太田述正コラム#3413(2009.7.23)
<米国における最新の対外政策論(その6)>(2009.8.23公開)

 「グレイダーは、全球化(globalization)は米国の平均的就業者にとっては明白に悪であると主張するとともに、もはや米国は海外における軍事的コミットメントなどという贅沢は許されないと主張する。
 拡張主義的な(expansive)米国の外交政策は、米国の産業界や石油企業を満足させるけれど、ただただ外国の人々を米国に敵対させてしまう。
 グレイダーの米国に与える処方箋は単純明快だ。
 「世界を取り仕切ろうとする代わりに、我々自身の傷ついた社会の手入れをしよう。全球的支配などという膨れあがった妄想などは忘れよう」と。
 彼の米国文化に係るビジョンは、ヴォルテールの「我々の庭の手入れをしよう(cultiver notre jardin)」というお達しを奇妙なほど思い起こさせる。
 グレイダーは、彼の同僚たる市民達に、「世界支配の重荷から解放さえすれば、我々は、我我自身が我々の国の内的風景を自由に再開発することができることを発見するだろう」と告げる。
 グレイダーのこの本のタイトルである、『米国よ家に戻っておいで』は、1972年の米大統領選におけるジョージ・マクガバン(George McGovern)<民主党候補>の選挙運動の際にマクガバンが広めたスローガンの一つだ。
 <この選挙で>マクガバンが惨憺たる敗北を喫したという事実は、米国では孤立主義は運動としては未来がほとんどないことを示唆しているのかもしれない。
 <もっとも、>このような判断は楽観的すぎることを示唆するような世論調査結果をグレイダーは引用する。
 2005年のピュー・研究センターの調査によれば、米国人の約84%が「米国の就業者達の職を守ること」が政府にとって最優先課題にならなければならないと答えた。
 しかし、米国の「影響力ある人々」たるジャーナリスト、学者等は全くそうは考えていない。
 エリートと一般世論との間には、この他の議論の多いところの、不法移民といった諸問題に関して同じような乖離が見られる。
 ポピュリストの政治家達がこの乖離につけこむ余地は、特にひどい不況の時代においては十分すぎるくらいある。・・・」
http://www.ft.com/cms/s/2/3223a57e-7261-11de-ba94-00144feabdc0.html 前掲

 次は、対談におけるグレイダーの言を拾ってみましょう。

 「・・・他の大部分の先進国とは違って、30年間にわたって米国政府は、「米国の多国籍企業にとって良いことは回り回って米国のあらゆる国民にとって良いことだ。よって、これらの企業を前進させることは我々の国益に合致する」と言い続けてきたわけだが、一体こんな米国は今後どうなるのだろう。
 オバマは異なった分析を我々に提示している。
 すなわち、オバマは、「ちょっと待て。こいつら<多国籍企業の連中>は、全然税金を払っていないじゃないか。<しかも、>連中は職を海外に移している。こんなこと、米国人達にとって何かいいことがあるのか」と述べている。・・・
 オバマの目論見は、繰り延べ(deferral)として知られている措置、すなわち、企業が収入を米国外にとどめおいて無期限に税金を免れること、を減少させようというものだ。
 オバマ政権は、国際子会社を用いて、オフショアのタックス・ヘイヴンに資金を付け替えて不当に外国で税金の減免措置を受けようとする企業に対して新たな種々の規制を課そうとしている。・・・
 これは、他のどの大統領も始める勇気がなかったところの、本当に大きな議論の始まりであり、単なる始まりに過ぎない。・・・
 
 ・・・私は民主党支持者で、オバマに投票したが、彼のこういった価値観を私は彼とおおむね共有している。・・・
 ・・・米軍は、米国民の平和と安全にとって最大の脅威だ・・・<米国の>「国家防衛戦略」<なるものは、・・・>部隊、武器、諜報員、特殊部隊員、その他をできる限り遠方に展開するというものだ。
 そしてこれらでもって、敵対的とみなされるところの、中共を始めとして、ロシアを含む後多数の諸国を包囲する。  
 その上で、これらの国々に特殊部隊等を送り込み、さしあたり、・・・危険な聖戦主義者達といった名称をつけた人々を殺害しようとする。・・・
 <しかし、>既に冷戦は終わっている。
 15年前に我々がこのような<前方>展開をしなければならかった古びた理由のすべてはもう雲散霧消しているというのに、いまだに上記の人々は前進を続けている。・・・
 オバマ大統領は、彼の修辞的立ち位置でもって<、こういうことについても、>ほんの少しドアを開けつつあると私が思っている、ということを付け加えておきたい。
 彼は、こういった代物のうちの幾ばくかから逃れようと望んでいるのだ。
 残念ながら、現実を直視すれば、彼が必ずしも<外国から>撤退しつつあるわけではないことが分かる。
 <すなわち、>アフガニスタンでは、我々は正反対のことが起こっていることを知っている。パキスタンにおいてもそうだ。
 アフリカについても一言。・・・
 <ブッシュ政権が>アフリカ軍(AFRICOM)<をつくったことについてだ。>
 中共は資本を、米国は特殊部隊を<アフリカに送り込む、というわけだ。>・・・
http://www.democracynow.org/2009/5/5/william_greider_come_home_america_the (対談)
(7月22日アクセス。以下同じ)

 最後に、もう一度書評から。

 「・・・<グレイダーは、>米国の防衛支出を米国に次ぐ軍事諸大国10カ国の合計防衛支出相当額まで減少させよと主張する。これは、米国防省の予算を約1,800億ドル削ることを意味する。・・・
 <これは言うは易くして行うは難しだ。>
 <また、>世界的不況という文脈の下では、嗚呼、グレイダーの<国際経済政策における>諸提案<もまた>機能し難いものがある。・・・
 WTO憲章下で認められているところの、一般緊急関税をかけることで米国の貿易赤字を減少させると言っても、そんなことをすれば、破滅的な関税戦争を引き起こすであろうことは必至だ。
 <また、>法人税を、「公共財を増進する<ことに資する>諸基準」の遵守度、及び/または、どれだけの「付加価値(value added)生産が国内にとどまりどれだけが海外に移転したか」にリンクさせると言っても、どうやってこれを実施するかは困難だろうし、そもそも自分達の諸産業部門を守ろうとする諸外国から報復を受ける可能性もある。・・・」
http://weblogs.baltimoresun.com/entertainment/books/blog/2009/03/review_come_home_america_by_wi.html

3 終わりに

 グレイダーはあえて過激な政策提案をしているように私は思います。
 国防政策に係る彼の提案については、最終的には、米国が国防費を減少させ、それに見合う額ないしその一部を、米国以外の自由民主主義諸国に肩代わりさせることを彼は狙っていると受け止めることもできますし、国際経済政策に係る彼の提案については、機能し難い提案であることは百も承知の上で、米国民の間であえて議論を巻き起こし、最終的には米国民に自ら過剰消費、過小貯蓄体質を是正させることを狙っていると受け止めることもできます。
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 全体を通じての感想ですが、覇権国だから当然ではあるものの、外交・安全保障政策のあるべき姿について、このような形で活発な議論が行われている米国は、やはりすごいなと思います。
 この米国の属国たる日本が、米国からの「独立」を果たすためにも、そろそろ日本の外交・安全保障政策のあるべき姿について、議論が開始されなければなりません。
 そのための参考に、この長文のコラムが少しでもなれば、うれしいのですが・・。

(完)