太田述正コラム#3028(2009.1.11)
<米国とは何か(英国版)>(2009.7.10公開)

1 始めに

 「米国とは何か」は、太田述正コラムが追求している主題テーマの一つですが、今、現在進行形で、英BBCラジオ(のラジオ4)で「米国:自由の帝国(America, Empire of Liberty)」と題する、米国史の番組が放送されています。
http://www.bbc.co.uk/programmes/b00djjr8/episodes/2008
 そして、『自由の帝国』という題名の本も上梓されました。
http://www.amazon.co.uk/America-Empire-Liberty-New-History/dp/1846140560
(1月11日アクセス。以下同じ)

 前者の企画・監修を行っている人物が、後者の本の著者でもあるデーヴィッド・レイノルズ(David Reynolds)というケンブリッジ大学の米国史の教授です。
 この番組及び本がどういう内容か、その感じをお伝えします。

3 番組
 
 「・・・<2008年>9月・・・から、ラジオ4は、近年で最も野心的な歴史番組を開始<した>。
 「米国:自由の帝国」<というシリーズ番組>は、米国の、紀元前12,000年における最初の人類の定住から始まって今日に至るまでの物語を伝える。それは毎回、三つの30分のエピソード、計90分からなる番組だ。・・・
 このシリーズの脚本家(writer)兼ナレーター(presenter)を務めるのはケンブリッジ大学の歴史学者であるデーヴィッド・レイノルズだ。・・・
 その第一部は、・・・1861年、すなわち、米南北戦争が始まった年までを扱う。・・・
 第二部は、・・・2009年の1月から放送されるが、1861年から第二次世界大戦までを扱う。
 最終の<第三>部は、引き続き2009年中に放送されるが、21世紀の今日までを扱う。・・・」
http://www.telegraph.co.uk/culture/tvandradio/3560363/America%2C-Empire-of-Liberty.html

 「・・・米国を歴史のない国と評する傾向がある。それは、欧州諸国に比べて米国が若い国だからだけではない。米国が自らを刷新(renew)することができる国でもあるからだ。
 しかし、レイノルズが執拗に示そうとしているのは、いかに米国の諸問題がその歴史に深く根ざすものであって、米国が同じ踊りを何度も何度も繰り返しているように見えるかだ。・・・
 <米国は、>自由の重要性についての内在的信条、及び統制と支配を目指す衝動、との間の緊張関係<の下にある。>・・・
 米国が、自由に身を捧げる国ではあるけれど、その経済的基礎は奴隷制に立脚している、というパラドックスは、奴隷を所有することに問題意識を持たなかったトーマス・ジェファーソンのような人間にとってさえ明白だった。そこである時、ジェファーソンは、この自由を愛する植民地に不名誉にも押しつけられた非人道的慣行をジョージ3世のせいにするという言い訳を行ったものだ。・・・」
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/tv/reviews/the-week-in-radio-why-ham-up-us-history-955391.html

2 本

 「・・・米国が偉大な「自由の帝国」であると思い描いたのはトーマス・ジェファーソン(Thomas Jefferson)だった。・・・
 デーヴィッド・レイノルズは、このジェファーソンの言葉を米国の物語の栄光(grandeur)とパラドックスを解き明かす鍵として用いる。
 彼は、どうして1776年の反帝国たる米国が史上最大の超大国となったのか、そしてどうして米国が、黒人奴隷労働とインディアンの追放(dispossession)の上に繁栄を築いたにもかかわらず、その規模において到底欧州がかなうべくもないところの、自由と機会を提供しえた国となったのかを検証する。
 彼は、帝国と自由との間の緊張関係がしばしば信仰(faith)によって解決されたこと、及び、福音派プロテスタンティズムが米国の建国以来、米国の政治に活力を与えるとともに、米国の正しさに対する思い込み(larger faith)が同国の拡大を危うくしてきたことについて説明する。・・・」
 (以上、アマゾン上掲による。)

