.peopledaily.com.cn/94473/6858428.html

 抗鬱剤は重篤な鬱病患者にしか効かないって話、米国で大きな反響を呼んでるよ。↓

 ・・・The trouble is not that the drugs don’t work; it’s that the care is not very good.
 Inadequate treatment by nonspecialists is only a piece of the problem. In fact, most Americans with depression, rather than being overmedicated, are undertreated or not treated at all.・・・
 ・・・people with real illnesses lacking access to care; facing barriers like ignorance, stigma and high prices; or finding care that is ineffective.・・・
http://www.nytimes.com/2010/01/09/opinion/09warner.html?ref=opinion&pagewanted=print

 同様の趣旨の記事がスレート系、つまりはワシントンポスト系の電子雑誌にも載ってました。↓
http://www.doublex.com/print/12135

 これにからんでもっと大きな話があります。
 それは、世界の精神病の類型化、及びその治療方法について、米国の考え方がグローバルスタンダードになったことが、米国を含む、世界中に問題を生んでいるというオハナシ。
 本日の非公開コラムで取り上げることにしたよ。

 とにかく、メタボは良くないってさ。↓

 ・・・being overweight, even if you have sterling blood-cholesterol levels or a firm commitment to exercise, does increase your risk of heart disease, and you should probably try to lose the extra pounds. ・・・
http://well.blogs.nytimes.com/2010/01/06/phys-ed-can-you-be-overweight-and-still-be-healthy/?pagemode=print

 米国の雇用状況は、戦後最悪だってよ。↓

 ・・・the number of people out of work for 27 weeks or more hit 6.1 million Americans, or 40 percent of all 15.3 million jobless. This is the most since 1948, when the data was first recorded, according to the Department of Labor. On average, it now takes 20.5 weeks to find a new job ? double the amount of time in the 1982-83 recession.・・・
http://www.csmonitor.com/USA/2010/0108/Number-of-long-term-unemployed-hits-highest-rate-since-1948

 米国の高齢者が英国や西欧諸国の高齢者に比べていかに不幸な最期を迎えているか、糾弾するコラムです。↓

 ・・・As seniors, each woman's quality of life was shaped by her government's health-care policies. The services offered to older people in Britain and France seem, to this American observer, straightforward, logical and humane. These countries provide the basic help their elders need to remain in their homes and in their communities, close to family and friends. It upsets me to think how much more peacefully my mother's life might have ended had she had the support available to older people in Britain and France. Why should Mum and Maman be able to grow old at home, but not Mom? ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/01/08/AR2010010803586_pf.html

 民主党の重鎮からも、次々に、オバマは黒人中の例外めいた発言が飛び出しています。↓

 ・・・Senator Harry Reid, the Democratic majority leader, apologized on Saturday for once predicting that Barack Obama could become the country’s first black president because he was “light-skinned” and had “no Negro dialect, unless he wanted to have one.”・・・
 Two years ago, then-Senator Joseph R. Biden Jr. of Delaware told the New York Observer that Mr. Obama was “the first mainstream African-American who is articulate and bright and clean and a nice-looking guy.” ・・・
http://www.nytimes.com/2010/01/10/us/politics/10reidweb.html?hp=&pagewanted=print

 その背景には、米国が、依然として黒人差別問題を克服していないという事実があります。
 黒人差別意識のある人でオバマに投票した人は少ないというのだけど、私に言わせれば、黒人差別意識のある人でオバマに投票した人が結構いたからこそオバマは大統領に当選したのです。
 というか、私の映画『2012』評(コラム#3740、3742、3744、3746。いずれも未公開)をお読みいただきたいが、黒人らしからぬオバマを大統領に当選させることで、それまで自分達が犯してきた黒人差別という罪を贖える、と、多かれ少なかれキリスト教原理主義に毒されている広汎な米国人が思ったからこそ、オバマが当選したのです。↓

 ・・・Back in September, after raucous・・・protests over the president's health-care reform plans, Jimmy Carter declared that "an overwhelming portion" of such animosity toward President Obama was "based on the fact that he is a black man." ・・・
 They found that individuals displaying above-average levels of racial prejudice on this task were 42.5 percent less likely to have voted for Obama than those with average scores.
 The researchers also found a negative correlation between racial prejudice and support for Obama's health-care reform effort.・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/12/11/AR2009121102711_pf.html

 今や、米政界でも中共サマはもてもてのようだね。↓

 ・・・A decade ago, U.S. politicians of all stripes routinely subjected China to attacks. Now acts of benevolence are more likely -- such as a resolution commemorating the 2,560th birthday of Chinese philosopher Confucius, which the House overwhelmingly approved in October. ・・・
 A few years ago, China-bashing was costless. Now they will get phone calls from worried CEOs. China is creating jobs in their congressional districts.・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/01/08/AR2010010803710_pf.html
 
 欧米の芸術家達が「機会」と「革新」の国、中共に群れ集っているとよ。↓

 ・・・many artists (five are profiled here) who have left the United States and Europe for China・・・They have discovered a land of vast creative possibility, where scale is virtually limitless and costs are comically low. They can rent airy studios, hire assistants, experiment in costly mediums like bronze and fiberglass.
“Today China has become one of the most important places to create and invent,” said Jérôme Sans, director of the Ullens Center for Contemporary Art in Beijing. “A lot of Western artists are coming here to live the dynamism and make especially crazy work they could never do anywhere else in the world.”・・・
http://www.nytimes.com/2010/01/10/arts/design/10expatsweb.html?ref=world&pagewanted=print 

 この中共↑を自由民主主義支那に体制変革させることができるのは、世界中でもはや「独立」後の日本だけかもね。
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 ベートーベンは、あの第九(合唱付)(1824年)の最終楽章で、合唱とともに行われるテノールの独唱の際に、オケにトルコ風音楽を奏でさせています。

 では、カラヤンが指揮するベルリン・フィルで該当箇所をどうぞ↓。3:45〜5:14
http://www.youtube.com/watch?v=lsFvnL7e1cE&feature=related

 現代トルコの音楽を一つくらいは聴かせろ?

 私の結論は、聴くに値するのは、その国歌のみである、というものです。

 トルコ共和国国歌「独立行進曲」、いい曲じゃないですか。↓
http://www.youtube.com/watch?v=HEbJSfR0Mys&feature=related
 同じ曲で、音質は良くないけれど、歌詞の日本語訳が出てます。↓
http://www.youtube.com/watch?v=wF-JHVM4bv4&feature=related

(続く)
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<globalyst:翻訳>

コラム#3757より
 シーシェパードの高速艇と捕鯨船との衝突事件、遅きに失したきらいがあるけど、前者に明確に非があるという記事が米国で出ました。↓

 ・・・私にEメールしてくれた経験豊かな船員および船長らの一致した意見によれば、海では、衝突を回避するためにあらゆる予防措置をとることは全ての船舶に課せられた義務であり、従って、距離をとる義務が一定程度あり、また、Gilのような、より小型で機動性のあるボートは、急旋回できるので、一般的に衝突を回避すべきより大きな責任を負っているとのことである。・・・
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太田述正コラム#3760(2010.1.10)
<精神疾患と人間主義(その1)>

→非公開