太田述正コラム#3407(2009.7.20)
<米国における最新の対外政策論(その3)>(2009.8.20公開)

 「・・・<この本は、実のところ、三つの異なった本からできていると言ってよい。>
 ・・・タルボットの第一の本は、普遍的国家の観念・・国民国家間の積年の敵意を平和的協力によって置き換える夢・・に関する歴史が扱われている。
 ダンテ(Dante< Alighieri。1265〜1321年>)やカント(<Immanuel >Kant<。1724〜1804年>)の著作に思いを巡らしつつ、かつウッドロー・ウィルソンとその国連への支持を勝ち取るための努力の歴史を叙述しつつ、この本は、世界政府というものは、ユートピア的観念であるというのに、予見的頭脳を持った人々を惹き付ける力を失ったことがないことを思い起こさせてくれる。
 チェイニー<前米副大統領>主義に代わるべきものはあるのであって、タルボットがそのことに固執するのは正しい。・・・

 <タルボットの>第二の本は、・・・個人的回顧録だ。・・・
 <例えば、>タルボットの妻のブルーク(Brooke)は、ヒラリーの夫が勝利した1992年の大統領選挙の時、ヒラリー・クリントンのスタッフとして働いたが、タルボットは、元ソ連であったところの新しく独立した諸国に係る大使兼国務長官特別顧問に任じられた。<といったことが記されているわけだ。>・・・

 タルボットの第三の本・・・では、暗黙裏に、<ホッチキス校からエール大学へというタルボットもその一員であるところの、>白人のアングロサクソンにしてプロテスタント(=WASP)たるエリート達が今米国では目立たなくなってしまっている、ということが記されている。・・・ 
 WASPのエリート達が没落したことで米国が失ったものの大きさはどれだけ誇張しても誇張しきれない。
 タルボットが記すように、彼のような一族は、彼等の環境<たる米国>を守る責務を担ってきた。
 彼等は、極端な党派性の悪影響を緩和するところの、共通の善なる観念を信じていた。
 彼等の忠告を歴代の大統領は求めてきた。・・・
 WASPのエリート達は、常に慎重なエリート達だった。彼等は、紳士的規範たる尊敬の念と慇懃さを忘れることがなかったのだ。
 しかし、このような慎重さは米国にとって必ずしも良いことではなかった。
 ・・・仮にタルボットが、ソ連は本当は脆弱な国家であるとの彼の所見を公にしていたならば、彼はネオコンの大義に強烈な打撃を与えていたかもしれない。
 <また、彼は、ブッシュ政権の対イラク政策についても公然たる批判を避けた。>
 結局、タルボットは、いわゆるワシントン・コンセンサスを尊重しすぎて、それに対する劇的な対応を避けたわけだ。その結果我々全員がそのコストを支払わされる羽目になった。・・・」
http://www.boston.com/ae/books/articles/2008/01/13/peace_and_power?mode=PF

 比較的最近までの米国の歴史は、WASP・・私に言わせれば、キリスト教原理主義的アングロサクソン・・と根っからのキリスト教原理主義者たるスコッチ・アイリッシュ(Scots-Irish)のせめぎあいの歴史であったわけです(コラム#624、625)が、彼等の人口が相対的に減ったことで、現在の米国では、この両方、とりわけWASPの存在感が希薄になってきた、ということなのでしょう。

 「・・・まだタイム誌のジャーナリストであった1992年、タルボットは「全球的国家の誕生」と題する論考を書いた。
 その中で、彼は、「次の100年以内に、…我々の知っているような国のかたちは姿を消し、全ての国が単一の、全球的な当局を承認していることだろう」と記している。・・・
 ・・・<彼は、>地球温暖化、全球的経済危機、そして核拡散は、「今日まで世界が達成したものよりはるかに徹底した多国間主義」の必要性を強めた<と言う。>・・・
 米国は、国際刑事裁判所を拒み地球温暖化に関する京都条約への調印を拒んだが、タルボットの理想的世界においては、これら<に加入することなど、>出発点に過ぎないのだ。
 彼は、国連に、ジェノサイドや民族浄化を防止するとともに、危険な諸体制を転覆させるためにすら用いられるところの、常備軍を備えさせることが必要であると固く信じている。・・・
 また、ワシントン界隈の意見の大勢はEUを茶番だと片付けてしまっているが、タルボットは、EU<の存在>は、<自分達を>鼓舞させてくれるものである、と感じている。・・・
 オバマ大統領は、孤立主義とネオコン主義のどちらをも否定し、「我々にとっては、世界から退<いて内に閉じこもる>ことも、世界を脅かして従わせようとすることも間違いだ」と主張した。
 大統領としての任期の最初の数ヶ月、彼は、タルボットとゲルブの世界観の中間に自らを置いているように見える。
 この新しい大統領の(米国以外の)世界と「再び関わる(re-engage)」ことへの決意、彼の国連とEUといった多国間の様々な機関を注意深く活用しようとする姿勢、彼の地球温暖化問題の重視と彼のイスラム世界への求愛、のすべては、彼がタルボットの心を旨とする国際主義者であることを示唆している。
 他方、時々、オバマは「リアリスト」的な楽音を奏でることがある。
 例えば、中共と米国との関係において人権問題を前面に出さないようにしたり、対アフガニスタン戦争は、究極的には、民主主義ないし人権のためというよりは米国の国家安全保障のためであることを強調したりする。・・・」(ファイナンシャルタイムス前掲)

 対外政策においても、私の立ち位置はオバマの立ち位置に近いな、と改めて感じます。

3 終わりに

 それでは、引き続き、オバマが否定した、世界を脅かして従わせようとするネオコン主義を提唱する本と世界から退いて内に閉じこもる孤立主義を提唱する本の紹介を引き続き行うことにしましょう。

(続く)