 「・・・<この本の>題名には反映されていないが、「信仰」はレイノルズにとって米国の三つ目の特徴(quality)だ。・・・
 <米国は、>反帝国主義者達によってつくりあげられた帝国であり、奴隷制に立脚した自由の地であり、かつ、神的大志によって活力を与えられた(energized)世俗国家なのだ。・・・
 大抵の人はウッドロー・ウィルソン(Woodrow Wilson)が「世界を民主主義にとって安全にする」という呼びかけを行ったことを覚えているだろう。
 この呼びかけに次いで、彼は、第一次世界大戦後の世界の秩序を再形成するための14ヶ条(14 -points)の提案を行った。
 これに対し、時のフランスの大統領のジョルジュ・クレマンソー(Georges Clemenceau)は、しかつめ笑いをして、「神は我々に<モーゼの>十戒を与えたが、我々はそれを守らなかった。ウィルソンは我々に14ヶ条を与えた。さあどうなるかね」と評釈をしたものだ。
 一つには彼がその後すぐ殺されてしまったため、そしてもう一つには自分の生活様式を他の人々に倦まず弛まず普及させて行くという我々<米国人>のイメージに符合しないため、今ではほとんど覚えている人がいないところの、ジョン・F・ケネディ(John F Kennedy)が1963年にアメリカン大学で行った講演がある。・・・
 ソ連を念頭に置いて、ケネディは、「仮に我々がその違いを克服できないとしても、少なくとも我々は、多様性の観点から世界をより安全な場所にすることに寄与することはできる。というのは、何だかんだ言っても、我々がみんなこの小さい惑星に住んでいるという、我々にとって最も基本的な共通の絆が存在するからだ。我々はみんな同じ空気を呼吸しているし、我々は子供達の将来に希望を託している。そして我々はみんないつかは必ず死ぬのだ」と語った。
 <この考え方をとる人々を現実主義者(realist)という。他方、この考え方に反対する人々をネオコン(neoconservative)という。現実主義者はブッシュ父大統領を支配し、ネオコンはブッシュ現大統領の第一任期を支配した。前者はプラグマティック(pragmatic)であるのに対し、後者はメシアニック(messianic)で丸で違う。>
 どちらも米国の民主主義において強力なルーツを持つ。
 現実主義者は、「外国と関わること(foreign entanglements)」を嫌った米国の初代大統領のジョージ・ワシントン(George Washington)やその早期の後継者であるところの、米国は「滅ぼすべき怪物達を捜しに」外国に行くべきではないと述べたジョン・クィンシー・アダムス(John Quincy Adams)にそのルーツを見いだす。
 <他方、ネオコンたる>米国例外主義者達は、ジェームス・モンロー(James Monroe)の「明白な使命(manifest destiny)」からウッドロー・ウィルソンの「米国は世界でただ一つの理想主義国家だ。・・仮に米国が人類に背を向ければ、人類は他に行くべき場所がなくなってしまう」との発言まで、渉猟すべき典拠に事欠かない。
 <クウェートは解放してもイラク侵攻はしなかったブッシュ父大統領と、国連をないがしろにしてイラク侵攻を敢行したブッシュ現大統領>の間に大部分の米国人の<対外政策>傾向がおさまる。若い方のブッシュは、天なる父よりも本当の父ともっと語り合うべきだった。そうしておれば、最近の歴史は異なった展開を示していたことだろう。・・・」
 (ファイナンシャルタイムス・ワシントン支局長エドワード・ルース(Edward Luce)
http://www.ft.com/cms/s/2/0498abf0-dddc-11dd-87dc-000077b07658.html 

3 感想

 自由、帝国、信仰の三つの鍵で米国を説明する、というのが、英国の「国営放送」の公定米国観である、ということです。
 この英国公定米国観をまず頭に入れた上で、私の米国観、というか、米国とは何か、についての私自身の探求の旅におつきあいいただければ幸いです。