太田述正コラム#3305(2009.5.30)
<芸術論(その1)>(2009.10.8公開)

1 始めに

 このところ、このコラムで、音楽、美術、演劇・映画、文学をとりあげることが多くなっていますが、こういった一連の芸術とは、一体何なのでしょうか。
 文科系の学問は、社会科学と人文科学(humanities)から成っており、芸術に係る学問は人文科学の一環として昔から存在します
 しかし、残念ながら、芸術に係る学問は遅れています。
 分かっていないことだらけなのです。
 現在、芸術の解明を目指して様々な取り組みがなされていますが、その中から、デニス・ダットン(Denis Dutton)の 'The Art Instinct: Beauty, Pleasure, and Human Evolution' をご紹介したいと思います。
 例によって書評を活用しました。
 ちなみに、ダットンは、カリフォルニア出身で、ニュージーランドのクライストチャーチにあるカンタベリー大学の哲学の教授です。 

2 芸術論 

 「ダットンは、・・・フィクション・・・、音楽、舞踊、及び視覚芸術(natural selection)を自然淘汰というより性的(sexual)観点からとらえる。
 自然淘汰にあっては、環境がいかなる生物が生殖するまでの間生き延びることができるかを決定する。
 一方、性的淘汰にあっては、生物自身が・・大部分の場合はその種における雌が・・誰と生殖するかを決定する。
 性的淘汰は、ダーウィンが提示した、雄の孔雀の尾・・余計で適応阻害的とさえ見える解剖学的特徴・・といった悩ましい現象への解答だった。
 ダーウィンの思考過程は次のようなものだった。
 雄の孔雀が大きな尾を持っているのは、雌の孔雀がそれが好きだからだ。なぜ好きかと言うと、それが手頃な「健康状態のテスト」になっているからだ。健康な尾は、健康な雄の孔雀・・子孫に良い遺伝子を引き継ぐであろう雄の孔雀・・を意味する。
 ダットンに言わせると、これが最初に音楽、絵画や舞踊が生まれた理由なのだ。
 すなわち、それらは、女性に対し、健康状態を見せびらかして求愛するために生まれたのだ。
 このことは、大衆歌謡において、愛をテーマにしたものが圧倒的に多いことから、現在においてもあてはまることが分かる、とダットンは言う。」
http://www.thenation.com/doc/20090608/deresiewicz/print 
(5月30日アクセス。以下同じ)

 「<つまり、>ダットンのねらいは、芸術が、故ジェイ・グールド(Jay Gould)等が主張したような、適応における副産物、つまり、我々の肥大した脳による不必要な活動、などではないことを示すところにある。・・・
 ダットンは、芸術は、他の適応(adaptation)同様、我々の祖先に生存と生殖に関し優位を与えたと述べる。
 生存上の優位として、彼は、物語ることが情報を伝達すると同時に我々の人間行動に関する感覚を拡大すると記す。
 フィクションは、・・・「感情生活のための精神的地図」を提供してくれる、とダットンは言うのだ。
 「<フィクションを>読むことは、現実世界からの私的逃避ないし引きこもりであると見られてしまう場合があるが、良い作品は、実際の経験に比べて、より広く、かつより深く世界理解を拡大してくれる」と。
 しかし、芸術は常に智慧の貯水池以上のものだ。
 生存<のため>というのは不適切な説明だ。というのは、やっかいな雄の孔雀の尾のように、芸術は常に、余りに非効率的でかつ無駄がある<営みだ>からだ。
 すなわち、「芸術は脳の力、肉体的努力、時間、そして貴重な資源を浪費する。
 他方、自然淘汰は、経済的で質素(abstemious)だ。」
 フロイド同様、ダーウィンは、我々が何を行うかを説明するにあたって、性が中心的位置を与えられなければならないと考えた。
 我々の大部分は、ダーウィン主義は完全にランダムで無目的なもの・・「獣的な物理的生存<至上主義>」である・・と考えるよう教えられたため、ダットンが、彼の言う「自己飼い慣らし(self-domestication)」<なる観念>を導入したことは衝撃的だ。
 それは、「他の動物についてはいざ知らず、人類について言えば、性的淘汰<なる観念>は、進化的目的論(evolutionary teleology)の再生・・意図的な知的設計(design)の進化過程への再導入・・を意味するからだ。
 ただし、その設計者は、神ではなく個々の人間それ自身なのだ。
 芸術は、この過程に係る適応なのだ。なぜなら、芸術は、我々の健康状態、つまり、我々の番(つが)うことに係る適格性を示すものだからだ。・・・」
http://blogs.newsobserver.com/bookclub/book-review-the-art-instinct-by-denis-dutton

(続く)