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太田述正コラム#3473(2009.8.20)
<映画:ナイトミュージアム2(その1)>(2009.9.19公開)

1 始めに

 昨日、映画「ハリー・ポッターと謎のプリンス(Harry Potter and the Half-blood Prince)」と「ナイトミュージアム2(Night at the Museum 2)」を鑑賞してきました。
 某シネコン・チェーンの回数券の有効期限が迫ってきたため、どちらかと言えばお子様向けの映画が多い8月のこの時期に、行く羽目に陥りました。
 ウチから遠いので、行くとなると2本続けてみなきゃ損をした気分になってしまう。
 そうすると、組み合わせで見ることができる映画は限られてきます。
 その結果が上記のような組み合わせになったわけです。
 一言で感想を言えば、恐らくは原作(6作目)のせいなのでしょうが、ハリー・ポッターの方は上映時間が長く、相当肩に力が入った作品だけど駄作、ナイトミュージアムの方は、荒唐無稽なハチャメチャ喜劇だけど、予想を覆してとっても面白かった、といったところでしょうか。
 では、どうしてナイトミュージアムが面白かったのか、ご説明することにしましょう。

2 ナイトミュージアム2の面白さ

 この映画の面白さは、前作のヒットに気をよくして、柳の下のドジョウをとよりスケールの大きな物語を自由に創作した、カナダ生まれでエール大学演劇学卒の製作・監督のショーン・レヴィ(Shawn Levi)らが選んだ、この映画に登場する悪玉と善玉を通して、米国人一般の善玉・悪玉イメージが分かるところにあります。

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≪悪玉≫

 ・カームンラー(Kahmunrah):古代エジプトの架空のファラオ(Pharaoh)

 ・フンのアッチラ王(Attila the Hun。406〜453年):ドイツからウラル川、ドナウ川からバルト地方までの大帝国を築き上げた、東方遊牧民集団の長。

 ・ロシアのイワン雷帝(Ivan the Terrible=Ivan 4 Vasilyevich。1530〜84年):モスクワ大公だったが1547年にロシア初代皇帝に就任。粛清、恐怖政治で知られ、「グローズヌイ」という渾名がつけられている。「<グローズヌイの>元となった名詞に「雷雨」ないし「ひどく厳格な人」という意味の「グロザー」・・・があり、この単語との連関から畏怖を込めて「雷帝」と和訳された。英語ではIvan the Terribleと呼ばれ、「恐ろしいイヴァン」と訳される場合「畏怖すべき威厳のあるさま」を表している原語のニュアンスを損なっている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B34%E4%B8%96

 ・ナポレオン(Napoleon Bonaparte。1769〜1821年):British propaganda depicted Napoleon as much smaller than average height and this image persists. Confusion about his height also results from the difference between the French pouce and British inch--2.71 and 2.54 cm respectively; he was 1.7 metres (5 ft 7 in) tall, average height for the period.
http://en.wikipedia.org/wiki/Napoleon_I_of_France#Image

 ・アル・カポネ(Alphonse Gabriel "Al" Capone。1899〜1947年)

≪善玉≫

 ・ガイウス・オクタヴィウス(Gaius Octavius Thurinus。BC63〜AD14年):ローマの初代皇帝アウグスタス(Gaius Julius Caesar Augustus )。

 ・サカジャウィア(Sacajawea。1788?〜1812年):西部開拓時代に探検家のガイド兼通訳を務めたインディアン女性。後に米国の女性参政権運動のシンボルに祭り上げられた。

 ・ジェデダイア・スミス(Jedediah Smith。1799〜1831年):西部の探検家。

 ・エイブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln。1809〜65年):第16代米大統領。

 ・ジョージ・カスター(George Armstrong Custer。1839〜76年):騎兵隊指揮官。インディアンとのリットル・ビッグホーンの戦いで戦死。

 ・セオドア・ローズベルト(Theodore Roosevelt。1858〜1919年):第26代米大統領。

 ・アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein。1879〜1955年)

 ・アメリア・イアハート(Amelia Earhart。1897〜1937年):1932年に女性としては初めて大西洋横断を成し遂げ、35年にはハワイからカリフォルニアへの単独飛行にも成功、1937年5月には世界一周飛行に挑戦するが、7月に南太平洋で消息不明となった。

 (以上、特に断っていない限り、この映画のパンフレットと人物に係る英語ウィキに拠る。また、典拠付で説明した部分は、この映画の中で笑いをさそう挿話として活かされている。)
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 ではまず悪玉から。

 実在したファラオを登場させていないのは、ヘロドトスが悪口を書いたところの、あのギザの一番有名なピラミッドを建造したクフ(Khufu。在位:BC2589〜2566年)王にしても、旧約聖書の脱エジプト記が悪口を書いたラムセス2世(Rameses 2。在位:BC1279〜1213年)にしても、それを裏付ける証拠がなく、また、それまでの多神教を否定して一神教を強い、強制的に都を移したイクナトン(Akhenaton。在位:BC1353〜1336 BC、またはBC1351〜1334年)王・・王妃が古代エジプト一の美人のネフェルティティ(Nefertiti)・・は絶不人気だったと思われるが、悪玉と言えるかどうかは微妙
http://answers.yahoo.com/question/index?qid=20090426133306AAKzU95
だからでしょう。
 では、この映画の製作者は、何のためにわざわざ架空のファラオを悪玉、しかも(ネタバレだけど)悪玉達の総帥として登場させたのでしょうか。
 それは、イスラム教成立後のカリフやスルタン等の替え玉としてでしょう。
 実在の人物であれ、架空の人物であれ、カリフやスルタン等を悪玉、しかも悪玉の総帥として登場させたら、イスラム世界からどんな反発を食らうか分かったもんじゃありませんからね。
 要するに、キリスト教原理主義者にとっての愛玩対象であるイスラエルに肩入れしていて、かつ対アルカーイダ系テロ戦争を戦っている(戦わされている?)米国の大衆にとって、中近東・北アフリカは悪玉の巣窟ってイメージらしいってことです。

 アッチラが登場するのは、どうやら黄禍論を米国の大衆はまだ引きずっているらしくて、彼等にとって、黄色人種は、今なお潜在意識の中では恐れと侮蔑の対象であるらしいってことが推測できます。

 イワン雷帝が登場するのは、言うまでもなく、冷戦時代に米国と二大超大国の一方として対峙し、文字通り悪役を演じたロシア(ソ連)のスターリン等の原型ないしは替え玉としてです。

 ナポレオンについては、この映画の製作・監督がカナダ人であって、そのカナダはケベック分離問題を抱えているというのに、よくもまあ悪玉として登場させたものです。
 しかも、念が入ったことに、フランス人俳優をその役に起用し、ナポレオンの身長が低いことへのコンプレックス等を徹底的にコケにしています。
 これは、私に言わせれば、米国の大衆も、米国のエリートが抱いている密かな欧州蔑視意識の影響を受けていて、製作者はそこにつけ入りたかった、ということなのでしょう。

 最後に、唯一、悪玉として登場する米国人がアル・カポネです。
 いくら何でも、悪玉が外国人だけじゃ、ポリティカル・コレクトネスの観点からマズイって思ったんでしょうね。
 しかし、イタリア移民の子であるマフィアの親分じゃ、欧州蔑視意識が透けて見えるだけでなく、既にご紹介した他の悪玉に比べて小物過ぎる感は否めません。
 要するに、米国の大衆が抱いている米国の例外性、至上性の観念を傷つけないように、注意を払いつつ、この映画は製作されているってことです。

(続く)

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